よん
「ライブ会場からの宣戦布告から、もう一週間ですねぇ…」
SONGの管制室で藤尭のぼやきが響く。それに司令官である風鳴弦十郎が同調した。
「あぁ、何もなかった一週間だったな…」
「政府筋からの情報では、その後“フィーネ”と名乗るテロ組織による一切の示威行動や、各国との交渉も確認されていないとの事ですが…」
「つまり…連中の狙いがまるで見えてきやしないという事か…」
弦十郎は頭を抱える。派手なパフォーマンスで自分たちの存在を世界に知らしめたあの少女たちの目的が一切わからないうえに、事を企む輩には似つかわしくない彼女らの言動に振り回されているようだと。
…そしてもう一つ。弦十郎には引っかかる事があった。
「あの少女は…」
脳裏によぎるは、赫灼の髪と瞳を携えた一人の少女。そして何より、弦十郎はその少女が身につけている耳飾りに見覚えがあった。
「…まさかとは思いますが、司令…あの子はもしかすると、彼が言ってた…」
弦十郎の頭に浮かんだのは、同じ髪、同じ瞳を瞬かせた一人の少年。あの夜、管制室で呆然と立ち尽くした彼の背中に誰が声をかけれようか。
「生き別れた双子の妹、か…」
***
あの三人の絶唱がネフィリム起動に必要なフォニックゲインを満たした。私たちじゃ無理だった。絶唱の三重奏が織り成す爆発的なフォニックゲインがネフィリムを目覚めさせてしまった。もう、後戻りはできない。
「今日は何が食べたい?」
「……」
「私はそろそろインスタントの生活をおさらばしたいかな。あ、そうだ。マムにお願いして買い出し行かせてもらおうか。炒飯食べたくない?」
「……」
「…善逸…」
ざーざー、とシャワーに打たれながら怖い顔で俯く善逸が、あのガングニールの少女に言われた事を気にしているのはどう見ても明白だった。
「まだ、あの子の事気にしてるの?」
「…ッ」
ーごッ!
善逸が拳を壁に叩きつける。
「何にも背負っていないあの子が、人類を救った英雄だなんて…俺は認めたくない…」
「…そんな事、言うもんじゃないよ」
「けど、羽炭…!」
「わかってるよ。…本当にやらないといけない事があるなら、たとえ悪い事だってわかってても背負わないといけないものだって」
「ならッ…!」
「だけど、私は善逸にそんな事言ってほしくないんだ」
蛇口を捻り、シャワーを止める。そのままの手で壁に打ち付けた善逸の拳を解き、交差に繋いだ。
「誰かのために刃を振るうことができた善逸は、どこに行ったのかな?」
「…昔の事だよ」
「そうかもしれない。…そうじゃないかもしれない。私の中の善逸は、いつまでも変わらない。怖がりで、泣き虫で、けれど誰かのために怒ることができる強い子だもの」
そう言うと善逸はほんの少し照れと不服が混じったような顔をした。
どういう顔よ。
「……なぁ、羽炭」
「ん?」
「俺を独りにしないよな…俺から離れて行かないよな…?」
縋るような目。昔に引き続き、今も長い間独りを過ごした善逸のこれは、きっと依存に近いもの。
「…うん、ずっと一緒にいるよ」
けれど、私にそれを拒む資格はない。拒めない。
がちゃり。シャワー室のドアがあいてマリアが入ってきた。善逸は途端に裸のマリアを見ないよう私の後ろに隠れる。
…そういうところで元男を発揮するなよな。
「それでも私たちは、私たちの正義とよろしくやっていくしかない。迷って振り返ったりする時間なんてもう…残されていないのだから…」
一体どこから聞いていたんだろう。一瞬ひやり、と焦る私だったけれど、優しいマリアの事だ。色々と察してくれたのかもしれない。
…私たちも覚悟を決めないと。いつまでも甘えてばかりじゃいられないのだから。
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☆こそこそ話
☆S.O.N.G.
特異災害対策機動部二課。