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今日はくのたまと忍たま五年生の合同野外授業である。

本来ならば忍たまとくのたまが合同で授業をすることはないのだけれど、くのたまの上級生が私を含めてたった2人しかいないため、実技やこう言った野外授業は私ともう1人のくのたまの先輩も参加させてもらっているのだ。
くのたまは四年生を過ぎた辺りからそのまま学園に残って戦忍を目指すか、行儀見習いを終了させて実家へ帰るかで別れ、大体の子が四年生でやめていく。

何人もの同級生を見送り、二人部屋をたった一人で使う寂しさは消えるものではないけれど、やめていった同級生たちも自分のすべき事のために前を見据えて頑張っているのだ。だから、行儀見習いではなく戦忍を選んだ私も泣き言を言ってられない。


「えっと、9番は誰だろう…」


今回の野外授業の内容は、2人1組でペアになってのサバイバルだ。罠をかけるも騙すも殺さなければなんでもありというなかなかえげつないルールである。
そして、ペアになった際に各チームに“天”か“地”と書かれたどちらかの札が配られ、自分たちが持つ札とは違うものを他ペアから奪い、“天”と“地”両方の札を揃えてどこかに隠れているであろう木下先生の所へ持っていかなければならない。


「ゆきめ」

「あ、兵助じゃん」

「9番だろう?俺もなんだ」

「わ、マジか!?嬉しいなぁ、兵助がいれば百人力だよ!」

「そんなことないさ。ゆきめだって棒術の名人じゃないか」

「名人だなんて照れるなぁ。ま、今日1日よろしく!」

「あぁ、よろしく頼む」


兵助はい組なだけあって座学も実技も成績優秀なのだ。豆腐狂いさえ目を瞑ればこんなにも心強いペアなんていない。

木下先生のもとへペア報告に行った際に札を受け取る。私たちには“天”の札が配られたようだ。


「これより札争奪戦を行う!範囲は裏裏裏山まで、制限時間は日没!両方の札を揃えられたチームは宿題免除、そうでなかったチームは宿題2倍プラス放課後に補習があるからな!」

「「「えぇえーーッ!!!」」」

「えーッ、じゃない!!…はい、よーいドン!!」


ピーッ!と唐突に吹き鳴らされたホイッスルに慌てながらも一斉に散らばる。兵助の気配をしっかりと感じながらもノンストップで裏裏山まで赴いた私たちは、とある木の上でいったん足を止めた。


「とりあえずここまで来たものの…」

「まずは三郎対策として合言葉とか決めるか?」

「だね。だったら合言葉は…」

「俺が“豆腐”って言ったらゆきめが“にがり”って言う」

「はい却下ッ!!何言ってんのバカなの?誰でもわかるからそんなの」

「じゃあ…」

「絹と木綿もなしね」

「なんでわかったんだ」

「わかるわあんぽんたん」


真面目な顔してボケかましてんじゃねーぞ豆腐小僧め。
アホと天才は紙一重って言うけど、兵助のためにある言葉だと思ってる。心底わからん、と言いたげに首を傾げる兵助をとりあえず放置して思考を巡らせ……ようとして反射的にその場から飛び退く。さっきまで私がいたところには深々と苦無が刺さっていた。


「やっぱ避けるかぁ。ま、今のはただの威嚇だけどな」


そう言って姿を現したのは、確か兵助と同じい組の奴だったか。彼は余裕綽々、と言うようにくるくると指で苦無を回す。が、そんな彼とは違う枝にもう1人忍たまが現れた。


「お、おい!何姿現してんだよバカッ!!」


ほんとそれな。かっこつけて出てくる前に忍らしく忍んどけよ。

半目で2人のやり取りを見つめるものの、正直こんなに早く他チームと遭遇するとは思ってもみなかった。けれど、同時にこれはチャンスでもある。もしあの2人が持つ札が“地”だったら私たちは早々に課題クリアとなるからね。

…まぁ、世の中そんなに甘くはないんだろうけど。


「何はともあれ、こんなに早く他チームに遭遇するとは思ってなかったからな。もし“天”じゃなくても交渉材料くらいにはなんだろうし、悪いが、お前らの札もらってくぜ」

「そうだけど…」

「…ゆきめ」

「うん、わかってる」


静かに兵助が私を呼ぶ。それに込められた意図をしっかり受け取った私は素早く懐から棒手裏剣を取り出し、あいつらに向かって数本打ち付けた。


「ッ…やっぱそう来るだろうと思ってたぜ!夏川!」

「わ、わかった…!」


出会ってしまったが運の尽き。宿題免除がかかっている今、みすみす撤退するという選択肢は私たちにはない。
罠もなにも仕込めてはいないから、今のありのままの実力がものを言う。兵助の所に夏川と呼ばれた忍たま。私のところにい組の彼が苦無を片手に飛び込んできた。それを間一髪、苦無で受け止める。


「さすがに宿題2倍はやだからな!」

「私だってやだよ…ッと!」

「おっと!」


彼の苦無を受け止めた反対の手で袴の中に隠しこんでいた折り畳み式の棍棒を取り出し、振りかぶる。素早く後方に下がり私の攻撃を回避した彼だけれど、そこはまだ私の“攻撃範囲内”なんだよなぁ。

振りかぶった際に折り込まれている棍棒の持ち手以外を離せば、彼に向かって一直線に伸びるように飛んでいった。まさか飛んでくるとは思っていなかったらしい彼の右肩に私の得物である棍棒…もとい仕込み多節棍が炸裂した。


「ぐぁッ…!」

「もーいっちょ!」


多節棍を素早く引き下げて今度は鞭のようにして振り回す。幸い私がいるこの周辺は木々の間隔が広いから、引っかかることはなかった。
そうして、完全に怯んだらしい彼の脇腹に鞭のように撓った多節棍が直撃し、真横へとぶっ飛ばしたのであった。


「うわ、やりすぎた…!お、おーい!生きてるー?」


警戒を解かないまま少し近付いて様子を伺うと、どうやら彼は木に強かに頭をぶつけたのか目を回して気絶していた。
…なんか…ごめんよ。悪気はないんだよ。後悔はしてないけど。
とりあえず縄で縛り上げごそごそと懐をまさぐっていると、すとん、と隣に紺色の塊が降ってきた。言わずもがな兵助である。


「ゆきめ」

「おかえり。どうだった?この人は札持ってなかったよ」

「それなら夏川が隠し持ってた」

「おぉ、やっぱ“地”の札持ってたね」

「あぁ」


ふふん。得意気に笑う兵助だが、肩に担いでいる夏川氏が顔を真っ青にして白目剥いてるんだけど…。あ、放り投げた。雑いな、こいつ。


「女だからとゆきめを侮ったな。バカな奴」


先程放り投げた夏川氏を縛り上げながら兵助は言う。その姿にドン引きながらも、まぁあながち間違っちゃいないからなんにも言わない。

忍術学園に入学すると、忍たまはくのたまの恐ろしさを早々に叩き込まれる。が、数少ないくのたま上級生であるのと、女は弱いと言う先入観がどうしても抜けきらないらしく彼のように女である私を侮る奴らは多い。
けど、不本意ながらも七松先輩や潮江先輩に稽古を付けてもらっていると知られてからは、ろ組やは組の人たちは私が忍たまの授業に参加しても侮ることはなくなった。

…まぁ、い組はまだ私を下に見ている人もいるんだけどね。さっきの彼みたいに。
それから察するに、夏川氏はろ組かは組のどちらかなんだろうなって。


「まぁまぁ、彼も今回で懲りただろうよ。それより兵助、早くここから離れよう。随分派手に暴れちゃったから他のチームが来てもおかしくないよ」

「そうだな。せっかく奪った札を取られでもしたらたまったもんじゃないし」

「早いとこ先生見つけよう」


そんでもってクリアしたら豆腐でお疲れ様会するのだ。

さっきまでの殺伐とした雰囲気はどこへやら、急にでっかい目を輝かせながら豆腐について思いを馳せだした兵助をしらけた目で見つめた。





結局それかよ

「腕によりをかけて美味い豆腐を作ってやるからな!ゆきめ!」

「あーはいはい、ゆきめちゃんうれしーなー」

「さすがゆきめ!豆腐を愛するもの同士、豆腐の会は欠かせないよな!」


がっしりと私の両手を握りしめる兵助だけど、1つ訂正させてくれ。
私、お前ほど豆腐を愛してないよ。つかなんだよ豆腐の会って。お前とはそこそこ付き合いは長いけど初めて聞いたわ。そしていつの間に入会してたんだ私は。

ふんすふんすと意気込む兵助に心底げんなりした。そうだ、この際だから竹谷も豆腐の会に入りたがっていたよって兵助に教えてやろう。



「へーっくしゅん!」

「わッ!び、びっくりしたぁ…」

「す、すまん雷蔵!風邪かなぁ…?」

「案外誰かが噂してるのかもよ?例えば…ゆきめちゃんとか」

「……………いや、いやいやいやないない!つかこえぇよ!」