×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
遠い海に褪せていくまで


「無駄なんだよ、何もかも!君たちが何人集まろうが、このエンキドゥの前では塵芥も同然!」


毛先で蠢く蛇の口がぱかり、と開き、光線が放たれる。幾筋もの放たれたその光線はアルカノイズ諸共地面を吹き飛ばし、森を抉った。


「ンギャーーーッ!!何あれ何あれ…!蛇の口からッ…はぁ!?あんなんありかよ!!」

「我妻、後ろだ!!」

「ア"ァ"ーッ!!」


ひゅんッ!と、すぐ耳元で風が切られる音がした瞬間、善逸の真横を青い一閃が横切り背後のアルカノイズたちを両断した。「翼"さ"ん"ッ!!」さっきから色んな人に至近距離で技をぶっぱなされている善逸は涙ながらに翼に抗議を申し立てる。「す、すまない我妻…!」翼は律儀にも謝罪した。


「善逸!遊んでねぇでさっさと引きつけろ!」

「遊んでませんけど!?」


全くもって心外だと叫びながら善逸は走る。その後ろで伊之助が「ブッハハハハハ!!猪突猛進ー!!」と叫びながらアルカノイズに突進して行くのを見た蜜璃はただただ彼が心配であった。


「小賢しい!」


アダムが大きく手をふりかぶる。それに従うように毛先の蛇たちは、装者たちを飲み込まんと大口を開けながら地面を這いずった。
アダムの中にいるアリスが歌えば歌う程、アダムは力を増し、蹂躙する。時に攻撃を受け、時に吹き飛ばされ、けれど彼らは臆せずに何度も立ち上がった。


「てんこ盛りだ、持って行け!!」


ギアを展開させ、クリスが巨大なミサイルを何本か撃ち放つ。「危ない、クリスちゃん!!」背後に迫り来ていたアルカノイズに反応が遅れたクリスは慌てて振り返る。…けれどそれよりも先にクリスの周りで雷鳴が六回轟いた。


「大丈夫?」


ぽかん、と呆けるクリスの前に、目を閉じた善逸が佇む。「お前…」さっきもう少しでアルカノイズに触られかけた善逸はそのショックで気絶しているのだけど、クリスは眠った善逸がそうなる事を知るはずもなく。なんか急にやる気を漲らせ、鼻ちょうちんを膨らませた善逸にクリスは叫んだ。


「やればできるじゃねーか!!」





クリスが放ったミサイルが真っ直ぐにアダムに向かっていく。けれどアダムは余裕綽々と笑い飛ばし、地面を蹂躙させていた蛇たちの首を擡げさせた。


「そんなもの、今の僕の前じゃただの玩具だ!」


今更ミサイルを受けようが、アリスに痛覚を肩代わりさせているアダムにとってなんの障害でもない。それより、地面を動き回る装者たちの方がよっぽど目障りであった。

ポーン、まるで弦を弾くような音を立てて後頭部の光輪が広がる。その中心と、それぞれの蛇たちの口に向かって周りの光を吸収するように光が集められていく。目一杯まで、限界までその光を収束させた時、アダムはミサイルの一本に黄色い人影を見た。


「神殺しィィイイイイ!!」


アダムは地面にいる装者たちへ放とうとしていた閃光全てを、ミサイルに乗って迫り来る響に向けた。「アダムゥゥゥウウウ!!」叫ぶ響に向かって閃光が放たれ、そして轟音を周囲に響かせながら飛ばされたミサイル全てを撃ち落とす。
間違いなく避けることができない一撃である。戯れ笑いながら立ち込める黒い煙を見つめ、けれどその中から黒煙を突き破って、一つのミサイルが飛び出してきた。そこには撃ち落としたはずの響が乗っていて、確実に撃墜したと思っていたアダムは驚愕に目を見開いた。
響は腕のギアを限界まで引き上げ、自らが乗るミサイルに拳を打ち付ける。同時に後方に跳躍すれば、アダムの眼前ギリギリの所でミサイルが爆発した。視界いっぱいに煙が広がり、何も見えなくなる。


「ちッ、小賢しいマネを!!」


目の前の煙を払おうと腕を大きく振り払った時だった。


「竈門くんッ!!」

「!?」


響が叫ぶ。アダムが煙を振り払う頃には、先程の響と同じようにクリスのミサイルに乗った炭治郎が、刀を構えてすぐそばまで来ていた。

神殺しを打ち消す力を手に入れた今、アダムがまず初めに響を狙うであろうと言うのは誰もがわかっていた。
だからこそ、翼や宇髄たちはわざと大技を繰り出してアルカノイズを殲滅させながらアダムの気を散らせていたのと、クリスが撃ち出すミサイルにわかりやすく乗っていた響にアダムの意識が向くように、それ以外のものに意識が向かないよう仕向けた。

炭治郎は息を吸った。冷然とした空気を肺いっぱいに呼び込み、ミサイルの上を駆けた。


水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱


着地時間、着地面積を最小限に抑え、不安定なミサイルの上を走る。そして先端に辿り着いたと同時に力強く踏み込み、跳躍した。
鼻を鳴らす。怪物と成り果てたアダムの、ちょうど心臓に位置する場所から強くアリスの匂いがした。チャキ、刀を構えた。


水の呼吸 伍ノ型…ーー


「干天の慈雨」


まるで雨のようであった。痛みすら伴わない剣撃にアダムは自分が斬られたのだという事にすら気付かない。「なんだ、今のは。効かないぞ!」けれどそれが炭治郎の狙いであった。
痛みが全てアリスに流れるのならば、痛みがない技を出せばいい。炭治郎にはそれができる術があった。

干天の慈雨。水の呼吸だけに存在する、自ら頚を差し出してきた鬼にのみ使用する慈悲の剣撃。

立て続けに五回、伍ノ型をアダムに向けて繰り出す。大きく切れ込みが入ったそこへ手をかけた炭治郎は無理矢理そこに体を捩じ込ませ、どぼん、黒く暗い闇の中へと飛び込んだ。




prev * 24/36 * next