疲れてうとうとする話
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二人とも柱
同棲してる
募集箱より
「羽炭ぃ…羽炭ぃ…!!」
玄関から私を呼ぶ情けない声を聞いて、洗濯物を畳んでいた手を止めた。どうやら長期任務に行ってた善逸が帰ってきたらしく、小走りで玄関に向かえば黄色い塊が床に平伏していた。
…何してるの、この人は。
「おかえり、善逸」
「羽炭ー!!」
「うわッ」
急に飛びついてきた善逸をどうにか受け止める。というか、顔から出るもの全部出てて汚いんだけど…。半目で善逸を見てれば、音でわかったのか「その目やめて!!」とさらに咽び泣いた。
「やっと帰ってこれたよぅ…今度こそ死んだと思った…というか、立て続けに任務入って別の意味で死ぬかと思った…」
「任務続きだったの?だから予定より遅かったんだ…」
「そーなんだよおおお…!ただでさえ長期任務当てられて精神ゴリゴリ削られたのに、その上追加任務って…!やだ!もう行かない!ずっとここにいる!」
「しばらくはお休みもらえるでしょ?ほら、いつまでもここにいないで、とりあえずお風呂入ってきなよ。ご飯はいる?」
「藤の家で食べてきた……ねぇ、一緒に…」
「入りません」
がっくり、あからさまに肩を落とす善逸を風呂場に放り込んで、私はまだ残っている洗濯物を畳むべく部屋に戻る。
そうして全部片付け終わって、お茶の準備でもしようと台所でお湯を沸かしていると、不意に背後から抱きすくめられた。ぽすん、肩に乗る黄色いたんぽぽ頭を撫でながら火加減を調節した。
「善逸、火を使ってる時にそれしないでって言ってるでしょ」
「………」
「…はぁ」
無言で腕の力を強める善逸にため息を吐けば、びくッと視界の端で肩が揺れた。とりあえずお茶を淹れるのは諦めて火を消した私は身を捩って体を反転させ、向かい合った善逸の顔を覗き込む。
今にもべっこう色の目から涙がこぼれそうな顔をしてて、なんて顔してんの、そう言えば善逸はくしゃり、と顔を顰めた。
「…善逸、向こうの部屋行こうか」
ぽんぽん、背中を叩いてひとまず体を離す。手を繋ぎ、隣の居間に移動すればすぐさま善逸が抱きついてきて、そのまま尻もちをついてしまった。
「はわ…羽炭の音落ち着く…」
胸に耳を押し当て、そんな事を言う善逸にちょっと照れた。だって、やっぱり慣れない。手持ち無沙汰にたんぽぽ頭を撫で、そのままの手で髪を指で梳く。伸びたなぁ。私より長いんじゃなかろうか。
「善逸、すごく髪伸びたね」
「でしょ?頑張ったんだから」
「……で?」
「へ」
「善逸は、どうして泣きそうになってるのかな?」
ぐい、と両頬に手を添えて上を向かせると、善逸の大きな目玉からぼろり、と涙が落ちた。あちゃ…泣いちゃったか…
善逸は存外、甘えるのが下手っぴだ。いつもはぐいぐいくっついてくるけれど、本当に甘やかしてほしい時は無言になるし、多くを語らない。ある意味わかりやすくはあるんだけど、私としてはちよっぴり寂しい。
ぎゅーッ!と善逸の頭を抱きしめると、戸惑ったような匂いが鼻を掠めた。
「…呆れた?」
くぐもった声が聞こえた。何を言ってるんだろう、この人は。呆れるとか、呆れないとか、正直今更だと思う。泣き虫な善逸も、かっこいい善逸も、全部善逸に変わりないんだから。
「呆れません」
「なんで?俺、柱なのにこんなんだし、泣きますし…」
「じゃあ善逸は、私が怖くて泣いてたら呆れるの?」
「呆れるわけないでしょうが!」
「それと一緒」
「……いじわる」
「善逸もね」
とん、とん、ゆっくり背中を叩いていると、ほんの少しだけ体重がかけられたような気がした。
「眠い?」
「…眠くない」
「船漕いでるよ。ね、布団の上で寝なよ。ここじゃ体痛くなる」
「いい。…少しだけさ、このまま抱きしめてて」
「もぉー…しょうがないな」
「やった」
善逸を抱きしめたまま畳に横になる。腰に手を回して引き寄せられ、善逸の息遣いを感じながら優しく背中を叩き続けた。
目の下、随分真っ黒だった。任務続きな上にずっと張り詰めていたから、きっとろくに眠れてないんだと思う。
だから少しでも、善逸がゆっくり休める場所になれたのなら。そんな嬉しい事はない。
「すぅ…すー…」
「…寝た?」
しばらくそうしていたら、いつの間にか規則正しい寝息が聞こえてきて、ほ、と胸を撫で下ろす。…とは言っても、がっしり胸元掴まれてるから動けはしないんだけど。なんて、苦笑いしながら善逸の顔を見ていると、少しずつだけど私にも睡魔がにじり寄ってきた。まだお昼前で、窓から部屋に入り込んでくるぽかぽか陽気も相まって眠い。掃除もしたいし、夕飯の買い物もしなくちゃいけないんだけど、今日くらいサボったっていいか。
「いつも守ってくれてありがとう」
意識が沈む寸前にそう言えば、私を抱く善逸の腕がほんの少し強くなった気がした。
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疲れてうとうとする話。
丹頂様、素敵なネタをありがとうございます!