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 #14





朝起きると、体がなんだか重たかった。重いっていうか、倦怠感?全身がだるい感じ。そういえば昨日のお風呂上がりはあまりに浮かれすぎて頭を乾かすのが遅かった。もしかしてそのせいで風邪を引き始めたのかもしれない。けれど、体温を測ってみれば、36度7分と至って平熱。


「…まぁ、大丈夫か」


病は気からって言うし、変に気にすればそこから発熱したりするから気にしないでおこう。
布団をたたみ、手早く用意をすませて予めトースターにセットしていた食パンを齧る。因みに余談だけど、私の家にバターなんて高価なものはない。素材の味を楽しむべし。

そうこうしているうちに家を出なければいけない時間になった。竈門印の塩が入ったお守りと我妻くんのおじいちゃん作の数珠を持ったのを確認してお菊ちゃんの前に立つ。


「お菊ちゃん、行ってきます」





朝のホームルームも、2時間目の退屈な国語の時間も、特に何事もなく過ぎていく。けど、4時間目に入って少しした頃、急に寒気が全身を駆け抜けた。


「こほッ…」


ついでに言えば喉もいがいがするし、お腹も痛い。これは…本格的に風邪を引いたんじゃ…。平熱だからってマスクして来なかったのはさすがに不味かったかなぁ、なんて後悔する。


「…鳩間、どうかしたかァ」

「え?」


少しでも喉の痛みがやわらげばと摩っていると、黒板にチョークを滑らせていたはずの不死川先生が私を見ていた。そのせいでクラス全員の視線が私に集まっていて少したじろぎ、思わず素っ頓狂な声を上げた。


「顔色が悪ィ。風邪でも引いてんのかァ?」

「い、いえ…少し喉が痛くて…風邪とかそんなんじゃ……、ごほッ!ごほッ、ごほッ!!」


突き刺さる視線と私のせいで授業が止まっているいたたまれなさにすぐさま否定しようとすれば、突然激しく咳き込んだ。あまりにも突然すぎて私自身もびっくりしたけど、先生に言われたからわざと咳してるんじゃないかって思われたくなくて止めようとするけど、一向に止まらない。


「げほッ!ごほッ!」

「鳩間さん、大丈夫…?」

「ごほ、ごほッ…ごぶッ!」


早く止めないと、と焦る。近くの竈門くんがそう声をかけてくれた瞬間、一際大きく咳き込んだ。びちゃ!!と机いっぱいに赤が飛び散った。私の隣に座る女の子の悲鳴を皮切りにクラス内が騒然とする。


「ごぼッ、ごぼぉ!!」

「おい!誰かタオル寄越せェ!!」

「こ、これ使ってください!!」

「鳩間!!しっかりしろ!!」


未だ血を吐き続ける私の口にタオルを当てる不死川先生だけど、私の頭は存外冷静だった。なんていうか、第三者としてこの映像を見てるような、そんな感じ。「鳩間さん大丈夫!?」竈門くんの心配する声が聞こえる。


「とりあえず自習だ!!全員教室から出るんじゃねェ!!」


「今から保健室連れてってやるからなァ!」血を吐き続ける私を自分が血塗れになるのも構わずに抱き上げた不死川先生。教室内は依然として騒然としたまま。だけど…


ーーばんッ!!!


突如教室内に響き渡る大きな音に一瞬にして静まり返った。


「ひッ…!!」


窓のすぐ側にいた男子生徒から引き攣った悲鳴。うっすら目を開けてそっちを見ると、真っ赤な手形が窓ガラスに写っている。


ーーばんッ!!!ばんッ!!!ばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばん!!!


そして、手形は一つだけではおさまらず、窓一面に夥しいほどの赤い手形が付けられていく。当然の如く、窓の向こうに人がいるわけではない。静寂に包まれた教室が今度は恐怖の悲鳴に飲み込まれた。このわけのわからない状況にさすがの不死川先生も、真っ赤に染まった窓ガラスを凝視したまま固まっている。


「…鳩間さん、まさか…!」

「…!竈門てめぇ、何してやがる!!」


唐突に竈門くんが血塗れの私のシャツのボタンを外し始める。それを不死川先生が怒鳴りつけるが、竈門くんはそれを無視して第三ボタンまで外した瞬間、竈門くんと不死川先生2人の顔色がさッ、と青ざめた。


「鳩間、それ…」


それはなんだ…?
ほんの少し、近くにいる私だからわかる不死川先生の震えた声。その視線を辿った私の胸元に、小さな子供くらいの手形や指の跡が赤黒い痣となって夥しく広がっていたのだった。








first ◇ end

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