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任務に行きたくなる魔法


共に柱
募集箱より




最近のもっぱらの悩みは、善逸である。
というのも、柱になったのにも関わらず未だに任務に行く事を泣き喚きながら嫌がるのだ。そりゃあ誰だって危険な場所に行きたがる人間はいない。それはわかる。私だって好きで行きたいかと言われれば否だ。
…だとしても、それでも善逸は実力を認められて柱の称号をもらった鬼殺隊の精鋭の一人で、そもそもの問題、一柱があんなにも喚き倒しで任務に行く事を渋る姿を他の隊員に見られるというのは、その…面子にも関わってくるわけで…


「なんとかなりませんか、宇髄さん…」

「なんで俺のところに来るんだよお前はよ」


ずず、とお茶を啜った宇髄さんは心底嫌そうに顔を顰めた。だって、何だかんだいいつつも善逸の事を心配してくれているのは宇髄さんで、ちゃんとしたアドバイスをくれそうなのって宇髄さんしか思いつかなかったんだもの…

お茶のおかわりを淹れてくれる雛鶴さんが苦笑いしながら宇髄さんを宥めた。


「まぁまぁ、いいじゃありませんか天元様。この様子じゃ、羽炭ちゃんも随分悩んでいるみたいですし…」

「…あいつは柱なのにまだあんな調子なのか」

「日に日にエスカレートしていってます…。初めは屋敷内だけだったのに、最近では周りに隊員がいようがお構いなしです…。だからか、影で隊員たちに“ヘタレ柱”なんて呼ばれているみたいで…」

「それは…」

「ひでぇな…」


二人の言うひどいは、多分善逸のヘタレ具合だ。ちゃんと実力も能力もあるのに、どうしたって行くのを渋る善逸は昔から変わらない。それに安心すればいいのか嘆いたらいいのか、もはやわからなくなっているのだ。
がっくり、首を落とす。もう藁にもすがる思いで宇髄邸に足を運んだ私は深々と頭を下げた。


「どうしたら…いいでしょうか…色々試したものな、もはや打つ手はありません…」

「…天元様」

「はぁ…ったく、嫁にこんな気負わせるなんて、あいつは何してんだか…。いいか羽炭、よく聞けよ?」

「?」


私の頭を撫でる宇髄さんをそろり、と見上げる。どことなく楽しそうに目を細める宇髄さんに疑問符を飛ばしながら、とりあえず耳をそばだてた。





***


「イ"ヤ"ァ"ァ"ア"アアア来た!!また来た!!何でだよ昨日長期任務終わらせて!!さっき帰ってきたばかりなのにもう新しい任務来るの!?どうなってんの!?なんで俺のところばっか…!!ア"ァ"ーーーーーッ!!」


ここは蝶屋敷である。私は任務がない日はここでカナヲの手伝いをしているから、任務が終わった善逸はまずここに帰ってくる。手当を終えて縁側で善逸の話を聞いていると、どこからともなく現れたチュン太郎が善逸の膝に止まった。そうして発狂しだした善逸に、私は頭を抱えた。


「あ、また鳴柱が泣き叫んでる」

「羽炭様も大変だよな、毎度毎度泣きつかれてさぁ」


そんな隊員たちの声が聞こえて余計に頭が痛くなってきた。私に聞こえてるって事は、きっと善逸にも聞こえているんだろう。けれどそれでもなお喚き続ける善逸はそれどころじゃないらしい。私の膝に顔を埋め、しとどに涙を流す善逸をチュン太郎が「またか…」と言いたげに睨めつけた。

はぁ、とため息を吐けば、善逸の肩がびくり、と揺れた。


「善逸、伝令が来たのなら仕方ないよ。今はカナヲも長期任務に出てて、あいてるのが善逸しかいなかったんだ」

「わギャッてんだよぉ…けどさぁ、いくら柱になろうが怖いもんは怖いの…死にたくないよぉ…ずっと羽炭の膝に顔埋めていたいよぉ…」

「気持ちはわかるけど、だからと言って、助けを求める誰かの手を振り払ってしまったら一生胸に後悔が巣食うし、もう二度と悲しい思いをさせないように連鎖を断ち切るのは私たち鬼殺隊の仕事でもあるんだから」

「そうだけど…わかってるけど…」

「…善逸、顔上げて?」


善逸の頭を撫でながら顔を上げるよう促す。涙でべしょべしょになった顔を袖で拭い、両頬に手を添えた。「え、羽炭…」ちゅ、とそのまま口付けを落とせば、善逸からぶわッ!と甘い匂いがした。
ゆっくりと唇を離し、額同士をくっつけて善逸の目を覗き込めば、林檎みたいに顔を真っ赤にさせて私を見つめていた。


「に、任務が終わって、帰って来れたら今みたいに口付けしてあげる。ご褒美ってわけじゃないけど、善逸が無事に行って帰って来れますようにって、おまじない」

「行ってきますッ!!!」


さっきと打って変わって元気になった善逸は、ばびゅん!とそれこそ無駄に呼吸を使って蝶屋敷を飛び出して行った。宇髄さんが言った通り、まさかこんな事で善逸のやる気が漲るとは思わなかったし、恥ずかしいけど、それでも善逸が頑張れるのならこれくらいなんて事ない。

…けれど、恥ずかしいのには変わりないんだけど。
どきどきと早鐘を打つ胸を押えて、ふと視線をずらすとなほちゃんとすみちゃんときよちゃん三人が、洗濯籠を抱えたまま顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。

え、ちょ、待って、もしかして…


「みッ…見た…!?」

「み、みみみ見てませんー!!」

「ごめんなさい羽炭さーん!!」

「失礼しましたー!!」


あ、あれは絶対に見てる…!あの反応は絶対に見てるよ!!
けれど、私も反省だ…。ここは中庭に面する縁側で、基本的に洗濯物はここで干すのだから、こんなところであんな事はしないほうがいい。

そう心に決めるものの、後日から任務が入る度にところ構わず口付けをするようになった善逸にまた頭が痛くなったのは別の話。





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任務を渋る善逸へ夢主は…な話。

素敵なネタをありがとうございました!