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 #12





恐ろしく何もなかった。何かあってほしいだなんて微塵も思わないけれど、遊園地なら何かしらがいてとおかしくはないのに、本当に何もいないのだ。
嬉しいと思う反面、少しの不気味さを胸に遊園地を駆け巡った私たち。けれど、次第にそんなマイナス思考はどこかへと消えていき、今は目一杯満喫しているのであった。


「じいちゃんの数珠が割れたって…それ相当まずい相手だったって事だよね…?」

「…今思えば、よく生きてられたなって…」

「本当だよ!!何数珠にひび入るって!怖すぎるんですけど!!」


お昼ご飯を食べるには些か遅い時間に、遊園地内のレストランへ足を運んだ私たちは、それぞれが注文した料理をちまちまつついていた。
話の内容は、必然的に電車での出来事となる。


「ひび入ってるけど…大丈夫、じいちゃんの力の気配はするから、まだ鳩間さんを守ってくれるよ」

「我妻くんのおじいさんすっごいね…」

「ほんと、敵わないよ…」


ハンバーグを一切れ口に放り込んだ我妻くんにならい、私も付け合せのサラダにフォークを突き立てる。鼻を抜けていくドレッシングの香りにほんの少しだけ頬を緩ませ、もう一口。


「…最近どう?何か変わった事とか…変な事とかない…?」

「うん。今のところはね。よく見かけはするけど、我妻くんに言われた通り見えてないふりしてれば何もされないよ!…まぁ、今日のは例外だけど…」

「そっかぁ…」


我妻くんは心底安心したようにほっと息を吐いた。
本当に、彼は優しい。こんな私の事を気にかけてくれて、自分の事のように安心してくれるし、自分の事のようにどうにかしようとしてくれる。
どうして、そこまでしてくれるのだろうか。


「どうして…」


そんな事を思っていたからか、無意識にぽろッと呟いていたらしい。はッと我に返って口を覆うも、ばっちり聞こえていたらしい我妻くんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいにぽかん、と呆けていた。


「どうしてって…そんなの友達だからに決まってるじゃん」

「友達…」

「てゆーか困ってる女の子いたらほっとけないよね!男の風上にも置けないって言うか!本当はさらッと解決!みたいにしたかったんだけどごめんね!」


ぐだぐだ。ぐだぐだ。よく回る口で我妻くんが延々としゃべり続けるけれど、そのほとんどが頭に入ってこない。友達…友達…友達、かぁ…
きっと何気なく出てきた言葉なんだと思う。けど、それを真正面から言葉にするのって簡単なようですごく難しい。だから…


「…鳩間さん?」


私のこの体質を知った人たちは、皆私から離れていった。当然だ。人間という生き物は、少しでも自分と違うものがあればとことん迫害する生き物だ。だから高校では誰にもバレないよう気を使ったし、怖いの全部我慢して、やっとあの一人の友人を得られた。これ以上は傲慢だと、贅沢だと思っていたのに、我妻くんはさらっとそういう事言っちゃうから。


「友達で、いいの…?」

「…俺が言える事じゃないけど、鳩間さんって案外不器用だよね」

「そう、かな…」

「そうだよ。それに、友達でいいのって、地味に傷付く…」

「な、なんで!?」

「だって、俺はもう友達だと思ってたのに、鳩間さんはそう思ってないって結構ぐさッとくるって言うかなんと言うか…」

「ご、ごめんね…そんなつもりじゃ…」

「謝らないでよー!!鳩間さんの気持ちはさ、痛いくらいわかるよ俺。だって、俺も同じだったし、どうすれば普通でいられるかすごく考えたから…」

「我妻くん…」

「けどさ、炭治郎たちと出会って、俺の体質とか全部知っても変わらずにいてくれてすごく救われた。だから、少しでも鳩間さんが気が抜ける居場所になれたらって……はッ…!?お、俺今すっげー恥ずかしい事言わなかった!?上から目線で何言ってんだった感じだよね!?ごめんねええええええ!!!」


いつものように泣き出した我妻くんにすぐ近くに座ってる人たちがちらほら視線を飛ばしてくる。少し恥ずかしい。二重の意味で。


「それに、きっと炭治郎も伊之助も、鳩間さんの事友達だって思ってるよ」


恥ずかしいけど、それよりも“嬉しい”って気持ちが膨らんで膨らんで、ふわふわと足元が覚束無い。これがきっと幸せって感覚なのかなって。


「……うん」


こんなにも、胸が暖かい。こっそりと袖で隠して拭ったものがしょっぱくて、しょっぱいけど、全然、嫌じゃなかった。








first ◇ end

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