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なな




ヘリに帰還して早々。善逸はソロモンの杖や何もかもを放り投げて私の腕を掴み、歩いた。「善乃、どこへ行くの」マリアの声にも無視をし、辿り着いた先は私と善逸に宛てがわれた部屋だった。
部屋と言っても、大したものじゃない。簡易的な2段ベッドとほんの僅かなスペース。ただそれだけ。
善逸は部屋に入るなり、鍵を閉めて私を下の段のベッドに放り投げた。


「わッ…!ちょ、善逸…!いきなり何す、…」

「うるさい、黙って」

「んッ…」


上から覆いかぶさられ、荒々しく口を吸われる。無理矢理唇をこじ開けられ、ぬるりと善逸の舌が入ってくる。それから逃げようと舌を引っ込めたりするのだけど、いとも簡単に私の舌を捕まえた善逸はちゅう、とわざとらしく吸った。
途端に、ぞくりと粟立つ背中。


「ふぁッ…あ、んぅ…」

「……なんで」

「…?」

「なんで、炭治郎がいるって言ってくれなかったの…」


怒ってる匂い。それに混じって泣きそうな、悲しい匂い。私への口付けをやめないまま、合間合間に言葉を紡ぐ善逸が今にも泣き出しそうで、胸が痛くなった。


「なんで何も俺に言ってくれなかったんだよ…!独りにしないって言ったくせに…!なのに炭治郎に手ぇ伸ばしてさ…!」

「善逸ッ…!待って…あッ」


するり、善逸の手が服の中に入ってきた。どうにかやめてもらおうと善逸の手を掴むものの、どこにそんな力があるのか逆に抑え込まれて、その辺に放ったらかしにされてたタオルで手首をベッドに括り付けられた。


「や、やだ善逸…!やめて…」

「やめない!」

「ッ…」

「だって、やめたら羽炭が俺から離れて行っちゃう…炭治郎のとこに行ってしまう…そんなの嫌だ…!いくら炭治郎でも羽炭はあげない!」


ぼたぼたと大きな目玉からしとどに涙をこぼす善逸。私の顔に降り注ぐそれを拭ってやりたくて、でも善逸が縛り上げているからそんなことできなくて。


「善逸…」


できるだけ優しく名前を呼んでやる。びくり、善逸の肩が跳ねた。俯いて表情はわからないけれど、きっとかわいい顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣いているんだと思う。「善逸」もう一度名前を呼んだ。今度はちゃんと顔を上げて、私の目を見てくれた。

昔とちっとも変わらない、綺麗な稲穂色の目。


「炭治郎の事を黙ってたのは謝る。ごめん…」

「…そんなんが聞きたいんじゃない。俺は…」

「うん、わかってる」


私は善逸に全てを話した。隠していたわけではない。けど、言えなかったのも事実。
生きてるか死んでるかもわからない炭治郎の事を善逸に言うのは憚られた。だから言えなかった。結果炭治郎は生きていたわけだけど、世界を敵に回したテロリストが愚かにもお日様に手を伸ばしてしまった報いは大きい。

ぽすり。私の腹に跨っていた善逸が胸に倒れ込んできた。


「………」

「…どうであれ、善逸を不安にさせてしまった事には変わりない。ごめんね」

「…もう、いい…俺もごめん…俺の事ばっかり羽炭に押し付けてた…。羽炭だって、死んだと思ってた兄貴が生きてたら嬉しいもんな…」

「…うん」

「あ…手…ごめん…痛かっただろ…?」

「タオルだからそんなに痛くないよ」


善逸は一度体を起こしてタオルを解いてくれた。けど、すぐさま私の胸元に逆戻り。
ぎゅーッと痛いくらい私の腰に手を回し、抱きしめる善逸のたんぽぽ頭をぽんぽん、と撫でてやる。「羽炭…」「ん?」善逸が零した。


「俺、羽炭の音好き…」

「善逸はいつもそう言ってくれるよね。…ねぇ、どんな音してる?」

「い、言わせないで…!」


そ、そんな言えないような音を出しているのか私は…。
人知れずショックに戦慄いていると、ほんのりと照れたような匂いが善逸からした。


「…羽炭の音は暖かいんだ。ちっとも変わらない、誰かを包み込んでくれる、泣きたくなるような優しい音…」

「…そっか」

「…俺、羽炭が好き…」

「…うん、私も」

「大好き…」

「うん…」

「…あい、してる…」


あぁ、善逸。君のそれはきっと、違うものだ。


「羽炭、続きしてもいい?」

「…いい、よ」


ただそばにいたのが私しかいなかったから、それを恋愛感情と間違えているだけ。私はそれで善逸を縛りたくはない。
…けれど、口にできない弱虫な私は、首筋に舌を這わせてくる善逸を抱きしめる事しかできなかった。