「おい、ガキ共!金目のもの全部出しやがれ!」
「僕たちそんなもの持ってません!」
「ただのしがない子供A、B、Cでーっす!」
「そーだそーだ!」
「うっせぇ!!」
「「「ひぃぃいいい!!」」」
うーん…なんでこんな所にいるのかね一年は組の良い子たちは。
課題である“天”と“地”の札を両方揃えた私と兵助は、どこかに隠れているであろう木下先生を探して裏裏山を奔走していた。…のだが、その道中で複数の山賊に周囲を囲まれた乱太郎、きり丸、しんベヱを見つけた。見つけてしまった。
木の上に隠れて様子を伺う。
「うっわぁマジか。なんでここにいんのさあの子たち」
「このへんは最近山賊が出るって聞いてなかったのかな」
「土井先生が言い忘れるわけないじゃない。大方、あの子らのことだからうっかり忘れてたか、きり丸のアルバイトの都合上仕方なしにここを通ったかのどっちかなわけですが」
「どっちにしろ助けないわけにはいかないだろ」
「わかってるよ。兵助はあっちの連中頼んでいい?」
「任せろ」
兵助の気配が遠のいたのを確認してから軽く屈伸する。そして、しっかりとボスだと思われる人物の後頭部を狙って木から飛び降りた。
「よいっしょおおおおおおおお!!」
「ぐぼはぁッ」
「「「親分ー!!!?」」」
「よーぅしッ、クリーンヒット」
「ゆきめ先輩!」
「はろー、よい子たち」
「てめぇ…ぐふッ」
「背後に御注意……なんてな」
「久々知せんぱいぃいいい…!!!」
兵助と手分けして山賊をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していると、いつの間にかでっかいおっさんたちのお山が築き上げられていた。うぉ…壮観だなぁ。
「うわああああああん!ありがとうございますううううう!!!」
「俺たち、こんどこそ死ぬかと思いました…!!」
「助けてくれてありがとうございます!」
顔中の穴から出るもの全部出して飛びついてきたよい子をドン引きつつもしっかりと受け止めてやる。しんベヱ鼻水ヤバいんだけど。どうしようちり紙持ってないや。
「気にしなさんなって!可愛い後輩だもん、当たり前だよ」
「そうだ、気にするな」
それでも、相当怖かったのか咽び泣く三人に兵助と顔を見合わせて苦笑した。
…不意に、後ろからの殺気に振り返った。
すぐ後ろに山賊。どうやら気絶させ損ねたようだったらしい、刀を振り上げて迫っていた。
避けようにも私にぴったりくっついているよい子がいるからそれは選択外として、苦無で受け止めようにも時間がない。
こんなすぐ近くまで接近を許したのか、私は。
「ゆきめ!!」
気付いた兵助が寸鉄を握り締めて足に力を入れた。だめだよ、さすがに寸鉄じゃあ刀を防ぐのは難しい。
油断した、大人しく切り捨てられるか。
そう思ってぎゅっと目を閉じた。けれど刀による痛みは全く来ず、かわりに山賊のと思われし悲鳴が耳に入った。
…え、何事。
「ゆきめ先輩、大丈夫ですか!?」
「え、あぁ、うん…私はなんともないけど…え、どうなってんの」
「ひょう刀だな」
バキバキと今度こそ山賊をフルボッコにし、ペイッと投げ捨てた兵助が涼しい顔で言い放った。ちょ、おま、ほっぺに返り血付いてるから。
「ひょう刀って…」
「…後でお礼でも言っとけ」
ぽん、と私の頭に手を置いた兵助は、騒ぎを聞き付けてどこからともなくやってきた木下先生の所に行ってしまった。
あー、悔しいなぁ。いくら棒術の名人って言われても、こうも油断して助けられちゃ世話ないや。
「ゆきめ先輩?大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。無様なとこ見せちゃったね。もう少しで先生くるから、一緒に待ってようか」
「はい…!」
未熟とはいえ、鉢屋衆の1人として今のは大変頂けない。おまけに若頭に助けられるなんて、鉢屋衆のみんなに知られたらどやされるな。
木に刺さるひょう刀を横目に、よい子たちに気付かれないように小さくため息を吐いた。
油断大敵火がぼぅぼぅ
「困りまする、若頭。あそこであなたが手を出さずとも山賊の刀傷如きで私は死には致しませぬ」
「……おい、ゆきめ、なんだその喋り方は。再三やめろと言っているだろう」
「えへ、危機迫ってる感じした?」
「危機も何も……はぁ…。というか、ゆきめが私の側近だなんて認めてないんだからな!誰だお前にそんなこと命じたのは!」
「頭領に決まってんじゃん」
「あんのくそ親父…!てか、お前も面白がってるだろう!?」
「あ、バレた?それより、私が三郎の側近じゃ不服?頼んないと思ってる?」
「だからそういう事じゃなくて…!!あー!!もう!!」
「困ってる困ってる」
「いやー、三郎があんなふうに困るのってゆきめの前だけだもんな。愉快愉快」
「いつもに増して痛快なのだ」
「聞こえてるぞ八左ヱ門!勘右衛門!兵助!」
野外授業終わりの校門前にて。