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 #番外編:怖いお兄さん






私、ピンチです。


「ア"…ア"ァ…」

「(怖い怖い怖い怖い!!)」


すぐ隣で声にならない呻き声をあげるそれに私はガチ泣き一歩手前である。
なんとなく散歩してて、ちょっと休憩しようと公園のベンチに腰掛けたのが運の尽きであった。隣に誰かが座った気配がしたから、ちょっと詰めようと思って端によって顔を上げれば、そこにいたのは腕画あらぬ方向にひん曲がった人じゃないものだったのだ。
「あ、ミスった」私がそう思ったのとそれが私を認知したのはほぼ同時で、先程からずっとまとわり憑かれている。やばい。


「み、ぇる…みえ、るゥウ…?」

「(視えてない視えてない視えてませんからはよどっか行け!!)」


去りたい。早急にこの場を去りたい。だけどこれ、下手に動いたらダメなやつ。私知ってる。
今にもこぼれそうな涙をどうにか止めながら震えている私は、はたから見たらだいぶシュールなのだろう。それでも、怖いものは怖い。お願いだからはよどっか行け。祈るばかりである。


「……」

「…(ん?)」


不意に影が掛かった。突如として視界の中に現れた見慣れない足に内心でたまげながら、ゆっくり視線をあげていく。そうしたら、眉間にこれでもかと皺を寄せた仏頂面をしたお兄さんが私を見下ろしていて、今度は別の意味で泣きたくなった。

何、何なの。怖い。ほんと、隣に悪霊正面に不良とか、厄日すぎる。きっと今日の私は呪われてるんだ…

怖いお兄さんの手が伸びてきた。む、胸倉掴まれる…!?それとも挨拶代わりのパンチ!?カツアゲ!?うわああああん助けて親分!!


「ギェッ…」


咄嗟に目を閉じて俯いていると、隣で小さな断末魔が聞こえた気がした。「え…?自分がさっきまでバレないようにしていたのも忘れて声を上げてしまう。
さっきのお兄さんが何をするわけでもなく…いや、実際に何かしたんだろうけど、あまりにも自然な動作で行われたそれに何が起こったか理解するのに時間がかかった。
パァンッ!と弾け、瞬く間に灰になって消えていく悪霊を呆然と見つめていると、視界の端でさっきの黒いお兄さんが踵を返したのが見えた。


「あ、あの…!」

「あ?」

「ぅ…」


思わず呼び止めてしまったけれど、振り返った時のお兄さんの眼力に怯んだ。というか、めっちゃ目つき悪い…怖いんだけど…
「あの、ありがとうございました…」どうにか絞り出せた言葉は情けないくらいに震えていて恥ずかしい。


「お前を助けたんじゃねぇ。祓うべき奴がそこにいた。ただそれだけだ。勘違いすんじゃねぇ愚図」


そう吐き捨ててお兄さんは去って行った。去り際に勾玉のような特徴的な首飾りが太陽に反射してきらりと光る。「えー…」なんて、言われよう…いやまぁ確かにそうだけど、もうちょっとなんと言うかさぁ…
別にアフターケアがほしいわけじゃない。ただ、我妻くんのあの感じに慣れてしまってるから少し寂しく感じるだけだ。


「…とりあえず帰ろう…」


もう今日は下手に動き回ったりなんてしない。ずっと家にお菊ちゃんといる。
半分遠い目をしながら決意した。








first ◇ end

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