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 #07




「ごめんね、わざわざ送ってもらって…。あ、これもよかったら食べて。近所の和菓子屋さんのおはぎなんだけど、めっちゃおいしいんだ」

「あ、うん、ありがと…」


俺は今すごく緊張している。あの後解散した俺たちは、鳩間さんを1人で帰すわけにはいかないから俺が送る役目をかって出た。
彼女の家に着いたらせっかくだしお茶でもと言ってくれた鳩間さんにほんのちょこっと下心を持ちながら上がらせてもらったら、とんでもないのがいて泣きそうである。
…いや、もうすでに泣いてる。


「…………………………」

「(見てる見てる見てるめっちゃ見てるッ!!!)」


初の女の子の部屋はちょっと古めかしいけどいい匂いがするのに変わりないし内心小躍りしたいレベルで嬉しいはずなのに、戸棚の上に飾られてある日本人形からの禍々しい謎のプレッシャーで素直に喜べない。
やべぇ…冷や汗が止まんない…!なんたってこの子あんなの飾ってんの…!?てかあれ、え?普通の日本人形じゃなくね!?確実に呪いの類だろうが!…はッ!?も、もしかして鳩間さんに付き纏ってるのを呼び寄せてるのって…!!


「我妻くん?顔色悪いけどどうかした?」

「ヒョエッ…!?い、いやいやいや!何でもないよ!」

「(ヒョエ…)そう?」


おはぎを頬張る鳩間さんがハムスターみたいでかわいい。条件反射で緩みきった頬をそのままに眺めていると、またもや視線…というより、殺気。
ちらッと戸棚の日本人形に視線を向け……


「イヤァァアアアアアアアッ!!!!!」

「うわぁぁああああ!!?な、何!?いきなり何!?」


思わず鳩間さんにしがみついてしまったが、それどころじゃない。そう、それどころじゃないのだ…!!


「え!?なんか髪の毛伸びてない!?気のせい!?さっきまで肩下だったのに今床についてんだけど!!!…て、鳩間さん!?」

「ふふッ…あ、我妻くん…!ほんと、面白い…!あはは!」

「いや笑い事じゃないから!!だってあれ…!!」

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ」


俺にしがみつかれた鳩間さんはするん、と抜け出すとあろう事かなんの躊躇もせずに日本人形を手に取った。
ギャァアアアアアアア!!!の、呪いが鳩間さんにッ…!!


「……あれ」

「ね?大丈夫でしょ?」


呪いの人形(仮)は、鳩間さんにだき抱えられるや否や先程まで垂れ流されていた禍々しい殺気諸々を引っ込め、代わりに柔らかい空気を纏った。


「この子ね、お菊ちゃんって言うの。小1の誕生日の時におばあちゃんがプレゼントしてくれてね、そっからずっと一緒なんだよ」

「で、でもそれ…」

「めっちゃ髪の毛伸びるんだよ〜。それに、気付いたら全然違う所にいたりとか?」

「いやいや普通に怖くね!?」

「最初はめっちゃビビったけど、お菊ちゃんがいたら悪い奴は家の中に入って来ないんだよ。昨日もあいつが来た時に怖くて固まってたら、お菊ちゃんが我に返させてくれたしね」

「そ、そうなんだ…」


にわかには信じられない話である。この日本人形は明らかに気配も音も呪いのそれで、力もそれなりに強いいわく付きだと言うのは見ただけですぐわかる。
けど、この人形が鳩間さんを守っているというのも同時に理解してしまった。


「いわく付きなのは知ってる。けど、お菊ちゃん本当に私を守ってくれてるんだ。親が死んで、霊感が強くなって引き寄せまくってた時もお菊ちゃんが傍にいたら絶対に近寄ってこないから。だから私は今までなんとか生きてこれたんだと思う」


鳩間さんは伸びきった日本人形…もといお菊ちゃんの髪を櫛で梳かしながら「お菊ちゃんは心の友だよ〜」と笑った。
人形は比較的に人間に近いからその分持ち主の念や彷徨う恨み辛みの魂、そう言った負の感情を引き寄せやすいためとても危険なのだ。
けど、お菊ちゃんが鳩間さんに向ける音がびっくりするくらい優しくて、本当に大切なんだってすごくわかる。


「よし、できた!」


綺麗に髪を梳かれ、鳩間さんに掲げられたお菊ちゃんから嬉しそうな音がした。








first ◇ end

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