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善逸とおうちデートする話


もし善逸が一人暮らしをしていなかったら
募集箱より





「お邪魔します」


律儀にそう言う羽炭に笑いながら先に俺の部屋に上がってもらった。台所で二人分のお茶とお菓子をお盆に乗せながら、俺は人生初の“お家デート”なるものに緊張していた。いつもは俺が羽炭の家に遊びに行く事が多いから、俺ん家の玄関に女の子の靴があるって考えるだけではちゃめちゃに幸せすぎた。
しかも今日は爺ちゃんも獪岳もいない。あえてその日を選んで羽炭に来てもらったんだ。誰にも邪魔される事なくいちゃいちゃラブラブしてやるんだ。


「羽炭〜、お茶持ってきたよ!あ、麦茶しかなかったんだけどよかった?」

「うん、ありがとうね、善逸」


お家デート。この日のために俺は様々なネット情報を駆使してプランを練ってきたのだ。ネット社会様々である。羽炭に限って、つまらなかったから別れる、みたいな事はないと思うけど、やっぱり好きな子には楽しんでもらいたいからさ。


「ねぇ羽炭、映画みよう!映画!」

「あ、じゃあ私のスマホをテレビに繋げたらたくさん映画みれるよ。プライム会員だからさ」

「あれ、羽炭って映画めっちゃみるタイプだったっけ?」

「下の子たちがみたがるから入ったの」

「なるほど」


ここでも羽炭のお姉ちゃん力は遺憾無く発揮されているらしい。Bluetoothで俺ん家のテレビと羽炭のスマホを接続させて、映画欄をスクロールさせる。
無難に純愛ものの邦画でもありだけど、俺としてはあわよくばそういう雰囲気に持っていけたらだなんて下心を抱えているわけで。

ならばホラー系で、怖がる羽炭を慰めながらそのままアッー!な展開にさせるというのはどうだろう。


「あ、ねぇ善逸、これは?」

「何々〜?……………え」


羽炭が指をさす映画のタイトルを見て、口元が露骨に引き攣ったのがわかった。





『キャー!!』

『やめろ…!!やめてくれ…!!あ"あ"あ"あ"ああ』


テレビから絶え間なく響く恐怖に引き攣った悲鳴に、俺の意識は消える寸前である。
羽炭が選んだ映画は、まさかのスプラッターホラーであった。いや、ホラー系選んでくれて結果的に万々歳なんだけど、スプラッターって…しかもこれ…最近話題になったピエロが追っかけてくるやつじゃん…


『ギャアアアア!!』

「…(びくぅ!)」


テレビの中で誰かが叫ぶ度に肩が揺れる。本当は俺も叫びたい。叫んで羽炭に抱き着きたい。けど、ほんの少しだけあるなけなしの雀の涙ほどのプライドが俺を押しとどめている。
クッションを抱きしめ、ちらッと羽炭を盗み見た。


「………」

「(なんかめっちゃ普通…)」


至って普通だった。なんなら、卓袱台に置いたお菓子をぽりぽりと食べながら平然と映画をみる羽炭に一種の恐怖が湧いた。え…?だって、これ…え?お前なんでそんな普通なの…?女の子ってさ、こういうの苦手な子多いだろ…?お前…え?

ほんの少しでも羽炭が怖がっていたのなら、俺は素直に泣きついていただろう。だかしかし、そう、だがしかし!羽炭は恐がっていないむしろ!!普通に鑑賞している!!耐えろと…?この恐怖に一人で耐えろというのか!?


「(やましい事考えた天罰だ、きっと…)」


ぎゅ、とクッションを抱き直し、さりげなく座る位置を羽炭の方にずらした。体にあたる彼女の体温に少しだけ心に余裕が出てきたような気がした。

そうして映画は進んでいく。ピエロに追いかけられ続け、精神的に疲れた主人公とヒロインがとある廃ビルの中で情事に及ぼうとしている場面だった。突如始まったラブシーンに戸惑いつつも、ほッと胸を撫で下ろす。よかった、これで羽炭といちゃいちゃできる。
さり気なく、膝の上に置かれた羽炭の手を握ろうと手を伸ばす。…が、俺の手が羽炭に触れる直前、「あ」と羽炭が声を漏らした。


「死亡フラグ」

「…………え?何?なんて?」

「ホラー映画でえっちするとね、高確率で死ぬってしのぶさんが言ってた」

「そ、そんな…またまたぁ…きっとたまたまだよ、たまたま。しのぶさんってば冗談ばかり…」

『イヤアアアアア!!ジョン!!ジョンー!!!』

「………………………」


ほ、本当に死んだああああああ!!!嘘でしょ嘘でしょ嘘すぎるでしょ!!!なんでなの!?なんでそういう事しちゃうの制作社!!!
ピエロに惨殺される主人公に白目を剥きかけた。

もう俺の中での恐怖のパラメーターはマックスである。怖い。めっちゃ怖い。承諾するんじななかった…ねぇジ○リみようよ…ディ○ニーとかさ…ほのぼのしたのみよ…?ね…?

堪らず羽炭にそう声をかけようとした瞬間…


「おいカス!てめぇ俺のポテチ食っただr」

「キャアアアアアアアア!!!!!!」

「うるっせえ!!!!!」


突如として開けられた部屋のドアに俺のパラメーターはついに振り切った。思いの限り叫び声を上げて羽炭に飛び付く。「うわッ」まさか飛びつかれるとは思っていなかったらしい羽炭が床に倒れ込む。俺は羽炭にのしかかったまま、胸に顔を押し付けてしとどに泣いた。


「合図合図合図…!合図をしてくれよ…!!心臓がまろび出るかと思っただろうが…!!」

「知るかんなもん」

「あ、獪岳おかえり。お邪魔してます」

「おう。…つか、お前こんなんでビビってんのか」


ようやく流れ始めたエンドロールに映る映画のタイトルをみて、獪岳は愉快だと言わんばかりに顔を歪めた。お前の!!そういう所!!嫌い!!


「善逸、ずっとビクビクしてたもんね。怖いなら怖いって言えばよかったのに」

「は!?こ、怖くねーし!!ジブ○見たかったとか思ってませんけど!?」

「思ったんだ」


くすくすと頭の上から聞こえてくる笑い声にむ、とする。だって、羽炭がスプラッター平気だなんて知らなかったんだもん。


「それより、ごめんね獪岳。このポテチ獪岳のだったんだね。知らずに食べちゃった」

「いや、もういい。また買ってくる」


そう言って獪岳は部屋を出ていった。…なんかさ、なんかさ、あいつ羽炭にだけみょうに優しくない?あれが食べたの俺だって言ったら半殺しにしてたよね?なんなの?

詰めていた息を吐く。なんかさ…どっと疲れたよ…もう俺、ホラー映画見た後にえっちしたいだなんて思わない…


「なんか、ごめんね?」


ぽす、と俺の頭に手を置いた羽炭が呟いく。ばッ、と勢いよく羽炭の胸から顔を上げると、どことなく申し訳なさそうな顔をした赫灼色が俺を見つめていた。


「家だと弟たちが怖がるし、禰豆子もこういうの得意じゃないから、善逸がみるの付き合ってくれて嬉しかったんだ」


もおおおお…すぐそういう事言う…


「確かに俺、あまりホラーとか得意じゃないし、正直に言うと、ちょっと邪な気持ちもあったわけでして…」

「邪…?」

「あ、あわよくば羽炭とそういう事したかったの!!けどもう無理だから!!あんな怖いの見た後にそんなのできない!!しかも!!死亡フラグとか言うから!!余計に怖い!!」

「あれは映画の中の話で、実際はそんな事ないってば」

「だとしても!!怖い!!」


ほんと、情けなさすぎでしょ俺…泣きたい…いや、もう泣いてるけども…「じゃあ今からジブ○みようね。何がいい?」「もの○け姫…」手馴れたようにプライムを検索する羽炭が頼もしすぎる…


「善逸」

「何?…んッ…え?」


一瞬だけ唇を掠めた温もりに目を見開いた。今、キス…えッ…?


「私がいるから怖くないよ」


もーーーーー何それーーーー……羽炭かっこいい…惚れ直した…俺の彼女はかわいくてかっこよかった…

それから俺たちはひたすら映画をみて、泣いて、羽炭が帰る頃には怖いピエロの事なんてすっかり忘れた俺がいた。





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善逸の家でお家デートをする話。

なお、この話に出てきた映画の内容は既存のものではなく、管理人が適当に作ったピエロが出てくるラブシーンありのホラースプラッターです。

素敵なネタをありがとうございました!