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任務先で求婚される話


付き合ってる
募集箱より





「ひ、一目惚れしました…!どうか、結婚を前提にお付き合いしてください!」


顔を真っ赤にして私の両手を握りながらそう言う青年に、どこかで聞いたようなセリフだと現実逃避しながら既視感を覚えた。





善逸と合同任務だと言う事が知らされたのは、ついさっきである。と言うのも、鴉に促されるがまま辿り着いた町では思いのほか厄介な鬼が巣食っているらしく、まだ階級の低い私一人では心許ないからと、たまたま近くにいた善逸を同行者に白羽の矢が立ったらしい。
善逸も話を聞いたのか、チュン太郎が手紙を届けてくれた。内容としては、要約すると任務が終わったからすぐに向かう。先に町に行っててほしいの旨が書かれていて、ついさっき私も町に辿り着いたところである。

太陽はまだ高い。日が暮れる前に少しでも鬼の情報がほしいと色んな人に話を聞くけれど、何人もの人が行方不明になっているからか、町の人たちの表情は暗く、外から来た私に対して不信感を持っているようだ。


「はぁ…思ったより情報が集まらないな…」


まぁ、仕方ないと言えば仕方ないのだろうけど、あぁもあからさまに嫌な顔をされたら、やっぱり悲しい。非公認の弊害は大きかった…
とりあえずは善逸と合流してから考えようと思い、この町の藤の花の家にお邪魔している事の旨を書いた手紙を鴉に括りつけて飛ばしたわけだけど…


「あの…!」


案内された部屋に行く途中にそう声をかけられて、振り返ったところで冒頭に至るのだった。
というか、突然の事で私は混乱するばかりである。そもそも彼は誰だ。


「えっと…どちら様…」

「僕は和佐と言います。この藤の花の家の長男で、今年で17になります!」

「はぁ…」

「それで、あなたのお名前は…」

「竈門羽炭です」

「羽炭さん…!素敵なお名前ですね!」

「あ、ありがとうございます」

「で、どうでしょうか…!?」

「どう!?どうって…」

「僕なら鬼狩り様の事情もある程度理解があるつもりですし、なんなら家柄上、洗濯家事炊事全般得意です!」

「いや、あの、私は…」


ど、どうしよう…この人、制止する暇どころか私が口を挟む隙を与えてくれない…。

彼…もとい、和佐さんはお顔立ちも爽やか系で、きっと男前の部類に入るんだろう、家事も料理もできるなんて結構な優良物件なのだと思う。
気持ちは、すごく嬉しい。こんな私にそう言ってもらえて嬉しいのだけど、いくら鬼殺隊の事情を知っているからと言って彼は私にはもったいなさすぎるし、それに…


「ア"ァ"ーーーーーッ!!!!」


改めて和佐さんに小断りの返事をしようと口を開いた瞬間、耳を劈くような汚い高音が響き渡った。あまりのうるささとけたたましさに思わず耳を覆ったら、その腕を勢いよく引かれて後ろによろける。


「な、なんですかあなたは!」


けれどそのまま床に倒れ込む前に、ぽすん、と背中が何かにあたり、胸の前に腕が回された。鼻を擽る優しい嗅ぎなれた匂いに安心するのと同時に、今この瞬間に現れてほしくなかったと面倒くささを胸に頭を抱える。なんたってこのタイミングで来てしまったんだ善逸…。面倒くさいでしかないんだけど…


「なんですか、じゃないよッ!!何手ェ握ってんの何強かに求婚しちゃってんの!?初めは冗談かと思ってたけど音がさぁ!!本気なんだよあんた!!羽炭にそんな事言うのやめてくれる!?」

「言ってる意味がわかりません!僕が彼女に結婚を申し込んで何か問題でも!?」

「問題だらけだわ!!お付き合いも何も全部すっ飛ばして結婚する奴がありますか!!そもそも出会って早々求婚するとか論外ですし!?羽炭はそんなほいほい承諾するような尻軽じゃありませんからー!!」

「誰が尻軽か。というか、善逸も出会って早々求婚してきたじゃない」

「うるさいよ!!羽炭は黙ってて!!」

「僕は“お付き合いを前提に”って言ったんです!!諸々をすっ飛ばすほど落ちぶれちゃいません!!」

「羽炭に求婚する時点で同じだわ!!」


もう、本人そっちのけの口論になってるのだけど。
ギャンッ!!と猛犬の如く吠えたてる善逸は私を後ろから抱きしめて、目の前の和佐さんを威嚇するように「イ"ーッ!」と歯を向いた。
というか、和佐さんも和佐さんですごいな。何がすごいって、大体の人は善逸のえぐい変顔と延々と垂れ流れる呪詛のような文句に逃げだすのだけど、和佐さんは面と向かって言い返している。

そして善逸、あんたも出会った瞬間私に求婚してきたのに、それは棚に上げるんだ?へぇ?

じっとりと背後の善逸を睨めつけてしまったのは、致し方ないと思う。


「というか、僕の質問に答えてもらってません!あなたは羽炭さんのなんなんですか。同じ鬼狩り様である事はわかります。ですがそれだけでしょう?同期か、あるいは友達か。そんな人が僕と羽炭さんの邪魔をしないでください!」

「……へぇ、友達、ねぇ…」


不意に善逸が声のトーンを落とした。それにたじろいだのか、和佐さんは、ぐ、と口を閉ざし、そして背後の善逸からは含みのある、それでいて挑戦的な匂いがした。


「な、なんだよ…」

「なら、ただの友達はこういう事すると思う?」

「ぜん、」


くるり、体を反転させられてすぐに唇に感じる熱に、大きく目を見開いた。「んなッ…な…な…!」和佐さんの戸惑う声がする。困惑する頭のまま至近距離のべっこう飴色を見つめれば、してやったり、と言いたげにゆるりと弧を描き、背中が震えた。
というか、というか…!馬鹿じゃないの!?人前でこんなッ…!馬鹿じゃないの!?(二回)

ゆっくりと唇が離れ、善逸の顔を呆然と見上げていればそんな私を和佐さんから隠すように頭を胸に抱き込まれた。くる、しい…


「残念ながら、俺と羽炭はただのお友達じゃないの。こういう事できちゃう仲なわけ。だからあんたが羽炭に求婚しようがどう足掻いたって報われないの。わかる?」

「ご、ごめんなさい和佐さん…私、善逸とお付き合いさせてもらってて、その…気持ちはすごく嬉しかったのだけど…」

「ッ…う、うわあああああん!!」


泣きながら家の奥へと走り去る和佐さんの声を聞いて我に返る。「一昨日来やがれ!!」悪役の如き捨て台詞を吐く善逸だけど、待って、ねぇ、今だいぶまずい事した上に面倒な事になったの気付いてる?…このドヤ顔だと気付いてないよなぁ…


「というか、どうするの!?ここ藤の花の家で…この町宿ないのに気まずいじゃない!!」

「……待合茶屋でも行く?」

「馬鹿も休み休み言え」

「ちょっと最近俺に対して冷たくない!?」

「自分の胸に手を当ててよぉーーーーく、考えてごらん…?」

「……お前のそういうところ、やだ。つか、なんで早く断らないの!?そんなの向こうも期待しちゃうに決まってんでしょーがッ!!俺、羽炭があいつのとこ行っちゃうって思ってすっげーひやひやしたんだからな!!」

「私が善逸以外のところに行くわけないでしょ!!いつだって私が帰る場所は善逸のところなの!知ってるでしょ!?」

「うん知ってる!!好き!!」

「うぐッ…」


さっきの比にならないくらいの力で抱き締められて、内臓が口からまろび出るかと思った。
結局は、少しとはいえこのまま藤の花の家にお邪魔して気まずくなるのは気が引けたため、私たちはその足で鬼討伐に向かい、退治した瞬間に即行で蝶屋敷へ帰ったのだった。





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任務先で求婚される話。

素敵なネタをありがとうございました!