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何がどうなったのか。なぜ私は現在進行形で潮江先輩に追いかけられているのか。

…心底隣で並走している人間に聞きたいわ!!!


「まぁぁああてぇぇえええええ!!!鉢屋とゆきめ!!!」

「三郎おおおおおお!!!お前潮江先輩に何したんだよおおおお!!!」

「いっやぁ、潮江先輩に変装してあることないことやってたら怒りをかったみたいでさー。てへぺろ☆」

「キモいわバカ野郎!!!何てことしてくれとんじゃ己はッ!!!てゆーか、私関係ないじゃない!!!なんで私まで追いかけられてんのさ!!」

「旅は道連れってね」

「お前もうほんと死ね!!」

「今日という今日はもう許さんッ!!」


ギンギーン!!と両手に苦無、頭に蝋燭とまさしく鬼の形相で迫り来る潮江先輩に戦慄いた。
ひいぃぃぃいい…!!恐怖ッ!!

私も追いつかれないよう必死に走ってはいるものの、最上級生なだけあって距離は徐々に縮められている。
やばい待って本当に殺されそうなんだけど。祟り神かよあいつ。

学園内で繰り広げられる死の鬼ごっこ。比喩ではなくリアルに。捕まれば即刻……考えただけでもおぞましい。

三郎のいたずら好きにはほとほと困る。なんてったって大体の苦情が私に来るのだから。下級生上級生先生問わず。幼馴染みだからってそれはないよ。
てゆーか、三郎になにかされる度に私に泣きつくのやめてよね。特に竹谷。あんたくのたまじゃちょっとした名物になってるの気づいてる?気付いてないよなあいつあんぽんたんだから。


「ゆきめ、一先ずあそこに隠れよう!」

「わかった!」


そう言って私たちが選んだのは、用具倉庫の屋根裏の影。
ここはただでさえ昼間でも薄暗いし、なんせ作法委員の私物である首マネキンが大量にあるため滅多に人が入ってくることは無い。てか、誰が好き好んでこんなところに入ろうと言うのか。

私?不可抗力でぇーっす。


「どこ行きやがった、あの二人…!」


近くに来たらしい潮江先輩に気取られないよう息を潜める。しばらく様子を見ていると、ギンギーンって言いながら別の方向に走っていった。


…た、助かった…


「…ゆきめ」

「な、何さ」


ほっと息を吐いてるとなんか三郎が深刻な顔で話しかけてきた。何、何なの、一体。


「お前にはいつも本当に申し訳ないと思っている」

「…いきなり何、どうしたの」

「いきなりなんかじゃないさ。ずっと思ってたんだ。ゆきめには迷惑をかけているし、幼馴染みだからっていつまでも甘えてちゃいけないことくらいわかってる」


おい待てあれは甘えていたのか。私を一緒に引っ張り回すことが。
目の前の顔面をぶっ飛ばしたくなった私は決して間違ってはいないはず。


「それでも、なんだかんだ言いながらこうやって付き合ってくれるのってゆきめしかいないんだ」


そりゃ有無を言う前に連れて行かれてるからな。
結局何が言いたいのかこいつは。ただの謝罪ならいらん。なんか奢れ。

…とか言いたいけど、今回は少しは反省してるみたいだ。
しょぼん、と項垂れる三郎になぜか私が罪悪感を感じる。私なんも悪くないのに。


「申し訳ないと思ってる…」

「…もういいよ、別に。慣れたし。最後まで付き合ってあげるから」

「……………………………………言ったな?」

「は、」


にやり。さっきのしょぼくれた顔が嘘のようにニヒルに笑う三郎に嫌な予感がした。
ちょ、待てお前まさか…


「やはり持つべきものは幼馴染みだ!」

「謀ったなぁぁあああ!!!」

「てことで、後はよろしく☆」


とん、と肩を押され、背中が壁につく。…けれど、パカッと言う音とともにそのまま壁を突き抜けた。
壁の一部をくり抜いてはめ込んだのか…
てことは、三郎は最初っから私を囮にするつもりでここまで私を誘導して…!?
落ちる瞬間見えた三郎の笑顔が清々しくていっそ腹立つ。

咄嗟に受身をとったものの、無理やり体制を整えたせいで地味に痛い。


「いったぁ…ちくしょう、少しでも信じた私がバカだった…」

「全くだな」


かちり。まるで私のいる場所だけが時間が止まったみたいな錯覚に陥った。
真後ろからの凄まじい威圧に意識が飛びそう。

…た、祟り神様がいるヨ…!!!


「敵に背を向けるなど言語道断!もう一度鍛え直してやる!!」

「ひぃぃいい…!!い、いやだあああああああああ!!!」

「あ、こら待ちやがれゆきめ!!」






まぁ、こんな日もあるわな。

「ぐず…うぅ…」

「はいはい、もう泣かないの。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

「うぅぅ…!!らいぞーやざじい…ずぎ…」

「なッ…!」

「三郎も馬鹿だよね。素直になりゃいいものを」

「全くなのだ」


潮江先輩による怒涛の鍛錬(と言う名の地獄)から解放された私は真っ先に心の癒しである雷蔵に泣きついたのであった。