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まぜこぜの色彩環



「…!」


ふと、空を見上げた。闇が支配する漆黒の夜空だ。何の変哲もない、いつも見上げているそれだけれど、強いて言うのなら、今日は満月だった。


「アリス?ど、どうし、たの?」


縁側で並んで座っていた禰豆子が、紅梅色の目を瞬かせてアリスの顔を覗き込む。アリスはゆっくりと、瞬きを二回繰り返す。


「なんでもないよ」

「ほ、ほんとう?」

「うん!ねずこは、やさしいね」

「えへへ。わたし、おねーちゃん、だから!」


むふふん、と得意げに胸を張る禰豆子は、そのままの手でアリスの頭を撫でた。誰かに頭を撫でるのは、とても好きだ。暖かくて、優しくて、すごく安心する。特に炭治郎の手が一番好きだった。禰豆子も、最近はしのぶも優しく頭を撫でてくれる。けど…


「(おねーちゃんって、なんだろう)」


湧き上がった疑問。初めて聞く単語に首を傾げるけれど、なんとなく暖かな響きで、アリスはそっと目を閉じた。


「(たんじろ、おそいなぁ)」


空間が歪む気配を感じた。ほんの些細な、静かな水面に小指ほどの小さな小石を投げ入れたような僅かな波紋だ。それに紛れるように、音が響き渡る。
けれどそれはアリスにしか聞こえない。

アリスだけが聞き取れたそれは、到来を告げる角笛の音だった。





***



炭治郎は困惑していた。突如として現れた奇抜な格好をした三人の少女たちが、攻撃の通じなかった化け物たちを次々と蹴散らしているからだ。敵ではないであろうと言うのは動きを見ていてわかる。けれど、だからと言って受け入れ難い目の前の現実を理解するのは難しかった。


「どうなってるんだ…」

「ぼさっとしてんじゃねぇ!」


呆然と目の前の光景を見ていた炭治郎は、すぐ耳元を掠めた鋭い弾丸の音に振り向いた。もうすぐ傍にまで迫って来ていたらしい化け物。弾丸は化け物の胴体を貫通し、そこから広がるようにボロボロと灰に変わる。
それを見て、声の主が助けてくれなければ自分がこうだった、と顔を青くさせた。


「おい、お前!」

「え?…うわッ!!」


声をかけられて、そちらを向いた瞬間に黄色い物体が飛んできた。咄嗟に受け取ったそれは目を回した善逸だった。


「お前、そいつの仲間か?」


化け物たちから炭治郎を守るように背を向け、目の前に立つ後ろ姿を見つめる。善逸を投げたのはきっと彼女だろうと、たくさんの赤い機械を身に纏った少女を見た。
赤い少女は振り返る事なく言い放つ。


「そいつを連れてここから離れろ!」

「ま、待ってくれ!君は、君たちは何なんだ!?それにあの化け物は…」

「説明は後だ!とにかく今はあの馬鹿と逃げろ!」


ガチャン、と少女の腰のギアが広がり、そこから大量の銃弾が放たれる。蠢く化け物たちをあっという間に灰に変えたその火力に炭治郎は目を見開くけれど、隣に降り立った黄色い機械を纏った少女に声をかけられ、善逸を背中に背負った。


「こっちだよ!」

「あ、待ってくれ…!ありがとう、助けてくれて!」

「…!…ふん」


返事は返って来なかった。けれど、彼女から照れた匂いを嗅ぎ取った炭治郎は照れ隠しだとわかり、口は悪いけど悪い子じゃないんだな、と思いながらその場を後にした。

先頭を走る黄色い少女の後をついて森を走る。留めてくれている周囲網から零れているのか、はたまたどこかから湧いて出てきているのか立ちはだかる化け物たちを黄色い少女がぶん殴りながら先を急いだ。


「大丈夫?まだ走れる?」

「あぁ、大丈夫だ!」


時折炭治郎を気遣いながら森の中を走り続け、暫くした頃、ようやく森から飛び出した。
立ち止まり、肩で息をする。森の中ではまだ爆発音が聞こえる事から、足止めしてくれている二人はまだ戦っているらしい。ある程度呼吸を落ち着かせた頃、炭治郎は少女に向き直った。


「助けてくれてありがとう。おかげで俺も善逸も助かった」

「いえいえ〜!人助けをするのは当然だから!」

「…教えてほしい。君たちが戦っていたあれは何なんだ?俺は実際に見てないからわからないけど、善逸…あ、今背負ってるこの人が、触られたら灰になるとか、刀で斬っても意味ないとか…。なのに、君たちはあっという間にあれを倒して見せた。俺たちはわからない事だらけなんだ」

「あれはノイズと言う怪物だ」


不意に凛、とした声が落ちる。同時に、足止めをしてくれていた二人の少女がすぐ近くに着地し、手に持つ武器を仕舞いながら言った。


「翼さん!」

「無事に逃げきれたようだな」

「クリスちゃんも、足止めありがとう!」

「今更ノイズ如きで手間取るかよ」

「あの、ノイズって…」

「君も対峙したさっきの怪物の事だ。人だけを襲い、触れた人間を炭素変換…つまり、炭に変える。あちこちに積もっていた灰はノイズに触れられた人たちだ。…もしかして、君の仲間だったのか?」

「はい…」

「…それと、私たちも君にいくつか聞きたい事がある。君もきっと聞きたい事、わからない事が山積みと見える。だから、こうしないか?」


そうして提示された交換条件のような交渉に炭治郎は一瞬頭を悩ませたけれど、何もわからないままでいるよりかはマシだと考え直し、快くそれを飲み込んだのだった。





「私たちが知る事を全部教える代わりに、君たちが知っているこの世界の事を詳しく教えてほしい」




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