×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
家族と仲間の話




「俺!!お前みないな奴とは口きかないからな!!」


同時に踵を返して猛ダッシュ。傍から見からかなり間抜けで、鬼殺隊にあるまじき行動だってわかってる。もはや条件反射と言っても過言じゃないこの行動に木箱の中から羽炭ちゃんがどんどん!と音を立てた。やったらめったらくそ強い顔面蜘蛛の鬼の剛腕に吹っ飛ばされた矢先での出来事だった。

ごめんなさいね!!けど!!無理だって俺には無理!!あの鬼子供の姿してるけどさ?!音がエグい!!今まで遭遇してきた鬼と比べ物にならないくらい酷い音してるから!!え?俺死ぬの?死んじゃう?


「うわぁ!!」


不意に耳元で風を切り裂く音がした。咄嗟に足を踏ん張ればあと3、4歩のところに大きく糸が張り巡らされていて、気付かずそのまま突っ込めば俺の体はバラバラになっていただろう。え、怖ッ!!


「どこに行くの?」


尻もちをついた俺に背後からゆったりとした口調で声がかけられる。その声を聞いた瞬間、どッと全身から冷や汗が溢れ出た。
恐怖から体が震える。振り向きたくない。だけど、俺の体は自分の意思と関係なくゆっくりと動く。振り返って、鬼の姿を視界に入れて…そこでようやく、子供の鬼の足元に別の女の子の鬼が蹲っているのに気付いた。
押さえた顔面にはたくさんの切り傷があって、そこから夥しく顔から流れ落ちる赤色に目を剥いた。


「え、な、なんで…仲間なんじゃないの…?なのに…」


呆然と呟けば、子供の鬼は不快そうに顔を歪める。


「仲間?そんな薄っぺらなものと同じにするな。僕たちは家族だ。強い絆で結ばれているんだ。…それにこれは僕と姉さんの問題だよ。余計な口出しするなら刻むから」


家族、と子供の鬼は言った。家族…家族…。正直、俺には家族の在り方がわからない。いた事がないしいなかったから。一人、ぽつねんと立ち尽くした道端から仲睦まじく歩く家族を眺めるだけ。ただそれだけ。
…だけど、そんな俺でもわかる事がある。


「…お前らのそれは、家族じゃない…」


どうすればあんな風に笑えるんだろう。どうすればあの子供みたいな音が出せるんだろう。そう思いながら侘しく街の家族の音を聞いた。

俺が街で聞いていた家族の音は、暖かくて、幸せな音たちばかりで、だけど、目の前の2人からは全然そんな音なんてしない。女の子の鬼からは強い恐怖の音。子供の鬼からは憎しみと、嫌悪と、そういった感情を混ぜ合わせた酷く歪んだ音がする。


「家族も、仲間も、強い絆で結ばれているなら、どっちも同じように尊いはず…血の繋がりがないと薄っぺらだなんて、そんな事はない…」


そりゃあ俺だって、家族のなんたるかが全部わかるだなんて思ってなんていない。むしろわからない事だらけで、だけど、そんな俺にも仲間なんでものができちゃったりしてさ。
伊之助は相変わらずあんなんだけど、気兼ねなく言い合えるのってきっとあいつだけで。羽炭ちゃんは、いつもは優しいけど時々すごく怖い。けど、それはちゃんと理由があって俺を怒るのであって、昔出会ってきた大人たちみたく理不尽に怒ったりなんてしない。

言い合ったり、支え合ったり、笑って、時々喧嘩して、仲間も家族もきっと同じなんだと思う。お互いを思いやるからこその繋がりは何者にも変え難い大切なもの。
…だからこそ、目の前の子供の鬼が言う事に納得できない。


「こんなもの…こんなものが絆であるはずがない…そんなもの、偽物だ!」


瞬間、子供の鬼が纏う空気が変わった。肌を引き裂かんばかりの鋭い殺気と、全身に重くのしかかる威圧感に骨が震えた。「なんて言ったの?」地を這うような声に1歩、後ずさる。


「お前…今、なんて言ったの?」

「ッ…」


怖い。ほんと、怖すぎて死にそう。めっちゃ逃げたい。刀も何も放り出して逃げれたらどんなにいいか。…だけど、背中に感じる重みがそれを許さない。こつん。木箱から音がした。

…大丈夫、いや、大丈夫じゃない。大丈夫じゃないけど、大丈夫。約束したんだ。羽炭ちゃんを絶対に人間に戻してあげるって。珠世さんとも、羽炭ちゃんを匿ってくれるって言ってくれた珠世さんの申し出を断ってまで一緒にいると決めたのは俺だ。

全身震えて、足は地面に縫い付けられたみたいに動かなくなって、だけど、それでも腕は刀を握っている。

息を吸う。吸って…吸って…吸って…前を見据えた。


「何度だって言ってやるよ、お前のそれは偽物だって!」