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 #19





あの時、鳩間さんと一緒に来た時は、煌びやかなライトも賑やかなパレードも、胸がわくわくした夢のような時間であったはずなのに、今はただチカチカと鬱陶しげに点滅する電球の塊にしか見えなかった。


「やっぱり、ここにいた」


閉園した遊園地のゲートの前に佇む小さな影ーー鳩間さんは、何をするわけでもなくじぃ、と遊園地を見上げていた。


「よくここがわかったね。誰かの入れ知恵かな?」

「勘だよ。何となくここにいるような気がした。それだけ」

「へぇ、すごいね」


からから、おかしそうに笑いながら喋る鳩間さん。彼女から響く音が、気配が、空気が、お菊ちゃんの比にならないくらいの怨念に支配されている。今までどれほどの悪い気を吸い続けてきたんだ。俺でさえ鼻を覆いたくなるほどの匂いで、炭治郎だったらきっと卒倒してたんじゃなかろうか。

ゆっくり、鳩間さんが振り返る。姿形は鳩間さんのままだけど、笑顔が違う。あの子はあんな狂ったみたいな笑い方はしない。柔い日差しのような笑顔が似合う鳩間さんの顔で、そんな歪んだ笑みを作らないでほしい。


「鳩間さんを返せ」

「返せ、だって?おかしいな、だって、そのセリフはあたしのものだ。お前が返せ。お前が、お前らがあたしから奪ったくせに」

「俺たちは何も奪っちゃいない」

「嘘だ!!!」


どんッ!まるで地震でも起きたかのような振動に思わず膝をついた。


「わかっちゃいない、何もわかっちゃいない!そうやってお前らは、見えない誰かを簡単に踏みにじってみせる!何もかもを全部あたしたちのせいにして!」


激しい怒りの音。チューニングのズレたピアノを調も音符も関係なく打ち付けただけの汚い不協和音のような悪霊の音に耳を塞いだ。
等間隔に並ぶ街灯や近くのビルの窓ガラスが次々に割れていき、あちこちに降り注ぐ。


「あたしはただおねえちゃんのそばにいれればよかった!お母さんやお父さんの心の中に少しでもいれるだけでよかった!なのに、なのに!あたしの事なんて全部忘れて!全部なかった事にして!だから殺してやったのよ!!」


一際大きい声で叫んだ瞬間、ばづんッ!と右耳で何かが弾ける音がした。それと同時に右耳から一切の音が途絶え、血の気が引く。鼓膜が、破れた…!


「おねえちゃんだけには忘れてほしくない!誰のところにも行ってほしくない!ずっと、ずっとあたしといるの!仲良くなったってどうせ皆おねえちゃんを傷付けて離れていく、それなら、初めからあたしといれば、おねえちゃんは傷付かない、幸せになれる!」

「それは、違う…!」


だらだらと右耳から流れる血を乱雑に拭って、鳩間さんを見つめる。鳩間さんの顔で心底不快だと言わんばかりに睨みつけられてちょっと…いやだいぶ心がしんどいけど、払拭してただ見つめた。


「ずっと考えてたんだ、鳩間さんはどうしてあんなに引き寄せてしまうんだろうって。初めは、事故にあって死にかけた際に霊感が強くなっただけだと思っていたけど、じいちゃんや君の話を聞いて確信した。…きっと、君が鳩間さんの中にいるからだ」

「は?」

「視る力が強くなったのは事故がきっかけだと思うけど、それに追い打ちをかけるように君が負の感情を抱えて鳩間さんの中に入り込んだから、周りにいるよくないものを引き寄せている」


「違う」ぽつり、小さな声が聞こえたけど、俺は続けた。


「水子、なんだろ…君…」








first ◇ end

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