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心臓が焦げるにおいがする



「う…」


倦怠感に包まれた中、炭治郎は意識を浮上させた。痛む頭を押さえながら、周りを見渡した。

ここはどこだ。全体的に薄暗くて見えずらい。それに酷い匂いだ。工場の廃油にまみれたような油っこい匂いと、血の匂い。


「ッ、アリス!!」

「そう騒ぐな。せっかく生かしてやってるんだ、静かにしないか」


手足は拘束されていないものの、どうやら自分は檻に入れられているらしい。格子の代わりに淡く発光した術式が張り巡らされていて、触れるとよくないものだと炭治郎は直感で察した。
そんな声を荒らげる炭治郎に振りかけられた声に、思わず怒りで顔を顰める。
純白のスーツを着て紫苑の髪を揺らす男ーーアリスを滅多刺しにした張本人、アダム・ヴァイスハウプトが悠々と炭治郎がいる檻の前に立っていた。


「お前はッ…!アリスはどこだ!あの子は無事なのか、生きてるのか!?」

「よく吠えるな。死ぬわけないだろう、兵器なんだから。まるで化け物さ。傷をつけた瞬間から瞬く間に再生するのだから」

「は、」


ぽかり、口を開いた。目の前の男、アダムの言葉の大半が炭治郎には理解できなかった。誰が、何だって?兵器?化け物?一体なんの話しをしているんだ。
困惑する炭治郎。それを目敏く見破ったアダムはわざとらしく驚きながら、口を開いた。


「知らなかったのかい?あれが一体なんなのか、何であるか、聞かされてなかったのかい?」

「なんの、事だ…アリスは…」

「アリス?…あぁ、名前を付けたのか。どこまでも忌々しい王だ、兵器である事を忘れさせたな」

「おい、待て!」


炭治郎の制止を無視して、アダムは歩く。歩いて、大きな台座に寝かされた見覚えのある少女の元で立ち止まり、舞台役者よろしく両手を広げて語る。


「神が造りし兵器なんだよ、彼女は。君たちは“アリス”などと戒めの名で呼ぶが、彼女が与えられし名は“エンキドゥ”!完全自立型人型兵器として猛威を奮う世界を滅ぼす最古の兵器さ!」

「エンキ、ドゥ…」

「そうさ!神の力なんて彼女の前では足元にも及ばない、正真正銘、世界最古にして最強の聖遺物!これを使って、今度こそ僕は僕を打ち捨てた神へ、そしてあの神殺しに復讐の牙を向けるのだ!!」


アダムはアリスに向かって手を翳した。すると彼女を中心に幾何学模様を伴った術式が幾重にも重なり、広がる。ばちん、と弾ける稲妻にアリスは苦しげに声を上げた。


「う"、あ"…あ"ぁ…!!」

「や、やめろ!」


その声で我に返った炭治郎は叫ぶ。けれどアダムはそんな炭治郎を一瞥しただけだった。


「エヌマ・エリシュのファウストローブを分解、構造及び性質の上書き、再構築させてもう一度エンキドゥに組み込む。自我をシャットダウン、そして、神造兵器として再起動」


周囲に浮かぶ六つの石版と複雑な術式を組み合わせながら、アダムはアリスの体内を弄り回した。回路を切断し、繋げ、今までアリスの中に存在していた“人間の概念”を兵器たらしめる“哲学兵装”として塗り替えていく。想い出も、構想も、何もかもを。
自分の全てが塗り替えられる感覚にアリスは絶叫した。身を引き裂くような痛みを伴ったそれと、アリスの中に残る“人間として”の抵抗。しかし、アダムの前では小さな抵抗に過ぎなかった。花を手折るように、踏み躙るかのように、いとも容易くアリスの中に残る抵抗を握り潰した。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」


体に赤く発光する紋様が浮かんだ。それを見たアダムはにたり、と笑みを浮かべる。


「やめろ、やめてくれ!アリスは兵器なんかじゃない!!心のある優しい子だ!!誰かを傷付けたりなんてしない!!」

「誰かを傷付けるから兵器なのさ。心?あるものか、そんなもの!お前が心だと思っているものはただのプログラムに過ぎない!見て、聞いて、感じた物はただの“情報”として回路に伝達されているだけで、感情などと言うくだらないものに変換されるはずがないだろう!」

「違う!アリスにはちゃんと心がある!ふざけるな!」

「…あぁ、そうか。お前、これに恋をしているのか」

「は、」


一瞬、アダムに何を言われたのかわからなかった。ニヤニヤと、わかりやすく嘲笑うアダムは心底愉快だと言わんばかりに笑う。


「あっはっは!滑稽だよ、全く!ただの泥人形に恋!だからそんなに必死なのか、無力で、何もできなくて、やめろと叫ぶ事しかできないというのに!」

「ッ、」


かッ、と炭治郎の顔に熱が溜まる。怒りに震えてなのか、恋と呼ばれて図星であったのかどっちかはもはやわからない程の激情に刀を抜き、檻の術式に突き立てた。


ーーバチバチッ!!


「ぐあッ…!」


けれど、激しく駆け巡った電流に弾き飛ばされ、背中を打ち付けた。そんな炭治郎を戯れ笑ったアダムは、徐にアリスの腹に手を置いた。瞬間、アリスの体に浮かぶ赤い紋章がぶわり、と広がり、蠢くようにアダムの腕を這いずった。腕、肩、胴体、そして、全身へと行き渡った時、声高らかにアダムは嗤う。


「今こそ一つになろう、エンキドゥ!その身、その力を我が鎧とし、神を穿つのだ!」


瞬間、アリスとアダムを中心に目が眩むほどの光がその場に満ちた。広がり、天を駆け、空を穿つ程の光の柱は一瞬で周囲を飲み込み、そして…ーー




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