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 #09






あとから聞いた話、悪霊と化していた私の母は、ただ一人この世に残された私を心配したその未練が様々な念や霊を呼び込み、一つの集合体としてあんな悪霊になったのだと我妻くんに教えてもらった。

本来ならば守護霊として存在するはずだったらしく、けれど、たくさんの思念体が密集してしまったあの時点で私の“母”としての自我は失われていたそうで、祓うしかなかった事を我妻くんにすごく謝られた。

彼が謝る事はないのに。むしろ、そんな事をお願いしてしまった私こそ彼に謝らないといけないのに、どこまでも本当に優しい人だ。


そうして私の心霊ライフは終わりを告げた。


………………………と、思っていた時期も私にもありました。


「おはよー!」

「おはよう(うわぁ)」


今日も元気いっぱいで背中に飛びついてきた友人に呆れつつも、どうしようもなく視界に入ってくる見るからにやばそうなやつに冷や汗を流す。

えぇ、はい。全然終わってませんでした。心霊ライフ。なんならより一層見えるようになって私のライフがもうゼロです。

ふらり、ふらり、友人の背後に佇む人影を視界に入れながらスカートを握りしめる。
ひたすらにブツブツと何かを言いながら友人に張り付いているソレに恐怖しか感じない。てか、どこでそんなんくっつけて来たんだお前!!登校するまでにどこに行ってきたんだ!!

なんて、どうにかソレと目が合わないよう友人の話に相槌を打っていると、にゅッとそいつが私の目の前に現れた。


「(いやあああああああ!!!)」


寸でのところで出てきかけた悲鳴を、歯を食いしばることによって耐えた私。
「今日も暑っついねぇ〜」そう呑気に言って笑う友人をよそに、あろう事か私の顔を覗き込むように見てくるソレに私は失神寸前であった。
目合ってる…超目合ってるんだけど…!!やだなに怖い怖い怖い!!!なんで覗き込んでくるの!?


『オハよ…』


ギャーーーーー喋った…!!これは…絶っっ対に反応しちゃいけないやつ!!!見えてないふりをしろ私!!
震えそうになる体をほぼ気合いで押し込んでる私超えらい。あかん…涙出そう…


『オハヨ…』

「なに?どうしたの杜羽、顔真っ青だけど体調でも悪い?」

『み、ミエる…?』


いいえ見えません。私は何も知りません。


「ちょっと、聞いてる?」


うん聞いてるごめんけど待って!!今ほんと待って!!てか、はよどっか行けよいつまで目の前にいるんだよおおおおお!!


「猪突猛進ー!!ともこー!!」


いよいよ涙が溢れる一歩手前、そんな声とともに突然目の前に現れたそれに腰が抜けるかと思った。
彼…嘴平くんは私の肩をがしッ!と掴むと勢いよく前後にシェイク。「ともこ!!あんぱん寄越せ!!」ちょ、やめろお前中身が出るだろうが!!てかともこ誰!?


「嘴平くんじゃん。おはよー」

「あぁーん?誰だテメェ」

「中学一緒だったのに覚えられていない事実」


落ち込むわけでもなくからからと笑う友人を横目に、ふとさっきまでそこにいたやつがいないことに気付く。目だけで軽く周囲を見渡せど、気配どころかどこにもいない。


「探すんじゃねぇ。バレんだろうが」


嘴平くんは友人に聞こえない音量で私に言った。え…?どう言う事…
きょとり、目を瞬かせると彼はふんッ!とそっぽを向きながらふんぞり返る。


「権八郎に頼まれたからな!俺は親分だから子分を守ってやんのは当たり前だ!」

「え、なに子分って。杜羽いつから嘴平くんの子分になったの?」


いや知らんけども。そもそも権八郎すら誰かわからないのにそんなハードな…


ー伊之助は見えないけど、気配でなんとなくわかるらしいんだ。おまけに寄せ付けたりしない体質だから、何かあったら伊之助のそばにいるといい。


そこまで考えたところで、先日竈門くんに言われた言葉を思い出す。そんでもって権八郎が竈門くんの事だったと言うのにも気付き…


「(いや、“郎”しかあってないじゃん)」


そう突っ込んだ。

嘴平くんに目を向ければ、まるで褒めてくれと言わんばかりのドヤ顔。


「…ありがとう、嘴平くん。本当に助かった…!」

「親分に不可能はねぇんだよ!」

「なに?なんの話?」


頭上に疑問符を並べる友人。何はともあれ、助けてくれた嘴平くんに全力でお礼を言い、お礼代わりにめちゃくちゃパンあげた。

嘴平くん…いや、親分…一生ついて行きます…








first ◇ end

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