#05
「足、大丈夫?」
「ん、何とか…。まだちょっと痛むけど、歩けない程じゃないよ」
「そっか」
あれから近くの神社に駆け込んだ私たち。なんとここは我妻くんが祓い屋修行をしていた時にお世話になった神社らしく、彼は勝手知ったると言うように社務所まで私を運び、手当してくれた。
「…ねぇ鳩間さん。さっきの今でこんなこと聞くのはあれなんだけど…付きまとわれてるあの霊に心当たりとかってない?」
ガーゼの上から包帯をくるくる巻いていく我妻くんの作業をぽけーっとみながら記憶をほじくり返してみるが、あんなめちゃんこな悪霊に付きまとわれる覚えも心当たりもない。その趣旨を伝えると我妻くんは「うぅーん…」と唸り出す。
「…元々霊とか変な奴に好かれる体質みたいなんだよね。だからかなって思ってるんだけど…」
「いや、それにしてはタチが悪すぎる。炭治郎も霊感は強い方だけど、そこまで悪質な奴に絡まれたことはないよ。…まぁ、俺はこんなんだから面白がられてちょっかいかけられるんだけどね」
はは…。と遠い目でから笑いする我妻くんに若干の憐れみを覚えた。…ちょっかいかけたくなる性格はしてるよね、この人。「はい、できたよ」「ありがとう」包帯を巻き終わった足を軽く曲げてみる。うん、大丈夫だ。
「でもさ、変じゃない?」
「何が?」
「だって、それほど霊を引き寄せる体質なのに対処法も知らないって…今までよく無事だったなって思って…。あッ、別に深い意味はないんだよ!?ただちょっと不思議に思っただけで、だから…!」
「ううん、大丈夫。ちゃんとわかってる」
わたわたと慌てて弁明する我妻くんがなんだかかわいくて思わず笑う。
「これでも昔は大した霊感なんて持ってなかったんだよ。けど…小3の時だったかな…。事故で両親が死んじゃってね」
「え、」
「私も一緒の車に乗ってたから。死にかけて、けど私だけ助かって。そっからかなぁ、霊感が強くなったの」
死にかけたり、死に関わったりすると霊感が強まるとは聞いた事はある。まさか私がそんなことになるとは思っていなかったけれどね。「ご、ごめん…」我妻くんが泣きそうになりながら謝ったから、私は気にしないでの意味を込めて笑った。
だって、もうずっと前の話だ。吹っ切れてるし、受け入れてる。
ほんと、優しいなぁ…
「それにね、今まで何とかなってたのは実は…」
「善逸!」
お菊ちゃんの事を話そうと思ったら、社務所の入口から竃門くんと嘴平くんと雀が入ってきた。…え、雀…?
「ごめん、逃がした…。チュン太郎もいてくれたのに、すまない」
「健八郎がもたもたしてっからだぞ!あんな奴、俺だけでも倒せた!」
「伊之助、お前は見えないだろう」
「いるのはわかんだよ!問題ねぇ!」
おう、急に賑やかになったな…。やいのやいのと嘴平くんが(一方的に)竃門くんに食ってかかるのを呆然と眺める。
「鳩間さん」
不意に竃門くんが私の方を向いた。
「あの人はきっと、もう一度君の所に行くと思う。今度は確実に引き摺り込むつもりだ」
「…そっか」
「だから、俺たちがいる」
我妻くんの存外大きな手が握りしめた私の手を包んだ。竃門くんは元気付けるように肩を叩いてくれて、嘴平くんはそっぽを向きながら菓子パン(どっから出した)を頬張りながらも、気にするようにチラチラと私に視線を動かしていた。
「あんな霊になんて鳩間さんを渡さないから」
「!!」
力強くそんな事を言われて、不覚にも胸がときめいてしまっただなんてきっと気のせいだと思う。
first ◇ end
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