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菅原孝支の自嘲
ミョウジナマエ。 俺のクラスの美人な同級生。 色白な長い手足に小さな頭。 ふわふわな茶髪のパーマ髪はきちんと手入れされているのがわかるほどいつでもさらさらで、日によってはヘアアレンジが施されて違った表情を見せる。 自分の可愛さを、魅せ方を知っている。そんな印象の女子だ。
中学までは東京に住んでいたらしい彼女は、一年の頃からどこか浮世離れしていて、あからさまではないがクラスから浮いている印象だった。 彼女は誰にも関心なんかなく、誰にとっても掴めない存在だったと思う。
けれど、一年のある時を境に、そんなミョウジとバレー部で一緒の清水が仲良くなった。 美人2人が仲良くしているのは酷く目立ったし、すぐに他クラスの俺も噂として耳にすることになるのだが、正直驚いた。
ミョウジは全然クラスの違う俺から見ても他者を自分の領域に入れないタイプの人間だったのに、清水に見せる笑顔は心からのものだということは誰が見ても明らかだった。
2人の間に何があったのか。 それは俺も知らない。 けれど、ミョウジにとって大切な存在は清水だけで、誰に告白されようが誰に悪口を言われようがミョウジは気にもとめていないようだった。
その時点で何度か言葉をかわすことはあったけれど、ミョウジは俺にとってただの美人な知り合いに過ぎなかった。
けれど学年が2年に上がって、俺はミョウジと同じクラスになった。 しかも席も近く、俺たちは度々話すようになった。
やはりミョウジは2年になってからも特定のグループに所属するみたいなことはなく、女子特有のみんなでトイレに行くみたいな行動も一切しなかった。 嫌われているということはないし、男子はともかくとしても女子にすら人気はあるようだったが、やはりどこかで線を引いているのはミョウジの側という印象。
そんなミョウジを気遣っていたわけじゃないけれど、清水という共通の友人の所為もあって、他のクラスメイトよりもミョウジと行動することは多かった。
だからってミョウジのことを好きとか、そんなことを思ったことはない。
ミョウジと仲がいい。 それだけの事実で周り(の、特に男子)からはめちゃくちゃ羨ましがられたし、お茶目で悪戯好きのミョウジといるのは毎日楽しかったと思う。
けれど、これを恋愛感情だなんて思ったことはなかったんだ。
「西谷のことが好きだよ」
ミョウジに、西谷が好きだと告げられるその瞬間まで。
彼女のそんな真剣な瞳を見たのは初めてのことだったし、あの、ミョウジが。まさか西谷を好きになるなんて。 信じられなかった。
いつも人をからかってそうするように、嘘だよー!とゲラゲラ笑ってくれ。そう思わずにはいられなかった。
西谷は確かに、男から見てもかっこいいと思ってしまう男前だし、熱すぎるところはあっても本当にいいやつだ。
でも、どう考えてもミョウジが好きになるタイプだとは思えない。 身長だってミョウジより小さいし、正直うるさい男なんか嫌いだろうし、熱血なんて鼻で笑うタイプだ。
そう、俺が現実を受け止められずにいると、
「あの真っ直ぐな瞳に、いつか私だけ映ればいいのにって思うのを、もうやめられない」
泣きそうになるのを我慢しながら言われた。
その時になって漸く、理解出来た。 ああ、本当に西谷が好きなのか。 こんなにまっすぐに。
悔しかった。こんな、ミョウジに好きな人ができて、それを打ち明けられた瞬間になるまで、彼女への気持ちに気付きもしなかったことが。 ミョウジのこんなに側にいたのに、その胸に秘めた想いにも気づけず、無神経な言葉で傷つけたことが。
好きな人に、他に好きな人がいるってことが。
ミョウジは俺の様子を見て、多分俺がミョウジを好きだってことに気づいたんだと思う。
俺を見つめた視線は、いつの間にか西谷への想いを告げた時の熱っぽい瞳とは違うものになっていた。
そんな切なそうな顔をされると、惨めになるからやめてくれ。 そう言いたくなるのを必死に抑えてミョウジと別れると、ため息と共に涙が滲んできた。
いつか、彼女に好きな人が出来るのなら。
「俺だと思ってたわー」
自嘲して漏れた笑い声は誰もいない階段に響いて、静かに消える。
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