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お前はお呼びじゃない!


共に柱
婚約してる
名前のあるモブ隊士がいる
募集箱より




俺は困っていた。ひじょーーに困っていた。晴れて羽炭と結婚の約束をして、婚約者になったはいいものの、どういうわけかそんな羽炭に腹立たしくも毎日言い寄る輩がいた。


「羽炭さん、羽炭さん!この近くに新しくできた喫茶店があるんです!羽炭さんさえよければ、任務終わりに一緒に行きませんか?」

「喫茶店かぁ、あまり行ったことないや」

「だったらぜひ行きましょう!俺、奢ります!」

「いいよ奢らなくても。太一のおすすめ教えてくれる?」

「は、はい…!」


おかしい。本当におかしい。なぜなら俺たちが婚約していることは恐らく鬼殺隊全員が認知している事実であり、それは今目の前で羽炭に微笑まれて顔を真っ赤にしている隊士も例外ではないはずなのに、なぜこいつはあたかも「そんなの関係ねぇ」と言わんばかりに人様の(未来の)嫁を口説いているんだ。しかも俺の目の前で。俺の目の前で!!


「ちょっと!?前からずっと思ってたんだけど、毎日毎日うちの羽炭を口説くのやめてくれる!?」

「あなたには関係ないでしょう」

「いや関係あるからね!?俺羽炭の恋人!!未来の旦那!!わかる!?」

「わかりますよ。わかっていますが、それと納得するのは意味が違います。俺はあなたが羽炭さんの婚約者であることに納得していませんし、そもそもヘタレ柱だなんて呼ばれているようなあなたに今後羽炭さんを男として守っていけるとは思いません」

「…………………羽炭ぃぃぃぃ…!!」


あまりにも多すぎる言葉の暴力に羽炭に泣きつけば「そんなんだからヘタレ柱だなんて言われるんです」と太一に言われた。悔しぃぃぃぃ…!!


「見たでしょう、羽炭さん!この人はこんなんなんです!すぐにあなたに泣きつくようなヘタレ柱なんです!!」

「た、太一、落ち着いて…」

「だから、こんな人やめて俺にしませんか!!」

「は?」


太一の言葉に思いのほか低い声が出た気がした。いやだって、は?今なんつった?こんな人やめて?俺にしませんか?はぁーーーーー?「善逸…」メラメラと怒りの炎を灯しだした俺に気付いた羽炭が、制止するように名前を呼んだ。けれどもだ。羽炭の言葉を借りるなら、だとしても。俺はこいつに言わねばならない事がある!!


「お前、本当に…ーー」

「ちゅんちゅーん!」

「ぶへッ」


べち!唐突に顔面に何かが張り付いてきた。聞き覚えのあるこの鳴き声はチュン太郎なんだろうけど…ここに来てすごく嫌な予感がする…。え?そんな…違うよねチュン太郎…?ね?


「ちゅん」

「もおおおおおおなんでなの!!昨日やっと長期任務終わらせて!?羽炭といちゃこらできると思ったのに!?嘘すぎじゃない!?」

「よたったですね任務。その間羽炭さんは俺に任せて、鳴柱はさっさと行ってきてください」

「任せないし任せるつもりないから!てか!お前も一緒に行くの!」

「は?」

「だから!!合同任務!!」


ぐしゃり、伝令の手紙を握り潰した。俺の嫌な予感は当たっていたけれど、それが二段構えだなんて聞いてない。ほんと…


「嘘すぎ…」

「いやそれ俺のセリフ」





鳴柱はヘタレだ。
すぐに泣く。喚く。縋り付く。鬼殺隊で、鬼殺隊を支える柱の一人だというのに、あんなにも情けない姿を見せられては“ヘタレ柱”だなんて異名がついたっておかしくない。現についている。「この機会に善逸の事をもっと知ってみて?」羽炭さんにそう言われなかったら絶対について行かなかった。

俺が一番ムカつくのは、任務のたびに嫌だと駄々を捏ねながら羽炭さんに泣きついているところだ。
俺は羽炭さんが好きだ。とある任務で怪我をして、あともう少しで死ぬ、そんな時に彼女に助けられて一目惚れしてしまったのである。
羽炭さんには恋人がいた。それは鬼殺隊全員が知る事であり、けれどその相手があの鳴柱だと知った時には男の趣味を疑った。


「………………」

「………………」


暗い山道を歩く俺と鳴柱の間には当然会話なんてものはない。二人分の足音が響くのを聞いて、これが鳴柱じゃなくて羽炭さんならどれほどよかったかと思わずため息を吐いた。


「…………あのさ」


唐突に鳴柱が話しかけてきた。「なんですか」少しだけぶすくれて返事をすれば、隣からギリィッと歯軋りが聞こえた。そういうところが子供っぽいんてすよ。


「なんでお前はさ、羽炭が好きなの」

「は?なんですか急に」

「いやだって、普通に気になるじゃん。自分の恋人がどこぞの馬の骨かわからない奴に言い寄られてたら」

「…助けてもらったんですよ、あの人に」


ただ助けてもらっただけなら惚れなしない。感謝するだけで終わるだろう。…だけど、羽炭さんは微笑んでくれたのだ。死が目前に迫っていた絶望感の中、柔らかく、お日様のように笑いかけてくれてどれほど救われたか。
あの時の羽炭さんの笑顔を思い出していると、不意に眼前に腕が差し出される。「なんですか?」そう言おうとして、しッ、と短く囁いた鳴柱が注意深く周囲を見渡しているのに気付いて俺もすぐさま警戒態勢を取った。

この近くに鬼がいる。ゆっくりと刀を抜いて、鬼の気配を探ろうと意識した瞬間、俺の刀の切っ先が鳴柱に向かって動いた。


「ギャーー!!何!?いきなりなんなのお前ほんと…!!いくら俺が嫌いだからって今この状況でそれはなくない!?」

「ち、違います!確かにあんたの事は嫌いですけど…!」

「おまッ…」

「体が勝手に動くんです!!」

「はぁ!?」


ぶん、ぶん、と自分じゃない動きで鳴柱に向かって刀を振り続ける体を止めようとするが、どういうわけか全くもって自由がきかないのだ。ぶんッ!と大きく刀を振るった時、ふと自分の腕にキラキラと光る糸がついていることに気付いた。なんだこれ、いつの間に…


「うわああああ!!こいつ那田蜘蛛山にいた蜘蛛じゃんか!!なんでこんな所にいんの!?」


那田蜘蛛山。聞いた事がある。下弦の鬼がいた山で、何人もの隊士が派遣されたけれど、ほぼ全滅に近い状態の最悪な任務だったと。その時のって言う事は、、鳴柱もその任務に行っていた…?


「お前らのせいで…!」


どこからか少女の声が聞こえた。


「お前ら鬼殺隊が累を殺したせいで、あたしはあの山を追われる事になったんだ!!」


体の動きが激しくなる。それに伴い、関節の可動域を無視した無理な動きに骨が軋み、顔を顰める。


「お前らさえ来なければ、頚を斬られる恐怖に震えなくてよかったのに!!お前らなんて、お前らなんて…!!」


ーーごきッ


「ッー!!」


あまりに無理な動きをさせられ続けて、ついに腕の骨が折れた。形容できない激痛に声にならない悲鳴を上げる。そして鬼は、そんな事おかまいなしと言わんばかりに折れていようが無理くり体を動かすから、ほんの少しでも動かされれば激痛が走って意識を飛ばそうにも飛ばせない。

唐突に、今まで構えもしなかった鳴柱が刀に手を添えた。今まで散々な事を言ってきて、それでいてまんまと鬼の血鬼術に掛かる俺を斬り捨てるつもりなのだろう。この状態ならば、その選択はきっと正しい。今鳴柱の動きを邪魔しているのは、間違いなく俺なのだから。


「鳴、柱…俺を、斬ってください…!腕も使い物にならないし、このままじゃいつまで経っても鬼を斬れません…だから…!」

「何甘ったれた事言ってんだよ」

「、…」


鳴柱は俺を弾き飛ばし、低く構えた。静かな鋭い呼吸音が聞こえる。


「そう簡単に命を投げ出すなよ。たかだか腕が折れただけで生きるのを諦めるな。隊士一人守れないくらいで、柱なんてできるものかよ!!」


一瞬だった。迸る雷と、落雷にも似た轟音が轟いた時には目の前にいた鳴柱は消えていて、ふ、と体に自由が戻ってきたのを感じた。全身から力が抜け、地面に倒れ込む。そうしてバタバタとうるさい足音と汚い悲鳴を聞きながら、俺は意識を飛ばした。





気付くと俺は蝶屋敷だった。両腕は見事に骨折。全治2か月を言い渡された。


「那田蜘蛛山で生き残った鬼かぁ…」


くるくると器用に林檎を剥く羽炭さんはしみじみと呟く。話を聞いたところ、あの鬼の少女が累と呼んでいた下弦の鬼と戦ったのはなんと羽炭さんなのだそう。


「だけど倒したのは義勇さんだよ。その時の私は、戦うだけで精一杯だったもの」

「けど、戦ったんでしょう?戦って、生き残っているのはすごい事です。…俺は、また諦めてしまった…」


一度は羽炭さんに救われた命を、また捨てそうになった。諦めてしまった。だけど、そんな俺の命を鳴柱は拾ってくれたんだ。


ーーそう簡単に命を投げ出すなよ。たかだか腕が折れただけで生きるのを諦めるな。隊士一人守れないくらいで、柱なんてできるものかよ!!


「……………」

「どうだった?」

「はい?」

「善逸。かっこよかったでしょ?」


ほのかに頬を染めて愛おしそうに、けれど全面的な信頼をおいた羽炭さんの笑顔に、俺はこの人に一生こんな顔をさせてあげられないなって思ってしまった。
悔しいなぁ。悔しいけど、羽炭さんにこういう顔をさせてあげられるのは鳴柱だけなんだって。「はい、どうぞ」楊枝に刺さった一口大の林檎に、腕が使えない俺は甘んじて口を開ける。…瞬間、すぱんッ!!と勢いよく病室の扉が開け放たれた。


「ちょっと羽炭!?なんであーんなんてしてあげてるの!?」

「太一は腕が使えないんだから仕方ないでしょ」

「だとしても!!ずるいです!!俺にも食べさせて!!任務頑張ったんだから!!」

「後でね」

「羽炭ぃ"ぃ"ぃ"…!」


あーもう、うるさいなぁ。羽炭さんは今俺に世話を焼いてくれているんだから、鳴柱はそこで大人しく指をくわえて見ているがいいですよ。
ふふん、と得意げに笑いながらこれ見よがしに羽炭さんの楊枝にかぶりつく。「ああ"ーー!!!」鳴柱の汚い悲鳴が蝶屋敷に響いた瞬間、荒々しい足音と共にアオイさんが入ってきた。


「善逸さん!!ここは怪我人がいるんですよ!?静かになさってください!!」

「だってアオイちゃん!!太一が、太一があああ…!!」

「これ以上うるさくすると放り出しますからね!!羽炭さんも!!早くこのうるさい人を連れて帰ってください!!」

「す、すみません…ほら善逸、行くよ。善逸のせいで怒られたじゃないの」

「俺”頑"張"っ"た"の"に"…!!」

「もぉ…」


ずーるずーると腰に鳴柱を引っつけて部屋を出て行く羽炭さん。鳴柱は最後まで締まらない。「太一」ジト目で鳴柱を見ていれば、不意に羽炭さんに名前を呼ばれた。


「諦めないで、頑張って」


鳴柱は、やっぱり好きじゃない。泣くし、喚くし、縋り付くし、ヘタレだし。…だけど。


「…はい!」


少しだけ、ほんの少しだけ見直したかもしれないだなんて、思ってしまった。





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夢主に惚れた隊士がヘタレ柱より俺と!そんな隊士と善逸が二人で合同任務に行く話。

素敵なネタをありがとうございました!