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 #13





「本当に大丈夫?平気?」

「うん、大丈夫!心配しすぎだよ、我妻くん」

「心配するに決まってるでしょーが!」


全くもう!
ぷりぷりとほっぺを膨らませて怒る我妻くんが存外子供っぽくて、思わず笑ってしまった。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまって、気付けば私たちは最寄りの駅でさようならをしなければいけない。そのさようならがこんなにも名残惜しく思えるのは、寂しいようで嬉しい。


「本当の本当に気を付けてね…?俺すっごく耳がいいから、何かあったら大声出すんだよ?」

「心強いや。じゃあ、そうなったら遠慮なく我妻くんを呼びつけようかな」

「あ、やっぱり今のなし!無理!怖い!」

「私も怖いからね!?」


なんて、言いながらもちゃんと来てくれるって事は、彼と関わってきた中で知っている。今度こそちゃんとばいばい、また学校中でね。と手を振り、帰路につく。

…本当に、楽しかった。浮き足立つってきっと今の私みたいな事を言うんだろう。心も、体も、頭も、どこもかしこも浮かれて仕方がない。


「へへ…」


緩む頬をそのままにアパートの階段を駆け上がる。「ただいま!」返事は当然ない。けど、お菊ちゃんがいてくれるから寂しくはない。
居間に上がり込み、さっそくお菊ちゃんに今日の事を報告した。


「あのねお菊ちゃん!今日ね、すっごく楽しかったんだよ!遊園地初めて行った!ジェットコースターがすっごく早くて、我妻くん白目剥いてたんだよ」


お菊ちゃんは人形だから話はしない。けど、ちゃんと聞いてくれてるって知ってる。


「それと、友達が増えたんだよ」


そう、これ。これが一番お菊ちゃんに伝えたかった事。きっと、お父さんやお母さんよりも私のそばにいてくれたお菊ちゃんに、誰よりも先に言いたかった。胸に手を当てれば、その時に感じた暖かい陽だまりが蘇る。ぽかぽか。ふわふわ。形容しがたいこの感情は決して不快なんてものではなく、心地がいい。

お菊ちゃんの髪に触れる。毎日私がお手入れしてるからツヤツヤのさらさら。


「我妻くんがね、友達って言ってくれたんだ」


ぽたり。うつ向けば膝に水滴が二つ。ダメだ、気が抜けたら涙腺が緩くなってしまう。そうだ、お風呂に入ろう。頭からシャワーをかぶれば、少しはマシになるだろう。
お菊ちゃんに一言添えてから脱衣所に向かう。ひんやりと心なし冷たい風が足の間をすり抜けて、ぞわッと背中を駆け登った。

カラスの行水、ほどではないが、できるだけ早くお風呂をすませた。体中についた水滴をバスタオルで拭って、ふと何となしに鏡を覗き込んだ。


「…あれ、何だこれ」


右肩に小さな二本線の青痣。触っても別に痛くはないけれど、もしかしたら知らないうちにどこかにぶつけてしまったのかもしれない。「まぁ、いっか」なんて、特に気にする事もなく服を着込んだ。








first ◇ end

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