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難しいことばが夢に出てくる



「すみません、しのぶさん…」


深々と下げられる三つの頭を見て、しのぶはどうしたものやらと頭を抱えた。

鎹鴉から知らせを受け急いで帰ってきたしのぶが見たのは、屋根の大半が吹き飛んだり、壁が破壊されたり、庭などに大きな穴が空いていたりと悲惨な有様の自分の屋敷であった。
慌ただしく動いているアオイを捕まえ、詳細を聞いたしのぶは同じように手伝いをしている響たちの元に向かい、そうして出会い頭に床に頭を擦りつけんばかりに下げる三人がいて、冒頭に至るのだった。


「私たちの不手際です。まさかここにアルカノイズが来るだなんて思ってもみず…数人、隊士の命を散らしてしまった…」

「!ここに来たのですね」

「ただアルカノイズが来ただけじゃねぇ。恐らく、今回の事全面的に糸を引いてる黒幕も出てきやがった」

「黒幕…?」

「…アダム・ヴァイスハウプト。かつて私たちが倒したはずの人でなしです」


アダムはかつて響たちの世界にて、原初のアダムとして造物主と呼ばれる存在に造られたヒトのプロトタイプである。
完全すぎるが故に廃棄され、打ち捨てられた事実を認めなかったアダムは神の力を以ってして造物主への復讐と世界の支配者になるべく、響たちの前に立ちはだかった錬金術師たちのボス。

…確かに、倒したはずだったのだ。消えてもなお響に力を貸してくれたサンジェルマンたちの思いを握りしめ、野望もろとも打ち砕いたはずだったのだ。

なのに…


「オリジナルが遺した予備躯体だって、言ってました。きっと、キャロルちゃんと同じようにホムンクルスを造っていて、それに今までの記憶を全部移して動いている」


ホムンクルス製作は錬金術師にとって基礎中の基礎。ならば、腐っても錬金術師たちを取りまとめていたパヴァリア光明結社の統制局長であるならばきっと造作もない事なのだろう。


「それと、竈門くんとアリスちゃんが連れて行かれて…」

「目的はわかっているのですか?」

「わかりません…けど、アダムはずっとアリスを探していたようでした。世界の壁を越えてまで探していたアリスは、ただの少女ではありません。きっと、彼女もまた錬金術師…」

「けど、翼さん…アリスちゃんは、何も覚えていませんでした…。竈門くんと出会ったその時から今日までの記憶が何もないって、わからないって言ってました。言葉も竈門くんや我妻くんたちに教えてもらって話せるようになったって…」

「そもそもそれがおかしいんだよ。アダムに探されるような奴が記憶なんてもんぽんぽん飛ばしてそのへん歩き回るかよ」


しのぶは頭を抱えた。次から次へと想像もできないような事が立て続けに起こると同時に、理解の範疇を超えるような出来事ばかりだからだ。
錬金術師、アルカノイズ、パヴァリア光明結社、統制局長。当然ながらしのぶには聞き馴染みのない言葉ばかりで、けれど彼女たちの様子から、これからただならない事が起こるのであろうと予想は簡単についた。
聞けば、炭治郎に関しては連れ去られるアリスに巻き込まれて姿を消したようだ。

アダムはアリスを連れ去って何をしようとしているのか。何を目的にしているのか。きっとよからぬ事なのではというのはわかる。だからこそ早く止めないといけない。


「きっと、アリスちゃんは何かわけがあるのかもしれない。私はアリスちゃんを信じたい。接する時間は少ないけれど、それでも、アリスちゃんと笑って過ごした時間は嘘じゃありません!」

「ほんと、馬鹿…」

「…それはそうと、そのアダムとやらの居場所はわかっているのですか?」

「そ、それは…」


わからない。そう口にしようとした響たちの間に、滑り込むようにして一羽の鴉が舞い降りてきた。突然の鴉の登場に驚く響であったが、しのぶは一瞬で誰の鎹鴉なのかを理解する。


「カァー!響、翼、クリス、シノブ!タダチニ招集スベシ!」

「招集…」


しのぶは瞠目した。産屋敷からの突然の招集に、けれどいつかこうなるだろうと納得もしていた。柱合会議ではない、緊急招集。しかも、並行世界から来た三人を伴ってのもの。
お館様の事だ、三人を切り捨てるなんて事はないとは思うが、しかしどうするおつもりか。

考えても仕方がない。もしかしたら何か知恵を貸してくださるかもしれない。そう思い直したしのぶは、産屋敷の鴉を見送って響たちに向き直った。


「…今からあなたたちを連れてお館様の元へ向かいます」

「お館様って、確かしのぶさんたちの一番偉い人ですよね…?」

「えぇ。…あの方に隠し事はできません。そもそも隠すつもりなんて毛頭ありませんけど、呼ばれたという事はこの事態を看過できなくなったか、あるいは…」

「いえ、その方の招集に応じます。ただでさえ得体の知れぬ私たちを受け入れてもらっている身、何を言われようと、向き合うつもりです」

「いい心構えです。…それでは、行きましょうか」


蝶屋敷の事をアオイに任せたしのぶは、響たちを連れて産屋敷家へと足を駆けた。




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