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ーーあるところに、3人の家族がおりました。


快活な母。


陽気な父。


幼く、素直な娘。


3人は大変仲睦まじく、暮らしは豊かではないものの、なんの不自由もなくくらしておりました。


ある日、母親が木苺を摘みに出かけました。木苺は娘の好物で、たまたま切らしてしまったために小さな籠を片手に里の外へ出て行ったのです。


少ししてから、娘は母親がいないことに気付き、一人で里の外へ出てしまいます。


日頃から口酸っぱく、一人で里の外へ出ては行けないと言われていた娘ですが、どうしても寂しい思いが勝ってしまい、そろり、と見張りの目を誤魔化して抜け出したのです。


小さな足が地を蹴る。木苺が生えている場所を娘は知っていたため、きっと母親もそこにいるだろうと思い足を進めます。


背の高い草を掻き分け、ようやく見覚えのある場所へたどり着いた娘が見たのは、苦無を得物に戦う2人の忍と、その傍らで怯えたように尻をつく母親の姿でした。


自分の母親が悪い大人にいじめられている。
そう感じた娘はだッ!と母親目掛けて走り出しました。その時の娘の頭の中にはただただ“母を助けなければ”と言う事のみ。


「おかあさん!」


娘は叫びます。母親は当然、ここにはいないはずの娘がいることに驚き、同時に酷く狼狽したでしょう。


「何やってんだ!!こっちに来るんじゃない!!」


滅多に怒らない母親の怒鳴り声を聞いて、娘は思わず立ち止まってしまいます。その時ーー


忍が放った暗器が流れ弾として娘目掛けて飛んでいきます。それを見た母親は、木苺が入った籠を放り出し、抜けた腰に気付かないふりをして走りました。


硬直する娘。一直線に飛んでいく暗器。母親は手を伸ばし、伸ばし続けて、娘の頭を抱えるように抱き締めました。


ーーどすッ!!


鈍く、鋭い何かが刺さる音。それが立て続けに何度か鳴り、忍たちの喧騒も何もかもが聞こえなくなった頃、娘は恐る恐る母親に声をかけた。


「おかあさん…?」


母親の体がゆっくりと傾き、娘を下敷きに地面に倒れ込みました。その母親の背中には、数本もの苦無が深く突き刺さっています。娘はそれを見て、大きく目を見開きました。

忍の苦無には致死量の毒が塗られています。それがプロの忍のものなら尚更強力なものであり、毒は瞬く間に母親の体を蝕みます。

母親はそれをわかっていたため、血を吐きながら娘を抱き締めました。

流れる母親の血が娘の着物や体を赤く染めあげ、息も絶え絶えな母親は娘と目を合わせると弱々しく頬を弛めます。


「お前のせいじゃ、ない、よ…」


ぱたり。
母親の腕が力なく地に落ちます。


「おか、さん…?」


「ねぇ」


「おかあさん」


「おきて」


「おかあさん」


「おかあさん」


「おか…さ…」


「ぉ…」


「…ぅ、」



うわあああああああん!!!


娘の号哭は里まで響き、何事かと聞きつけた里の忍は血相を変えてやって来ました。
駆けつけた父親は、変わり果てた母親と、血濡れになって泣き叫ぶ娘を見て絶句します。
娘は泣きました。声が枯れるまで。喉が潰れるまで、ずっとずっと泣き続けました。


自分が言いつけを守らなかったから。


馬鹿な事をしてしまったから。


母親を死なせてしまったのだと。


自分で自分を責めて、責めて、責めて…





そうして思い出は悪夢へと姿を変えたのでした


母親を殺したのは自分だと攻め続けた娘は


成長してもなお、悪夢に囚われているのでした


いつまでも


いつまでも


いつまでもーー