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文化祭っていえば、



夏が近づいて、日によっては日差しを辛いと思うようになってくる。その頃には運動部は大会へ向けて練習にもより一層力が入っていた。

それはバレー部も例外ではないらしく、教室で見る菅原はいつも少し眠そうだ。

どうやら遅くまで練習をして、家で勉強して寝たら、朝練で早起きして、という生活らしい。
なんとも青春である。

「潔子ー」

「ん?どうしたの?」

昼休み、隣に座る潔子の肩に頭を乗せながらその名を呼んだ。
そんな可愛く甘えた私など少しも気にしない顔で潔子はご飯を食べ進めていた。

つれないなあ、潔子ってば。

「バレー部忙しい?」

「うん。大会前だし、みんな毎日頑張ってるよ」

至近距離で見る潔子の肌は女でも嫉妬するレベル。
多分、余計なことは何にもしないのが逆にいい、という美少女にだけ許されたものだと思う。

「そっかあ。夏休みとか、少しは私にも構ってね?」

「うん。休みがあったらね」

つれない。

でも、そこもまたいい。

「浴衣着て花火大会とか行きたいなあ」

ぽつんと呟いた私の言葉に、

「花火大会なら夜だし、行けるかもね」

珍しく潔子から気のある返事が返ってきた。

「やった!じゃあ約束ねー?」

潔子の浴衣姿なんて、永久保存版じゃないか。スマホのカメラでいいのだろうか。なんなら一眼レフでも買うべきかな。

そんなことを考えながら、私は飲むヨーグルトを啜った。
夏休みは毎日潔子に会えなくなってしまうから憂鬱だったけれど、ひとつ楽しみが出来た。
自然に頬が緩む。

「夏休みは遊べるかわからないけど、文化祭は一緒に回ろう」

そう言って笑ってくれる潔子に絆されて、私はご機嫌で弁当箱の残りを平らげた。

「うん!出し物簡単なのだといいなー!」

そしたら余った時間で潔子と回れるじゃないか。
去年はヨーヨー釣りをやって、午前中のうちに完売させて午後は遊び倒した。
今年もそういうのならいいな。なんて、私はぼんやりと簡単そうな出し物を想像する。

「楽しみだね」

「うん!」

潔子とデートをするためだ。皆にも協力を呼びかけよう。





それから数日後、HRでまだ1カ月も先の文化祭の出し物を決めることとなった。
のだが、

「と、いうわけで我がクラスの出し物はメイド喫茶で決まりました」

私の想像、希望を裏切り、投票の結果はメイド喫茶。

「次に、当日衣装を着る人とー、その他の係など」

進行役が話を進める声は、私の右耳から左耳へ抜けた。

ぼんやりする私に、菅原は首を傾げていた。

なんだメイド喫茶って。
準備も当日も、めちゃくちゃ忙しいじゃないか。

確かに、3年に上がれば受験戦争が始まり、学校行事を最も楽しむなら恐らく2年が最高の年だ。
一度経験した分、文化祭がどういうものかわかっている2年は、きっと一番思い出作りに最適な年なんだろう。

わかってる。わかってはいるけれど。

「まじかー」

肩を落として小さく呟いてしまうくらいには絶望していた。

だってせっかく潔子とデートする約束なのに。
回ろうね、と言ってくれた彼女の笑顔が脳裏を掠めて、せめて!と私は最後の足掻きを決意する。

「私、メイド役しなくていいかな?」

そう。ようは当日身体が空きさえすればいいのだ。文化祭まで馬車馬の如く働くことになっても、当日は予定を空けさせてもらおう。

と、思ったのもつかの間。

「だめ!」
「却下!」
「なんで?!メイド似合うよー?!」

クラス中の大反対にあい、助けを求めた視線の先の担任まで、

「ミョウジがいるかいないかで売り上げが違う!だめ!着て!」

まるで金の亡者みたいなことを言う。

なんてことだ。
ここは本当に民主主義の国なのか?
私の人権とは?
なんて嘆きたくなる気持ちも虚しく、私の為に最高のメイド服を仕立てると女子生徒が手を挙げ、私の気持ちなど無視して全ては決まってしまった。

ああ……潔子になんて言ったら良いんだ。




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