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星が降る夢



「初めまして、奇跡を纏った少女たち。こうして顔合わせするのは初めてだろうけど、どうかこうして床についたままである事を許してほしい」


しのぶに連れてこられた産屋敷の家。初めこそ緊張の面持ちであった三人だけれど、お館様ーー耀哉と面識してみて、ふと体に入った力が抜けるような気がした。
心が落ち着くような、不思議な感覚。上半身を起こし、童たちに体を支えられている耀哉は体が弱く、盲目であった。そのような状態の耀哉への面会に申し訳なさを感じた響たちであったが、そんな三人の胸中を見透かしたかのように耀哉は口を開いた。


「生まれつき体が弱いんだ。目もほとんど見えていないけれど、君たちの事はわかる」

「…此度は、挨拶が遅れてしまった事、申し訳ございません…。私たちを容認してくださり、ノイズの討伐にもお力添え頂いた事、感謝致します」

「それについてはこちらも懸念していたんだ。何せ悉く子供たちを灰に変えられるからね、君たちが来てくれてよかったと思ってる」

「…お館様」

「あぁ、そうだったね。こんな悠長なことを話している場合じゃなかった。アリスと炭治郎の事だ」


しのぶに諌められ、本題に入った耀哉に響たちは背筋を伸ばした。そしてしのぶに話した事、アダムの事、アリスの憶測、そして改めて自分たちの世界で起こった事を話した。
そうして全てを話し終えた時、耀哉はふむ、と考え込んだ。


「彼は、世界を越えてアリスを探しに来たのかな?」

「恐らくは…」

「という事は、アリスは元々こちらの世界の人間ではない、という事かい?」

「…わかりません。何せ、彼女自身も自分が何者で、どこから来たのかわからないようです」

「でも悪い子じゃありません!一度は私たちに敵意を見せたけど、それは後ろに庇うなほちゃんたちを守ろうとしたからで、アリスちゃんは…!」

「響、落ち着きなさい。アリスが悪い子ではないのは、しのぶから聞いている。好奇心旺盛でいい子だ」

「しのぶさん…」

「けれど、だからと言って今の状況を見逃すわけには行かない。鴉たちを総動員させて探させよう。そうすれば連れ去られた炭治郎とアリスの居場所も…」

「その必要はありません、お館様」


唐突に響き渡った声に、響たちは瞠目した。どこからともなく現れた男たちが降り立ち、響たちを睨み付ける。その男の姿を見て、しのぶはあからさまにため息を吐いた。


「あなたたちに招集はかかっていないはずですよ、不死川さん、伊黒さん」

「失礼仕りまする、お館様。なぜそのような怪しい輩たちに加担するのか、理由をお聞かせ願いたい。鴉からある程度は聞かされてはいるものの、些か信じ難いものばかり。それに、得体の知れない子供を容認していたのはなぜですか」

「そもそも並行世界なんてありえない。信じない。ただの狂人たちなのではないのか」

「きょッ…!」

「んだとてめぇら…ッ」


噛み付くクリスを制するようにしのぶが手を翳した。


「胡蝶、お前も並行世界だなどと妄言を吐くのか」

「私は自分の目で見たものしか信じません。並行世界と言われても、正直ぴんと来ていないのも事実…。ですが、実際に隊士たちが得体もしれない怪物に襲われ、灰にされた瞬間を、そしてその怪物を彼女たちが蹴散らす姿を何度も見ています。だから私は、彼女たちの本質を信じてみようと思ったのです」

「しのぶさん…」

「…お館様」


不死川は耀哉を見た。伊黒のように、響たちを信じていないのも事実。けれど、なぜ鬼殺隊を取り纏める長たる耀哉が彼女らに力を貸すのかが理解できなかったのだ。
耀哉はゆるり、と目を細め、響立たちを見つめた。


「たしかに実弥たちの言う通り、彼女たちの言う並行世界が本当にあるのかは証明できない。アリスも、何か大きな事に関わっているのも事実。…けれど、彼女たちは実際に私たちの前で未知の力を奮って見せた。誰もが刃を通す事のできなかったあの怪物たちに。アリスは守って見せた。蝶屋敷にいる子供たちを」

「それは…」

「それと、星が降る夢を見たんだ」

「は…」

「星、ですか…?なぜ…」

「六つの眩い星が、私に降り注ぐ夢を見た。決して吉兆とは言えない夢だけれど、そう経たないうちに何かが起こると思った。実際に起こってみせた。…直感だよ、恥ずかしい事に」


耀哉らしからぬ、あやふやな回答に不死川と伊黒はぽかん、と呆けた。かく言うしのぶも、傍らで目を丸くしているのだから珍しいのであろう。それを知らないのは響たち三人だけである。
耀哉は人差し指を口元に持っていき、息を吐いた。それだけで不死川たちは自分たちが何を言われているのか察し、もうこれ以上は何も聞く事ができないと言わんばかりに顔を背けた。


「話を戻そう。君たちの話を聞く限り、アダムを相手に私の子供たちでは歯が立たない、そうだね?」

「…誰もみな、剣技を磨き励んでいます。けれどアダムはそれを凌駕する。生身の人間ではただ被害が広がるだけ、どうかそこはご理解いただきたく…」

「わかっているよ。こちらも目的あっての鬼殺隊だ。そう簡単に人員を割くことはできない。けれど、手助けはする事はできる。炭治郎をも連れ去られた今、君たちに数人の子供たちを付けよう。彼らと協力し、どうか炭治郎とアリスを助けてほしい」


耀哉の願いを向けられた響たちは、一度顔を見合わせた。そして再び前を見据える時には一切の迷いを拭った決意を宿していた。


「必ず助けてみせます。アリスちゃんも、竈門くんも」

「そしてアダムの企みも…」

「もう一度ぶっ潰してみせる」




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