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いつも通りのある日のこと



昼休みは短い。
その昼休みをいかに有意義に使うかで私の午後の授業への集中力は決まる。

つまりは戦争なのだ。

「潔子ー!お昼行こー!」

他クラスまで出向いて潔子に声をかけると、潔子もちょうど弁当箱を片手に席を立とうとしているところだった。

朝も会いに来たけどやっぱり潔子は最高!
可愛いし綺麗だし肌とかどーなってんのってくらい透明感あって、口元のホクロがちょうセクシー!

「ナマエ、早いね」

そう言って潔子が笑うので、君に会いたかったんだよハニー!なんて言って抱きしめたかったけどとりあえず我慢した。
だってもうお腹ペコペコだし。

「朝食べ損ねちゃってさー。お腹減ったの!あ、自販機行ってもいい?」

私達は普段どちらかの教室で弁当箱を広げることが多いけれど、今日は天気がいいので外で食べようか。なんて朝話したのだ。

天気のいい日は外で風になびく潔子の艶髪を眺めるのも、いとをかし。

私達は体育館横の階段に座ってお昼にした。

「潔子が教室にいないとつまんないよー」

そう言って頬を膨らませる私を、

「ナマエのクラスには菅原とかいるでしょ」

潔子はくすくす笑いながら慰めた。

「菅原じゃ潔子と比べものにならないでしょ。はー、早くクラス変わらないかなー」

「この間変わったばっかりなのにもう、ナマエは」

そう言った潔子はまるで私を慈しむかのように優しい顔をするから、私は少し泣きそうになってしまう。

ああ、潔子可愛いよ天使だよー。

「潔子、そんな可愛い顔ばっかりして、変な男に絡まれたりしてない?平気?困ったらいつでも私を呼ぶんだからね」

甘い果実は害虫がほっとかない。
潔子に集る男どもを成敗するのは私の役目だと思う。今年はクラスこそ違ってしまったけれど、彼女のナイトは私なのだ。

なんて、潔子はいつも1人で撃退したりスルーしたりして全然平気なんだろうけどさ。

「大丈夫だよ。昨日も言ったけど学校内でそんなことないし、むしろナマエの方がモテるんだから自分の心配して」

そうなのだ。
私は言っちゃなんだが潔子より話しかけやすいのか男どもが寄って来やすい。
私もうら若き美人であるからには仕方がないが、少しも可愛くないヤロー共に好かれても全くもって嬉しくないのでモテるなんて実はあまりいいことではないと思う。

正直、なんで仲良くもない人間に連絡先教えたりしなきゃならないのって話だし、そんな男たちの反応に対して媚びてるだのなんだのと煩い女達にもうんざりなのだ。

「ふえーい。でも、潔子!なんか困ったらいつでも私に言ってね!なんでも力になる!」

そう言って抱き着くと、潔子はほんとにナマエは仕方ないなあ。なんていいながら私の頭を撫でた。

はあ。至福。

と、その時。

「「き、潔子さんが!潔子さんがぁあああ!」」

背後から絶叫とも言うべき叫び声があがって、心臓が止まるかと思う。

ぎょっとして潔子と振り返ると、そこには坊主の目つきの悪い男と、前髪にメッシュの入った髪を逆立てた小柄な男の子がいた。
正直、ふたりとも素行が良いとは言えなさそうだ。
体育館裏にたむろしてそう。

不良が現れた!!そう思った私は、潔子の前にすっと進み出て、

「何か用?何の用?なんも用なんかないでしょ」

あからさまに不機嫌そう言った。

潔子との蜜月を邪魔する輩は誰であろうと手加減しない!
そういう覚悟で腕を組み、仁王立ちすると、男達は怯んだように一歩後ずさる。

お、怖気付いたか!
そのまま帰りやがれ!この野郎!

「ちょ、ナマエ、」

潔子は心配しているのか、背後から私の腕を引いたけれど、私は安心して、という意味を込めてウインクした。

「大丈夫!私に任せて!潔子は後ろに下がってるんだよ!」

潔子は私が守る!
こんな不良共!私がけちょんけちょんに!

そう思って臨戦態勢を取るべく、腕まくりをした。

が、

「「潔子さんが美女といちゃついてるー!!」」

男達はそう言って目の前で顔を赤らめて悶絶。

「は?」

思わず怪訝な表情になる私に、

「ナマエ、あれ、うちの部の一年生」

潔子がうんざりした表情で言う。

え、一年?うちのって、男子バレー部?

「え、知り合いなの?」

私が顔を引きつらせたままなんとかそう言うと、

「うん。まだ仮入部だけど、後輩」

潔子が言いにくそうに答える。

「あ、確かに潔子さんて言ってたか」

「うん」

「なんでこいつら悶絶してんの」

先ほどから時が止まったかのように目の前のふたりは廊下で崩れ落ちている。
その顔は真っ赤だったし、興奮極まっているのは確かだが、理由はよくわからない。

なんだろう、不審者かな?

「それはわからないけど」

どうやら潔子にもわからないのか、わかりたくないのか。
彼女は興味なさげだった。

「ふーん。……とりあえず、教室帰ろうか」

「あ、うん」

そう言って食べ終わったお弁当を片付けて、撤収しようとする私達に、

「あの!俺!一年の西谷です!」

不良の片方がとんでもない声量で話しかけてきた。

「え、ノヤッさん?」

かと思えば片割れはその行動に大変驚いた様子。
なんだこいつら。初めから声をかけるのが目的ってわけじゃないのかな。

「すいません!潔子さんのお友達さん!お名前教えていただけませんか!!」

「は?」

なんだこいつ。
西谷と名乗ったその男の子は、小柄な身体の何処から出したんだって程の声で私に言った。

でも、真っ直ぐな瞳は彼の人柄をよく表していると感じた。

「うん。なんで?」

「潔子さんと並んでも引けをとらないその美貌!ぜひお名前を知りたいからです!!」

ふむ。なんだろう。
別に悪用しようとかじゃないみたいだし、連絡先とかでもないし。

名前くらいならいいかな。

なんて珍しく思ったのは、多分、潔子の隣にいるに相応しいと言われたようで誇らしかったからだ。

「……ミョウジナマエ。潔子の嫁です」

そう言うと、隣の潔子が信じられないものを見る目で私を見てきたので、

「てめーら潔子に手を出そうなんてちょっとでも考えてみろよ。すり潰すかんな」

私は思わず満面の笑みで言ってしまった。


いつもならガン無視であろうナンパみたいな一言に返事をしてしまったのは、彼があまりに真っ直ぐで胸を打たれたから。
なーんてことではないのである。



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