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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
さん




してやられた。多分あのマネージャーがやったんだ。
全国中継を切断されて、風鳴翼さんに押され始めたマリア。


「イヤァァアアアアア出るしかないじゃん!出るしかないじゃんこれぇぇええええ!!ししし、死んでしまう…!」

「つべこべ言わない!私たち時限式は、あの人みたいに長時間ギアを纏っていられないんだから!それはマリアも同じだよ」

「うッ…うぅ…わかったよぅ…」


渡されていたリンカーを打ち込み、聖詠を紡ぐ。聖遺物が歌に呼応し、力をエネルギーレベルにまで還元された後ギアへと再構成される。

私たちの纏うギアは雷神トールの槌とスルトが振るった炎の刃。

善逸が振りかぶった巨大なハンマーから電撃が飛ばされ、それを風鳴翼さんが弾いている間に私がアームドギアを大鎌へと展開させ、分裂した刃を飛ばす。


「ぐぁあッ…!!」


同時攻撃に吹っ飛んだ風鳴翼さんを横目に、私たちはマリアの前に降り立った。


「き、危機一髪…」

「まさしく間一髪。はぁ…」

「あなたたち…。羽炭と善乃に救われなくても、あなた程度に遅れをとる私ではないんだけどね」

「…貴様みたいなのがそうやって…見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」

「…!」


上か!
マリアにつられて見上げると、ヘリから飛び降りてきたのは二人の装者。片方の赤いギア…イチイバルの装者から雨のような弾丸が降り注ぐ。


「土砂降りな!!10億連発だ!!」


咄嗟にその場を飛び退く。マリアはマントを縦替わりにして銃弾を防いでいたけど、その後すぐにやってきた黄色の装者…ガングニールが打ち付けた拳に身を引いた。


「あれが、融合症例第一号…」


ぽつり、マリアがこぼす。


「やめようよ、こんな戦い!今日出会った私たちが争う理由なんてないよ!」

「、…そんな綺麗事を…!」


隣で善逸が歯噛みした。


「え…」

「綺麗事で戦う奴の言うことなんて、信じられるか!」

「そ、そんな…話せば分かり合えるよ…!戦う必要なんて…!」

「偽善者…」

「、…」

「この世界には、君みたいな偽善者が多すぎる…!」


善逸がハンマーを投げた。それを合図に、私たちはそれぞれ装者に斬り掛かる。
大鎌を槍に展開し直して、イチイバルへ向かう。


「くっそ…!近すぎんだよッ!!」


イチイバルは弓であるが故に射撃を主とした戦闘スタイル。ならば、接近戦に持っていけば彼女は戦いずらいはず。


「あの子の言葉、許してなんて言わない」


だって善逸の気持ちは、痛いほどわかる。
レセプターチルドレンとして施設に集められた私たち。中でも善逸は、物心着いた時からずっと一人で施設に閉じ込められていた。度重なる実験に髪色が変わったって言ってた。体の成長が少し遅くなったって言ってた。


「誰も助けてくれないのに、誰かにそんな事を言ってほしくないんだ!!」

「!お前…」


突如、ステージの方から緑の閃光が放たれた。それは徐々に巨大な何かを型どり、構成が終われば、それは巨大な増殖分裂タイプのノイズへと姿を変えた。


「こ、こんなの使うなんて聞いてない!」

「…マム」


マリアがマムに確認を求めた。


『三人とも引きなさい』


マムからの指示は、たったそれだけ。
…きっと、私たちのフォニックゲインが目標数値まで達していないんだ。マリアは一言「わかったわ」と呟くと、腕のギアをアームドギアに展開させ、そのエネルギー波をノイズにぶつけた。
途端に弾け、瞬く間に分裂を繰り返すノイズたちを横目に、私たちはマリアを先頭に戦いから離脱。


「お、おい待てお前…!それは…その耳飾り…!」


イチイバルの装者が何か言っているが、私はそれを無視して足を動かした。

少し離れた刹那、絶唱の旋律の後に会場から放たれる七色の軌跡に私たちは目を見張る。


「なんだよ、あのとんでもは…」


隣で善逸が呆然と呟いた。


「こんな化け物もまた、私たちが戦う相手…」


マリアが唇を噛む。そんな二人を横目に、私が思い出すのはイチイバルの彼女が言ったあの言葉。


“お、おい待てお前…!それは…その耳飾り…!”


「なんで、君がこれに見覚えがあるの…」


右耳に揺れるそれにそっと触れた。これは、この耳飾りは父さんの形見で、生きてるかもわからない片割れと私を繋ぐ唯一の物。


「なんで…」

「羽炭…」


私の手を善逸が強く握った。
もしかして、だなんて、期待した。するだけ無駄なのに。だって、あの状況じゃ絶対に生きてるわけないのに。





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☆こそこそ話

☆リンカー(LiNKER)
かつて、二課技術主任であった櫻井了子(フィーネ)が開発した 聖遺物の力と人体を繋ぐための制御薬。
シンフォギアの装者たりえない常人であっても、 ある程度の資質(適合係数)さえあれば、その「ある程度」を無理矢理引き上げることで、 後天的適合者へと即席させる効果がある。
当然、資質の引き上げ幅が大きいほど人体への負荷も大きく、 被験者は通常、ショック症状に見舞われ昏倒。 適合者を生み出す以前に死者や廃人を大量生産するという、 危険なまでに激しい薬理作用を示す

☆シンフォギア
特異災害対策機動部二課に所属していた技術主任、 櫻井了子が提唱した「櫻井理論」に基づき、 聖遺物の欠片から生み出されたFG式回天特機装束の名称。
認定特異災害ノイズに対抗しうる唯一の装備。

☆ガングニール
立花響、及びマリア・カデンツァブナ・イブが纏うギア。北欧神話大神オーディンが振るう、 勝利必中の槍の穂先より造られた

☆イチイバル
雪音クリスが纏うギア。
北欧神話にて、 狩猟神ウルが扱う弓の一部より造られた。

☆天羽々斬
風鳴翼が纏うギア。
日本神話にて、 大蛇薙と伝えられる素戔男尊の振るいし剣の欠片より造られた。

☆ミョルニル
我妻善乃(善逸)が纏うギア。
北欧神話にて、雷神トールが所有していたとされる槌の一部から造られた。

☆レーヴァテイン
竈門羽炭が纏うギア。北欧神話のスルトの妻、シンモラが保管していたとされる刃。槍、剣、杖など記述は様々。ラグナロクの際にスルトが振るった炎を指す名称として使われることも。アームドギアはその場の用途に合わせて様々な武器に展開させる。