#17
鳩間さんが運ばれた総合病院に来てみれば、看護師さんたちがなんだか慌ただしそうに走り回っていた。
「なんだ…?」
皆が皆、血相を変えていて…それに、少し様子がおかしい。
邪魔にならないようロビーの隅に移動して、耳を澄ませた。そうすると病院中の音が全部俺の耳に届く。
ー…だ…知ら…?
ーどこ……い
ー出…多量で死…
ー早く見つけないと
ー…号室の患者さんって、なんて名前だっけ?
ー部屋一面に夥しい量の血が飛び散っている!誰もここに入るな!
ー鳩間さんがいなくなったらしいわよ…なんでも、壁に“カエセ”って血文字で書かれていたんだって…
ーえ、何それ怖い…!
はッ、と意識を戻す。なんとなく状況が掴めた。どうやらここに搬送されたらしい鳩間さんが忽然と姿を消した上に、鳩間さんがいた部屋一面に大量の飛び散った血と血文字が書かれていたことから、謎の怪奇現象として二重で騒然としているようだった。
「まずい…」
喧騒を背中に病院を飛び出した。鳩間さんに取り憑いていた悪霊が完全に表に出てきてしまっている。病室の騒動はきっとそいつのせいだ。鳩間さんの体を乗っ取ったその悪霊が病院を抜け出してどこかへ行ってしまった。悪霊の目的…かえせ、が何を返してほしいのかがわからないけど、もし鳩間さんを道連れにしようとしているのなら止めないと…!
鳩間さんの行きそうな場所が全然検討がつかなくて、きっと今頃準備が終わっているであろう炭治郎たちに応援を頼もうとスマホを取り出した瞬間、ぐしゃッ!と何かを踏んずけた。
「え」
固くもなく柔らかくもなく、街灯のない夜道でそれが何か全く分からないがとりあえずよろしくないものを踏んずけたのはわかる。何この背筋が凍りそうな程の殺気…!!怖い!!怖いんだけど!!
そろぉ…と足をどかし、嫌だけど、本っっっ当に嫌だけど!!スマホのライトを足元に当てた。
そしてすぐに後悔した。
「イ”ヤ”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」
蠢いていたものはなんとぐっちゃぐちゃに潰れた日本人形だった。てか、怖い!!めっちゃ怖いんだけど!!何!?何なの嘘すぎじゃない!?なんでこんな所にこんなもんがあんの!?誰!?誰なのこんな罰当たりなことした奴!!不法投棄した奴!!殺されるよ!?
「ぜ…ぜ……」
「シャベッタアアアアアアア!!!!イヤアアアアアア!!炭治郎助けて!!炭治郎おおおおお!!!」
「ぜ…ぃ…つ…」
「え?」
ふとぐちゃぐちゃの日本人形から聞こえた音に口を噤んだ。錆びて拙い、言葉にならない声が発したそれ。震える手を押さえつけてもう一度それにライトを当てると、とても見覚えのある着物を着ていて目を見開いた。てゆーか、これ、もしかして…
「お…お菊、ちゃん…?」
瞬間、ぶわッ!!とお菊ちゃんから真っ黒な影のようなものが噴き出てきた。それは俺を飲み込むように四方に広がり、そして、ばくん。目の前から一切の光が途絶えた。
first ◇ end
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