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秘密をまぜても美味しくならない



「私たちはS.O.N.Gと呼ばれる組織に所属している者です。シンフォギアと呼ばれる鎧を纏い、彼らが遭遇した怪物…ノイズを唯一殲滅する事ができるのが私たちです」


三人を連れて蝶屋敷へと戻って来た炭治郎は真っ直ぐと(途中で善逸をアオイに預けて)しのぶの部屋へと訪れた。それぞれを立花響、風鳴翼、雪音クリスと名乗った三人は自分たちがこの世界の並行世界から来た事、炭治郎たちが遭遇したノイズの事、自分たちが纏うシンフォギアの事、そしてこの世界に来た目的を詳しく話した。

彼女たちの世界にあるギャラルホルンと呼ばれる聖遺物は、二つの似て非なる世界を繋ぐ力を持っている。この聖遺物の警告音に導かれ、彼女たちはこの世界にやって来たのだと言う。そして、ノイズ。ノイズは、人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害であり、一般的な武器、銃火器等は一切通用しない。このノイズに対抗するには、彼女たちが持つ聖遺物…もとい、異端技術の結晶たるシンフォギアが必須。
そしてシンフォギアとは、神話や伝承に登場する超常の性能を秘めた武具“聖遺物”の欠片から異端技術によって作られたシステムであり、位相差障壁を操るノイズを調律し、強制的に人間世界の物理法則下へと固着させる唯一の対抗兵装なのだ。


「並行世界…ですか…」

「信じられないかもしれません、けど、私たちはこの世界の異変を止めるために来たんです!」

「…しのぶさん、三人は嘘は言ってないと思います。俺は何が何だか、正直今でもちゃんと理解しているのか怪しいですけど…それだけはわかります」


嘘偽りのない、真っ直ぐな匂いを嗅ぎ取った炭治郎はそう告げる。実際に目の当たりにして、鼻の利く炭治郎が言うのだからきっとそうなのであろう。しかし、それらを全部受け入れられる程今のしのぶには余裕がなかった。


「あなた方の事は、おおよそ理解したつもりではいます。正直な話、向かった任務で隊員が炭に変えられている報告は何件か耳に入っていますし、俄には信じ難いですが、私たちが持ちえない知識をあなた方が有しているのは事実…」

「じゃあ…!」

「…少し、待っていただけませんか?私は鬼殺隊の柱であって組織の長ではありません。あなた方との協力関係を築くかどうかは、組織の長であるお館様に相談させてください」


それまでは屋敷の部屋を使ってくださいね。
そう言い残し、席を立ったしのぶを見送った四人の間に沈黙が降りる。…けれど、それを真っ先に破ったのは立花響であった。


「なんか、ごめんね。巻き込んじゃって…」

「いや、大丈夫だ。こうして生きてここに戻ってこれただけで嬉しいよ。…そう言えばまだ名乗っていなかった。俺は竈門炭治郎。よろしく」

「よろしくね、竈門くん!…あ、そうだ、竈門くんが背負ってたあの人は大丈夫だった?」

「善逸か?目を回していたけど、多分大丈夫だと思う」

「雪音が至近距離でぶっ放したからな。音に驚いて気絶してしまったんだろう」

「なッ…!あ、あれはすぐ後ろにノイズがいたからで、仕方なく…!」

「善逸はすごく耳がいいんだ。けど、あの場合仕方ないだろうから気にしないでくれ」

「ッ…わ、悪かったよ…」


むくむくと胸に罪悪感を募らせたクリスは、ぽそり、と小さな声で呟いた。誰にも聞こえない程小さな声だったが、隣にいた響には聞こえていた。だからこそこう思う。本当は優しい彼女は、どうしたって素直じゃない。

しのぶの部屋を後にした四人は長い廊下を歩く。その道中に三人は炭治郎からこの世界の事を聞いた。
ここは大正時代である事。ノイズだなんて怪物がいない代わりに鬼と言う人を喰らうものがいる事。そんな鬼を滅している組織、鬼殺隊の事。
聞けば聞くほど自分たちの世界とだいぶ情緒か違うのだと知り、困惑した。なぜなら今まで何度かギャラルホルンによって並行世界を訪れたことはあるが、こんなにも時代が離れていた事なんてなかった。これもまた、三人を困惑させる所以である。


「たんじろ!!」


三人を部屋に案内していた時、二つの匂いが走って来るのを嗅ぎ取った炭治郎は次に来るであろう衝撃に備え、腕を広げた。
角から白と黒が見えた瞬間、ぼふッ!と勢いよく飛びつかれる。けれど炭治郎は少しもよろける事もなく、飛びついてきた二人ーーアリスと禰豆子を難なく受け止めた。


「たんじろ、おかえり!!」

「お、おか、えり!」

「ただいまアリス、禰豆子」

「ずっと、まってた!かえってくるのおそくて、さみしかった…」

「ごめんな、寂しい思いをさせて…。けどもう大丈夫!怪我もしてないし、次の任務まではまたここにいるから」

「ほんと?やった、ねずこ!」

「うれしいねぇ!」


キャッキャと炭治郎の腕の中で喜び合うアリスと禰豆子のやり取りに頬が緩むのを感じた。一時はもう二度とこの光景を見れないと絶望したけれど、今こうして“ただいま”や“おかえり”が言い合える事に泣きそうになる。炭治郎は二人の背中に手を回し、ぎゅ、と抱き締めた。


「あの、竈門くん…その子たちは…」


感動の再会、みたいな事になっている三人に果敢にも声をかけたのは響であった。けれどその声音に困惑は滲み出たままで、同じくしてぽかん、と呆ける翼やクリスに顔を向けた炭治郎は口を開く。


「俺の妹の禰豆子だ。こっちはアリス」

「わ、たし、ねずこ!よろ、しくねぇ?」

「アリス」

「立花響だよ!こっちが風鳴翼さんで、こっちが雪音クリスちゃん!よろしくね禰豆子ちゃん、アリスちゃん!」


にっこり、笑って響は二人に向かって両手を差し出した。本人からすれば“仲良くなりたい”の握手の手なのだが、差し出された意味をよくわかっていないらしい二人は響と手を交互に見つめ、そんな二人の手を響は優しく握り、軽く上下に振った。


「なぁ、一つ聞いていいか?」

「ん?」

「妹っつったな」

「あぁ、そうだけど…」

「あの白いのもお前の妹なのか?にしては全然似てないけど」

「あぁ、アリスは違うよ。俺の任務先で出会ったんだ。当時は言葉がわからなかったみたいだったからここに連れてきたんだけど、今ではすっかりあの通りだ」


炭治郎の視線の先にクリスも目を向ける。裏表のない明るい性格の響とすっかり打ち解けたらしい禰豆子とアリスが、楽しそうにしている。それだけで炭治郎にとっては嬉しい事だった。
片や鬼となり、自我が薄かった妹。片や表情乏しく、人形のようだった白い少女。今となってはその事実が嘘のようで、善逸じゃないけれど、溢れんばかりの笑顔が見れるだけで幸せなのだ。


「といっても、実は俺、アリスの事あまり知らないんだ」


一緒にいるのに、変だろう?
なんて、笑いながら言う炭治郎だけど、ほんの少しだけ滲む寂しさの気配をクリスは目敏く見つけた。見つけてしまったからこそ、クリスは思わず口を噤み「そうか」と、たった一言、それだけしか言えなかったのだ。




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