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ある日、ランチを食べに食堂に向かっていたらその道中で三年生の先生とすれ違いめっちゃ褒められた。
「いやぁ本当に助かった!しかも昨日の実習であいつらの化粧技術が見違えるほど上達してて思わず涙を拭ってしまった!本当にありがとう!」一瞬なんの事かわからなかったけど、先生の言葉にあぁ、と思い出した。そう言えば三年生の授業を代理でしたんだった。


「本当に…!ほんっっっとーに!!ありがとうな西条!松崎にもお礼言っといてくれ!」


ぶんぶんと私の両手を激しく振り回すだけ振り回した先生は(どちゃくそ痛いけど涙目だからなんにも言えねぇ)ようやく満足したのか足取り軽く、それこそスキップしそうな勢いで去って行った。


「嵐のようだ…」

「随分褒められていたじゃないか」

「ぎぇッ!」


未だ地味に軋む肩を回していると、突然肩に腕を回されて飛び上がった。
なんか気色の悪い悲鳴が出たんだけど今の誰よ。…………………私か。


「うわ、お前女としてその悲鳴はヤバいぞ」

「いきなり首に腕回されたら誰だって叫ぶわ、このあんぽんたんめ」


腕の正体は三郎だった。いや、声でわかってはいたけどこいつ気配を完全に消して近付いてきたから油断したんだよ。言い訳ですが何か。


「ところでゆきめ、三年生の女装の授業をしたんだってな」

「もうその話出回ってんの?」

「ここをどこだと思っている?」

「あー、はいはい。そうだったそうでした。って言っても、莉子先輩主体だから私はほとんどサポートしてただけなんだけどね」

「何言ってるんだ。サポートだって大事な役目じゃないか。何を謙遜する必要がある?」

「……おう」


なんだ、随分褒めてくれるじゃないかうちの若様は。逆に怖いんだけど。
じっとり、半目で見つめる私に気付いたらしい三郎は、絶対に雷蔵がしないであろう顔で笑った。おいマジやめろよ雷蔵のプリティーフェイスでそんな顔するんじゃねぇよ!


「そんな評判のよかったゆきめたちに朗報をやろう」

「いらんわ」

「聞いて驚け」

「お前が聞けよ」

「今日の五年の実技授業、お前と松崎先輩による女装講座に変わったぞ」

「………………………は………………はああぁぁぁぁああああああああああ!!?!??」


今までにないくらいに全力で叫んだ。視界の端っこで私の叫び声にびっくりしたのかすっ転んで壁に顔面から激突している善法寺先輩とそれに巻き込まれたらしい乱太郎が見えたような気がするがそれどころじゃない。それどころじゃないんだ。


「うるさッ!おい!私の耳が潰れるだろ!」

「むしろ潰れてしまえ!つか、はッ!?何それ初耳なんだけど!!!いつ決まって…てかなんで私が知らなくてお前が知ってんだよ!!」

「さっきたまたますれ違った木下先生に言われた」

「冗談やない!!」


べしり!肩に回されていた三郎の腕を叩き落とした私はさッ!と三郎から距離をとり、そのまま食堂に向かって足を進める。


「ゆきめと松崎先輩が担当した三年生の女装講座が先生方に大変好評だったらしくてな」


ずんずん、ずんずん。


「だったらうちもぜひ、って木下先生が山本シナ先生に頼み込んだらしい」


足取り荒い私の後ろを飄々とついてきているらしい三郎。


「何をそんな怒ってるんだ?」

「怒っちょらん!」

「怒ってるじゃないか…」


はぁ、と後ろで三郎がため息を吐いた。
怒ってない、怒ってないのだ。ただ嫌なだけなのだ。下級生に教えるのと同年代に教えるのとでは訳が違う。しかも相手は忍たま。別に忍たまを恐れているわけじゃないけれど、莉子先輩はともかく、私が彼らの前に立って教鞭を振るうこと自体躊躇するというか…

そもそも、兵助を筆頭に尾浜や三郎、迷い癖はあるものの雷蔵だって私より優秀な部類に入ると言うのに、彼らより劣る私が指導するなんて。

食堂に近付くにつれ歩みがゆっくりと止まる。そうして私を通り越して少し行った先て三郎が立ちどまり、振り返った。彼の顔は、こっちが逆に肩を揺らしそうになるほど呆れ返った様な顔をしていた。


「ゆきめは馬鹿だなぁ」

「…どうせ私は馬鹿じゃ」

「そう言う意味の馬鹿じゃない。ゆきめ、お前は自分が思ってるほど劣ってもいないし、私たちもお前が劣っているとはこれっぽっちも思ってはいない。その凝り固まった偏見をさっさと捨てろ」

「…三郎はちょいちょい嘘つくやか」

「お前なぁ…。なんでこのタイミングで嘘なんぞつかなければならんのだ。ゆきめのそう言うすぐうじうじする癖、私は好きじゃない」

「うぐ…」

「ゆきめが何をそこまで意固地になってるのかは大体の予想がつくとして…。私としては、女装の授業を男の先生に教わるよりかは、女であるお前の生の意見や感想を貰えた方が学びになるんだがな」


…うん、そうだよ、そんなんだよ!わかってんだって!それ三年生に対して私が思ったことだから!
けどさぁ…わかるだろうよ。いやわかって?マジで。察してよぉ…

再び歩みを再開させ、今度はちゃんとランチをおばちゃんから受け取って机においてから勢いよく突っ伏した。


「…つか、そんなに嫌か。私たちに授業をするのは」

「……不安なんだよ。五年生とはいえ、私より優秀な忍たまはたくさんいるから。そんな人たちにちゃんと教えれるんだろうかって…。鉢屋衆の端くれなのにって考えれば考えるほど自信なくなってきてさ…」

「大袈裟だなぁ。ゆきめは無理に教えようとなんてせず、ありのままの素直なゆきめでいればいいさ。それがお前のいいところであり、何ものにも変え難い武器なんだから」

「三郎…」

「ま。と言っても、それもこれもハチと雷蔵のためだと思えばいい」

「…?」

「あ、その顔はよくわかってないな。いいか?女装においてとりあえず八左ヱ門は壊滅的だ。雷蔵は……化粧道具をどれを使おうか迷ってるうちに寝るんだよ…」

「…………おう」


なんだか疲れたようにあらぬ方向に目を向ける三郎に心底同情した。簡単に竹谷と雷蔵の様子が浮かんだよ…。竹谷よ…うん、竹谷よ……。雷蔵は一緒に頑張ろうね…





一難去ってどころがやない!

「うーん、うーん、うーんんんん…………」

「あら、ゆきめが不破みたいに悩むなんて珍しいわね。どうかしたの?」

「莉子先輩…実は今日の午後の授業のことなんですけど…」

「そうだ、その事であなたに言い忘れていたことがあるの」

「(なんだろう、このそこはかとない嫌な予感は…)」

「私、今日の午後は任務でいないから五年生たちの授業はゆきめだけに任せることになるんだけど…」

「嘘やあぁぁぁああああああ!!!!!」