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 #16





「ただいま」


随分と使い古びた鍵を差し込んで何事もなかったかのように杜羽は帰ってきた。昼間あれほどの血反吐を吐いたとは思えないようなしっかりとした足取りで自宅へと足を踏み入れた杜羽は、文字通り本当に何もなかった。
レントゲンやらなんやらの精密検査をしてもなお、杜羽の体は健康体そのもの。本当であればまだ検査入院をしているはずなのではあるが…


「お菊ちゃん、ただいま」


杜羽はいつものように、彼女の祖母がくれた大切な日本人形に声をかけた。途端に、お菊ちゃんは威嚇するように、この部屋から“異物”を追い出そうとするようにガタガタと激しく揺れた。


「…やっぱり君にはわかっちゃうか。そりゃそうだよね、ずっと一緒にいたんだもの」


そんな荒ぶるお菊ちゃんをものともせずに杜羽…否、杜羽“だっだもの”はお菊ちゃんを掴みあげた。尚もガタガタと揺れ続け、髪は伸び目から血の涙を流すお菊ちゃんは呪いの人形としての権能を遺憾なく発揮しているのだが、杜羽“だったもの”は戯れ嗤うように、花の茎を手折るようにぐちゃり、ただの片手でお菊ちゃんの頭部を潰して見せた。


「けど、君はいらない。必要ない。だって邪魔だもん。ずっとずっと、君がいるからあたしは息を潜めるしかなかった。けど、今は君よりあたしの方が強いから」


ごとり。床に打ち捨てた日本人形はさっきと打って変わって微動だにせず、ぴくりとも動かない。無惨にも頭部を潰され、そしてさらには足で日本人形の胴体を潰した。


ぐしゃ。ぐしゃ。ぐしゃ。ぐしゃ。


何度も、何度も、何度も、何度も。日本人形を踏みつけて、そして、杜羽“だったもの”は口元を三日月みたいに歪ませる。


「これでいい。これであたしのもの!もう誰にも渡さない!あげない!」





「あたしのおねえちゃん」





うっとり、恍惚に頬を染める彼女は知らない。
潰したはずの日本人形がこの部屋からいなくなっている事に。








first ◇ end

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