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放課後、用具室で武器の手入れでもしようと思い歩いていたら突如現れた兵助によって瞬く間に連れ去られ、ふと気付けば私は食堂で箸を片手に大量の豆腐料理を前にしていた。
意味わかんないって?私も。


「いや、ほんと意味わかんないから。兵助は私をどうしたいの」

「たくさん豆腐料理を作ったから食べてほしいのだ」

「いやだからってなんで私?尾浜たちはどうしたのさ」

「用があるからってどこかへ行ったのだ」

「(あ、逃げたなあいつら)」

「ゆきめ、これを食べろ。改良に改良を重ねた絹ごし豆腐なのだ。あーん」

「はいはい、あーん」


正直、兵助の豆腐地獄はもう二度とごめんだったのだが、こうも逃げ場がないと諦めるよね。
匙で掬った豆腐をわざわざ口元まで持ってきてくれた兵助に苦笑いしながらもそれを口に含む。
あ、普通にうまいわ。食べ過ぎは嫌だけど、兵助の作る豆腐って普通に美味しいんだよね。
もちゃもちゃと豆腐を頬張っていると、トントンと肩を叩かれた。誰だ食事中に茶々を入れるのは。


「ばあ!」

「ぶふぉッ」

「ぎゃあああああああ豆腐があああああああ!!!」


私が思わず吹き出してしまった豆腐は宙を舞い、それを見た兵助が大絶叫した。
てゆーか今のは私悪くないから!!


「げほッげほッ…さ、三郎ぉ…!」

「あっはっは!!汚いなぁゆきめ」

「誰のせいだと…!!」


そもそも、伝子さんの顔がどアップにあったら誰だって吹き出すだろう。


「あぁ、もったいない…」

「ゆきめの反応はいつ見ても面白いな!変装のやりがいがあるよ」

「へーへー、それはどうも」


全く。小さい頃は「ゆきめちゃんゆきめちゃん」とか言って私の後ろずっとついてきて可愛かったのに。いつからこんなに憎たらしくなったのか激しく疑問である。

未だにしくしくと泣いている兵助を放置して、床に散らばった豆腐の残骸を手拭いで拭き取る。


「ゆきめ、怒ったか?」

「怒ってない。呆れてるだけ」


てか、あんた兵助の豆腐地獄が嫌で逃げたんじゃなかったんか。なんでここにおんねん。


「ゆきめ、ゆきめ」

「何さ。変装はもう見てやんないよ」

「いや違くて。今度の休み一緒に帰ろう!父上が久しぶりにゆきめに会いたいって言ってたぞ」

「えー、私学園に残って鍛錬したいんだけど…」

「たまには帰れ。お前、忍術学園に来てから一度も帰ってないんじゃないのか?」


あ、兵助復活したんだ。
再びもちゃもちゃと豆腐を頬張り出した兵助は、豆腐ハンバーグを挟んだお箸を私に向けながら言った。
…これは、食べろということなのか…?
まぁ拒む理由もないから食べたけど。


「けど…」

「大丈夫、ゆきめ一人で帰るわけじゃないんだ。私がついてるから安心しろ」

「…わかったよ、次の休みはちゃんと帰るから、そんなにくっつくな」

「いいじゃないか。私とゆきめの仲だろう?」

「…はぁ、」


そもそも、こんなに私が里に帰りたがらないのには訳がある。
そりゃあ父さんや頭領、里の皆に会いたくないわけじゃない。ただ、どうしようもない理由があるのだ。そんな私の心情を、三郎はきっと見抜いている。だから私に遠回しだけど、逃げるなって言ってるんだ。

緊張で変な風に脈打つ心臓を抑えている私を、三郎が眉間に皺を寄せて見つめていたなんて知る由もなく。





逃げるが勝ち!

気付いてくれ、ゆきめ。

あの人がお前のことを恨むだなんて、そんな事あるはずがないんだ。