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 #03






「うわぁぁあああそれ絶対ヤバい奴じゃん無理だよ俺死んじゃうよぉ」


放課後、竃門くんに連れられてやってきた空き教室にはよく冨岡先生にしばかれてる隣のクラスの我妻くんと年中半袖野生児嘴平くんがいた。
呆然とする私をよそに竃門くんはかくかくしかじかと我妻くんに私の事情を説明し、それを聞き終わるや否や冒頭にいたるのだった。


「だってその数珠砕けたんでしょ!?今までの中でも結構な自信作なのに紐が千切れるどころか粉々って!!」

「え、これ竃門くんが作ったんじゃないの?」

「正確には俺と善逸の合作だ。俺が作って、善逸が息を吹き込む」

「な、なるほど…」

「ねぇ俺の話聞いてる!?」


さっきからギャンギャンとやかましい人だ。…てか、今更なんだけど竃門くんが私には紹介したかった人ってもしかして…


「鳩間さん、善逸は祓い屋なんだ。普段はこんなんだけど、腕だけは本当にいいから」

「言い方酷いだろ!!さり気なくディスってんなよ!!」


…我妻くん、祓い屋なのか…。全然そんなイメージないしむしろ道行く女子に見とれるか冨岡先生にボッコされてるかしか見た事ないから余計に。
そんな考えが伝わったのだろう、我妻くんは「何その目!やだ!!」とまたしとどに泣き始めた。


「……さっきから聞いてりゃ、おいお前」

「え、あ、はい」

「そのままほっとくとお前死ぬぞ」





「……………え」


唐突に、今まであんぱんを一生懸命頬張っていた嘴平くんが言った。
一瞬何を言われたのか理解するのに時間がかかったが、彼はもう一度「死ぬぞ」と言った。マジか。竃門くんの数珠(あ、我妻くんが作ったのでもあるのか)が砕けた時点で結構ヤバい奴なのかなとは思ってたけど、まさか命に関わってくるようなものとは思ってなかった。いや、よくよく思い返してみれば、竃門くんが「連れていかせない」とかなんか色々言ってたな。あれはただの例えかと思ってたけど違ったんだ。


「伊之助!あまり怖がらせるようなこと言うな!」

「事実だろ!」

「言い方があるだろうが!」

「うっせーな!!遠回しに言ったってこーいうぽわっとした奴はわかんねーんだよ!」


なんか言い合いが始まったんだけど。本人そっちのけで。
なんて、内心で色々ツッコミを入れるものの、私の頭の中はさっきの嘴平くんの言葉がぐるぐるとこんがらがっていた。

死ぬ…死ぬの?いよいよ呪い殺されるの、私。今まで何回か死にかけたことはあったけど、今回のは今までの比じゃないくらい強力な悪霊ってこと?そんなん、マジで太刀打ちできないやつじゃん。私何もできないんだけど。

郵便受けから覗き込んだ落窪んだ2つの黒い目玉を思い出した。引き摺る音。圧迫されるような空気。腐った臭い。霊感が強い私だけど、あそこまで悪意を持った奴は初めてだった。ぶるり。体が震える。


「あの、鳩間さん…?大丈夫…?」

「!!だ、大丈夫…うん…大丈夫…」

「全然大丈夫じゃないだろう…!善逸、頼むよ。善逸にしか祓えないんだ。このままじゃ鳩間さんが…」

「わ、わかってる。わかってる…!けど、怖いんだ…。俺、じいちゃんみたいにすごい祓い屋じゃないし、弱いし…」


涙目で震える我妻くんを見て、ふと、冷静になった私がいた。そうだ、誰だって怖いんだ。いくら祓い屋だとしても、我妻くんも普通の男の子で、悪霊とか怖いに決まってる。なのに私ったら、自分の都合ばかり考えて、無理強いしようとして。


「………ごめん、私帰るね」

「え、」

「皆に迷惑かけて馬鹿みたい。幽霊とかめっちゃ怖いけど、それは私だけじゃないし。皆怖いし。…自分でなんとかしてみるよ」

「け、けど鳩間さん…」

「竃門くん、わざわざありがとうね。我妻くんも、無理させてごめん。…嘴平くん」

「あ?」

「…なんとか、頑張ってみる」


そうして私は空き教室を後にした。








first ◇ end

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