×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





マリアに宿るフィーネの魂は、リィンカーネーションと呼ばれる遺伝子にフィーネの刻印を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システムである。

私たちレセプターチルドレンは、いずれも魂にフィーネの刻印があるとされて集められた孤児の子供。けれどマリアはそれに選ばれた。再誕したフィーネの魂の器として。

…されど、私たちもそれと似たようなものなのかもしれない。
フィーネの魂ではなく、大正を生き抜いた私たちの魂の亡霊が胸に刻まれているのだとして。


「なん、で…」


SONGの装者をドクターウェルから引き剥がし、マリアがネフィリムを回収したのを横目に立ち尽くす。
潜水艇から飛び出してきた赫灼に目を奪われた。


「か、竈門くん…!出てきちゃ危ないよ!」


ガングニールの彼女が叫ぶ。私と同じ顔。髪。瞳。父さんから託されたもう一つの耳飾りを左耳に携え、彼…私の片割れ、竈門炭治郎は私たちの前に立ち塞がった。


「羽炭…」

「なんで、だって…死んだと思った…離さないと誓った手が離れて、この世界のどこにも、もういないと思っていたのに…!」

「…助けてもらった。SONGの人たちに、あそこにいる風鳴翼さんと、もう一人…。羽炭の手を離してしまったあの時、ひたすらに後悔に苛まれた。俺が離さなければ、俺がもっとしっかりしていれば、家族も誰も失うことはなかったんじゃないかって」


からんッ。手からアームドギアが滑り落ちた。


「きっと羽炭は生きていると信じて、司令に頼み込んでSONGのバックアップスタッフとして働かせてもらっているんだ」


悔しそうに、けれど、心底嬉しそうに笑う炭治郎は私のよく知る大切な片割れだった。


「生きてくれていて、よかった…!一緒に帰ろう…!」

「たん、じろ…」


炭治郎が差し出す手に、今すぐ何もかもをかなぐり捨てて縋り付きたかった。纏うギアも、背負う指名も全部放り出して。
一歩、足を踏み出した。


「だめ…!」


ぐいッ、と後方に腕を引かれた。我に返って振り返れば、善逸が今までに見たことがないほど怖い顔で炭治郎を睨みつけていた。


「君は……ッ!もしかして、善逸か…!?その姿は一体…」

「…そうだよ、炭治郎。久しぶり。まさかお前まで転生してたなんて思わなかったよ」

「善逸、君は…」

「…炭治郎、昔のよしみで聞いてほしい。…もう私たちに関わらないでくれ」

「善逸、羽炭…!」


私の腕に抱きつく善逸は炭治郎を牽制した。彼らしくない拒絶の言葉。戸惑いながらも、炭治郎は私たちに手を伸ばした。

…が。


「来るなぁ!!」


打ち付けたミョルニルから迸る電撃が炭治郎に向かう。それが炭治郎に当たる寸前でガングニールの装者が炭治郎を担ぎあげてその場を飛び退いた。


「炭治郎…!」

「どうしてそんなことするの!?あなたたちは兄妹で、友達なんでしょ!?事情はよくわからないけど、傷付け合うなんておかしいよ…!」

「うるさい!!君に何がわかるんだよ!!」

「ッ…」

「私には羽炭しかいない…羽炭だけしかいらない…!炭治郎が羽炭を連れて行ったら、私はまた独りになる…!!いくら炭治郎でも、私から羽炭を奪う事だけは絶対に許さない!!」

「善逸…」

「……炭治郎」


私は落ちたアームドギアを拾った。拾って、槍と展開したそれを炭治郎に向けた。


「羽炭…!」

「ごめん、炭治郎。私たちは、正義では守れないものを守るために世界に牙を剥く。…何より、もう善逸を…善乃を独りにできない…」


ステルスを解いたヘリが私たちの頭上に現れる。そこから垂らされたロープにドクターウェルとソロモンの杖をそれぞれ抱えて飛び掴まる。「羽炭ー!!」炭治郎が私の名前を叫ぶ。けど、振り返らない。振り返れない。だって、 私たちは世界に宣戦布告をしたテロリストだもの。昔と同じように、誰かのために戦える炭治郎の手をもう握れない。

あぁ、だけど…


「生きてて、よかった…!」


それだけが私の心の救いだった。





---

☆こそこそ話

☆レセプターチルドレン
フィーネの魂を受け止める器として集められた観測対象の総称。
病院記録等の個人情報から洗い出された器の候補者たちは、 社会関係性の薄い、 いわゆる「身寄りのない人間」(とくに乳児や幼児)を中心に絞り込まれていく。

☆F.I.S.
正式名称は、米国連邦聖遺物研究機関。