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怪我の功名


柱if
同棲してる
募集箱より





「ごめん…」


深々と、それこそ床に額でも擦りつけんばかりに頭を下げる羽炭に慌てた。


「何やってんの!?女の子が土下座なんてするんじゃありません!!ほんと、大丈夫だからこれくらい…!ね?ね?だから顔を上げておくれよぉ…!」

「だって…」


なんとか土下座はやめさせれたけれど、羽炭からは未だに後悔と悲しい音が鳴り止まない。
そもそもの事の発端は、先の任務で羽炭を庇った事にある。背後を取られた羽炭と鬼の間に咄嗟に滑り込み、攻撃を受けた右腕が暫く使い物にならなくなってしまったのだ。といっても、全治二週間程ではあるんだけど、それでも羽炭は赫灼色の目玉からぼろぼろと涙を落としてやまない。それが光に反射して、目玉から鮮やかな金平糖が落ちているみたいだ、なんて関係ない事をぼんやりと思った。


「…私が助ける」

「え?」

「私が善逸の腕になる」


何やら決意したような顔で羽炭が呟いた。


「腕になるって…」

「片腕だと色々不便でしょ?だから、善逸が一人でできない事を私も手助けしたい」

「気持ちはありがたいけど、さっきも言ったけど、これは本当に羽炭のせいじゃないからね?俺が飛び出して負った怪我なんだから、羽炭が気負う必要ないの」

「気負うとか、そんなんじゃないよ。罪悪感は…正直、少しある…」

「ほらぁ…」

「けど!けど、ね…善逸の力になりたいって思うのは本当だよ。…ダメ、だろうか…」


ダメだろうかって…そんな…そんな捨てられた仔犬みたいな目で見られたらさぁ…頷くしかないじゃん…わかっててやってんの…?だとしたら確信犯だよお前…
…まぁ、羽炭に限ってそれはないか。だから余計にヴッ…ってなるんだよぉ…
へちょり、と眉を下げた羽炭を横目に、根負けした俺は小さく頷いてしまったのだった。

そして宣言通り。羽炭は俺の腕になろうとずっと傍を離れなかった。そもそも、腕一本なくても案外どうにでもなるのでは、と高を括っていた俺は、日常生活の大半を一人で送れない事に羽炭の手を借りているうちにようやく理解した。

着物を着るのにも一苦労だし、当然のように髪は結えない。屋敷の事はほとんど羽炭に任せっぱなしにしちゃって、え、俺役立たずじゃね…?って絶望した。


「はい、あーん」

「あー…」


…あ、だけど一つだけいい事があったかも。


「次は何がいい?」

「煮っころがし」

「はいはい」


あーん。そう言って俺の口元に差し出された煮っころがしを食べる。
利き手が使えませんからね、当然左手で箸が持てない俺は羽炭に食べさせてもらってた。天国すぎん…?羽炭にてずから食べさせてもらえるの…ねぇ…しかも毎日…。幸せすぎて天に召されそう。やめてまだ俺を連れていかないで!!


「怪我の具合はどう?」

「んー、順調に治っていってるみたいだよ。痛みも引いていってるし、固定具ももう少しで外せるって」

「そっかぁ…よかった…」


そう言って羽炭は心底安心したようにふにゃん、と笑った。ええええんか"わ"い"い"…


「ねぇ羽炭、膝枕してほしいな!」

「えー?もぉ、しょうがないな…どうぞ」

「わーい!」


ごろん、と羽炭の膝に頭を預ければ、すぐさま優しく撫でてくれる手に愛おしさが込み上げてくる。はー幸せ…片腕使えないのは不便だけど、羽炭がこうも毎日甘やかしてくれるのならこのままでもいいかも…なんて。

ウィヒヒ、と笑えば羽炭は「なんだこいつ」と言いたげに首を傾げた。だけど気にならないもんね!
なんて思いながら怪我をした方の腕に手を添えた瞬間、とんでもない事に気付いてしまった。
着々と完治に向かっている俺の腕。大変喜ばしい事だ。だけど…


「(治ったら羽炭にあーんしてもらえなくなる…!?) 」


そう、これである。この素晴らしい生活がなくなってしまうのは少し…いや大分切なかった。やだやだやだ!!俺まだ羽炭にあーんされたい!「善逸?どうかした?」いや、あの、どうもしない事ないけど、どうもしてないです…はい…
口に出そうものなら、羽炭から絶対零度の視線を浴びせられるプラス、確実にこれから先食べさせてもらえなくなる。俺は口を噤む事を覚えた。

それから数日後。蝶屋敷に(渋々)訪れた俺はカナヲちゃんから完治を言い渡され、だいぶへこんでいた。怪我が治ってくれて嬉しいよ…嬉しいんだよ…けどさ…違うんだよ…
とぼとぼ歩きながら屋敷に帰ると、ちょうど羽炭が庭で洗濯物を干していた。「あ、おかえり!固定具とれたんだね」そうにこやかに言う羽炭にふらふら〜っと近付き、ぽすん、背中から抱き締めればくすくすと笑い声が聞こえた。


「この数週間で随分甘えたさんになったんじゃない?」

「だって羽炭が優しいからぁ…」

「とりあえずこれ干しちゃうから、少しの間離れててね」

「えーやだ…」

「やだじゃない」

「じゃあ今日も食べさせてくれる?」

「治ってるんでしょ?」

「きっと上手く箸持てない」

「じゃあ尚の事練習しなきゃね」

「ええええ…」


ちっくしょう、羽炭ならきっとそう言うと思ってたよ…優しいけど、一度言ったら梃子でも曲げないからさぁ…
誰に言うでもなくしょげる。そうしたら今度は羽炭から小さくため息が聞こえて、さすがに呆れられたかも…だなんて思った。


「もぉ…仕方ないなぁ…」

「へ…」

「今日だけだからね」


今日だけ…今日だけ…今日、だけ…という事は、食べさせてくれるって事ですか。


「うひひ、やった」


笑いながら羽炭を抱きしめ直すと、呆れたような困ったような、それでいて優しい音が聞こえてきた。





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甘え癖もそうですが、甘やかせ癖がついたのは誰でしょう?


夢主を庇って怪我をした善逸を甲斐甲斐しく世話をやしていたら甘え癖がついた話

素敵なネタをありがとうございました!