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甘えん坊


募集箱より





「羽炭〜!」


あはは、うふふ。まるで語尾にハートでもついているのかと思うほど甘ったるい声に団子を食べる手を止めた。
振り返ると、顔中の筋肉が削げ落ちたんじゃないかってくらい緩ませた善逸がくねくねと体を動かしていて、あまりの気持ち悪さに吹き出しそうになった団子を慌てて飲み込んだ。


「善逸、どうしたの?その、すっごく気持ち悪いよ…?」

「んふふ、ふふッ、ウィッヒッヒッヒ」


え、ちょ、本当に怖いんだけどどうしたの…?心配を通り越していっそ恐怖を覚える善逸の笑いにドン引きながらもとりあえずもう一度「どうしたの?」と聞くと、今度は打って変わってもじもじと、それこそ顔を真っ赤にして口を噤んだ。

ほんと、どうしたんだこの人は。気持ち悪く笑ったり、かと思えば、何かを躊躇するかのように視線をうろつかせたり。
すん、鼻を鳴らした。強い期待の中に、甘い匂い、それから、羞恥と、躊躇、その他諸々。一言じゃ言い現れないほどたくさんの匂いを纏わせた善逸が何をしたいのか、そして私に何をしてほしいのか何となく理解した。

全く、こういうところは本当に不器用だ。


「さぁ来い!」


パアアンッ!!と膝を叩いてから善逸に向かって大きく腕を広げる。さぁ来い、ドンと来い。むん!善逸を見つめればぽかり、と口を開けていたけれど、次の瞬間には幸せだとか、嬉しいって匂いを露骨に纏わせながら私の胸に飛び込んできた。
というか、普通逆じゃなかろうか。


「ハアアアーー……羽炭の音好きぃ…」

「そう?」

「すっごい落ち着く…」


ぐりぐり、ぐりぐり。顔を胸に押し付けてくるから少し気恥しい気もするが、本人は至って真剣なので黙っていよう。こういう時に甘露寺さんのような胸があればいいなって思うけど、生まれ持ってのものだ、諦めよう。


「羽炭、あーん」

「もぉ、抱きついたままじゃ食べさせようにもできないじゃない」

「頑張って」

「人ごとみたいに…」


どうやら善逸は団子をご所望らしい。けれど、びったりと胸に張り付いているからだいぶ難易度が高いのだけどどうすればいいのだろうか。
とりあえず善逸の顔に団子を近付けてみた。…あ、食べた。
ちょいちょい自分も団子を頬張りながら善逸に分け与えているこれは、さながら親鳥が子に餌付けをしているみたいだな、なんて。


「あの、さ…」

「ん?」

「あの、えっとぉ…」

「なぁに?もごもごしてちゃわかんないよ。あ、もしかして別の団子がよかった?でもごめんね、三色団子しかないや」

「いやそうじゃなくて…え?俺どんだけ食い意地張ってるやつだと思われてんの…?」

「え?違うの?」

「違うからね!?」


なら残りは私が食べよう。
串に刺さるあと二つをまるっと口の中に頬ばれば、胸元から「ア"ア"ア"ア"ア"ッッ!!ちょッ、それは一個ずつわけっこするやつでしょ!?」いらないって言ったじゃん今。


「ッ〜…もおおおおおおー!!馬鹿!!」

「え、何?なんで今罵られたの私」

「羽炭の馬鹿!!にぶちん!!」

「えー…」


散々な言われようである。わけも分からず善逸の旋毛を眺めていたら、腰に回る腕の力が強くなったような気がした。


「……て」

「何?今なんて言っ…」

「ぎゅーッて…して…ください…」

「た……の……え…?」


ぽろり。手に持っていた串が落ちた。脳内に飛び込んできた言葉が頭の中でやまびこのように木霊する。ぎゅーッて…ぎゅーッてあんた…普段問答無用でしてくるのに、そんな…
よくよく見ると、金髪から覗く善逸の耳が真っ赤になっていて、きゅううう、と胸が締め付けられたように苦しくなった。え、うそ…善逸が…かわいい…

普通逆だろとか、色々思う事はあったけど、なんか、もうどうでもいいかもしれない。
お望み通りにぎゅーッ!!と、それこそ力いっぱい抱きしめてやった。


「今日は甘えただね」

「そういう気分」

「そっかぁ」


なんて言いながら、素直に言えなかったくせに。そういうところだぞ。
存外さらふわな善逸の髪に頬を擦り寄せる。ぴくッ、と肩が跳ねたような気がしたが、気のせいだろう。


「私ね、善逸の匂い好きだよ」

「ンヴォッ…!に、匂いって…俺変な匂いしてない…!?大丈夫!?汗臭くない!?」

「うん、大丈夫。なんかね、善逸だー、って匂い」

「どういう事!?」


どういう事って聞かれても、そうでしか形容できないんだから仕方ない。


「つまり、落ち着くって事。善逸が私の音が好きって言ってくれるのと同じように、私も善逸の優しい匂いが好き」

「…………………………」

「善逸?」

「あの…今こっち見ないでもらえますか…」


私の視線から隠れるように胸に顔を埋める善逸だけど、残念かな、耳が丸出しである。あと匂い。こっちがたじろぐほど照れた匂いに私まで感化されて、少しずつ顔が暑くなっていくのがわかる。

もう、本当…そういうところ。


「善逸、大好き」

「う"ー…俺もぉ…」





「あの…俺らもいるんですけど…」


偶然居合わせていた坂田さんと村田さんが、心底疲れたように呟いた。





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甘えん坊な善逸をとことん甘やかす話。
ちゃんと甘やかせれているのだろうか…!?

素敵なネタをありがとうございます!