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「無事か、お前たち!」


朝日が昇る地平線を横目に項垂れる俺たち。潜水艇のハッチをあけ、出てきた司令に俺たちは力なく顔をあけだ。


「了子さんと…たとえ全部が分かり合えなくても、せめて少しは通じ合えたと思ってました…」

「通じなければ、通じ合うまでぶつけてみろ!言葉より強いもの、知らぬお前たちではあるまい」

「言ってる事、全然わかりません…!」


こぼす響に俺たちは思わず苦笑いをした。「炭治郎」そんな中、司令が俺を呼ぶ。


「…あの少女は、お前が探していると言う双子の妹で間違いないんだな」

「…はい」


脳裏に浮かぶのは、シンフォギアを纏った羽炭と、女の子に転生してしまった古い友人の姿。まさか善逸までこの世界に生まれ変わっているなんて思わなかったけれど…


「(俺や羽炭が前世の記憶を持って生まれ変わっていたのなら、善逸も例外はない、か…)」

「そ、そうだ…!ねぇ竈門くん、竈門くんならあの子を止められるんじゃない!?双子なら、まだ分かり合えるかもしれないよ…!」


そう言ってくれる響に、緩く首を横に振る。「そんな…」呟く彼女の優しさに、ほっこりと胸が暖かくなった。伊之助ふうに言えば、ほわほわする、だろうか。


「昔は羽炭が何を考えているのか手に取るようにわかってた。一つの魂をわけた双子だったから。…だけど、今は羽炭が何を考えているのかわからない」


そしてもう一人。善逸。
前世で共に戦った戦友は、羽炭をとられまいと俺に刃の切っ先を向けた。何があいつをそうさせているのか、羽炭にそこまで執着する理由は何か。
兄として、複雑な心境ではある。けれど、のっぴきならない事情があるのだろうというのは何となくわかった。


『私には羽炭しかいない…!』


先程の善逸の号哭が頭の中で反芻する。


「羽炭しかいない、か…」

「…とにかく、お前たちは今日も学校があるだろう。送ってやるから、中で仮眠でもしてろ」


司令の心遣いに甘えて、俺たちは潜水艇の中に入った。
からり、左耳に揺れる耳飾りに触れた。


「…まさかお前の妹だったなんてな」


仮眠室に向かう途中、前を歩くクリスがそう零した。


「あぁ。…俺の大切な、たった一人の妹だ」


数年前、俺たちの前に現れたノイズが家族を殺した。母さんも、禰豆子も、花子も、竹雄も、茂も、六太も…
羽炭までもが、死んだと思っていた。信じたくはなかったから、あの時俺を助けてくれた司令に頼み込んで、学生ながらにここではたらかせてもらっているわけだが。


「…見たことあると思ったんだ。その耳飾り」


バツが悪そうにぼやくクリスは、少し申し訳ないと思っているらしい。匂いがそう語ってる。おおよそ、俺の妹だと知ってもなお銃を向けた事を悔やんでいるのかもしれない。


「クリスは優しいな」

「はぁ!?な、何言ってやがるてめぇ…!あたしは別に…!」

「気にしてくれたんだろ?ありがとう。…だけど、大丈夫。絶対に羽炭は取り返してみせる」

「お前…」


羽炭だけじゃない。できる事なら、善逸も。異様に独りを恐れていた戦友に、もう一人じゃないのだと、羽炭だけじゃないのだと教えてあげたい。
あの時のように…





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☆こそこそ話

☆花札のような耳飾り
炭治郎と羽炭の父親から託された形見。炭治郎が左耳に、羽炭が右耳に付けている唯一二人を繋ぐ絆である。