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んげー球技大会うざー



空は晴れ渡り、暦の上では秋になるというのに日差しはまだまだ夏。多分、イベント日和ってやつなんだろうけれど、暑すぎだよ!

「んげー球技大会うざー」

朝から髪をまとめたり化粧を直したりと忙しいクラスの女子に軽く挨拶をして、自席に着くなり隣にいた菅原にぼやいた。

夏休み終了早々毎年恒例の球技大会が始まろうとしていた。
誰だよこの時期にやろうって思ったやつ!ふざけてるの?せめてもう少し涼しくなってからやろうとか考えなかったの?
なんて際限なく湧いてくる愚痴を一言にしようとした結果、うざーとしか言えない。学力に語彙力が伴わなかった悲しい結果、とか思わないでもない。


球技大会は各学年入り乱れてのトーナメント戦。勝ち上がるとそれなりに嬉しい景品付だ。
そんなわけで燃えているクラスはあるものの、うちのクラスはほどほどに楽しみましょうって空気がプンプン。
おいおい文化祭でのやる気はどうしたの、とツッコみたくもなるけれど、進学クラスってやつは運動部少なめになりがちなのだ。致し方ないだろう。

「まあまあ、そう言うなよミョウジ。男女混合バレー頑張ろうぜ!」

かく言う私は菅原の、身長ある女子バレーに入れて!の一言により、男女混合バレーに出場予定だ。

バレーとか痣とかできそうで嫌だったけれど(去年は球技大会翌日腕に痛々しい跡が出来ていたのだ)、ミョウジさんはチームに華を添えてくれればいいです。というみなさんの声もあり仕方なく出場することにした。

もっとも、去年もバレーで出てある程度活躍したので今年も多少は役に立てる自負もあった。きっと幼馴染がふたりともバレー部員だったから練習に付き合ったりしたお陰だと思われる。

「ま、担任が奢る約束してるハーゲンダッツ、菅原の分をくれるなら全力で頑張ってあげよう」

「うっわ、ミョウジひでぇ!」

「頂戴よ菅原きゅん」

「やだよ!可愛く言ってもやらない!」

各種目、同じ競技の現役部員は1人までしか入れられない決まりなので、うちのバレーのチームには菅原のみ。
とはいえ現役でさえなければいいので、中学での経験者とかを出来るだけ入れてある。

ま、セッターがいるってかなり有利でしょ。

むふふ。ハーゲンダッツ!

私は魅惑のアイスのことを考えてとりあえず目下のだるーいイベントのことも楽しむことにした。
担任、私達のこと本当によくわかってるなあ。
なんて感心するけど私達は知らなかった。ダッツの経費は文化祭の売り上げから捻出されていることを。





朝のうちに潔子のクラスに行って、お揃いの髪型にした。

潔子は素材がいいから簡単に髪をまとめるだけで勿論最強に可愛いんだけど、折角だしイベントだし写真とかとるんでしょ!ってことで私が編み込みをしてあげた。
コテとか使って巻いたりしても良かったのかもしれないけれど、潔子の清廉な雰囲気を邪魔しかねないと思ってやめた。

そんな考えも我ながらグッジョブで、潔子のクラスの男子にナイスミョウジさん!と声を掛けられたのは言うまでもない。

私はというと同じ髪型にしても茶髪だしパーマ野郎なので潔子とは全く違う仕上がり。
でも勿論可愛いし、いろんな人にいつもと雰囲気変わって可愛い!とナンパされた。
担任にすらされた。先生とデートしようって台詞結構今の世の中危ないラインだからやめなよって思った。


生徒会によって開始が宣言されてから、バレー会場の体育館へ向かおうとすると菅原も当然のように隣に並ぶ。
なんだこいつ。ほんといつもかまってくるけど、私のこと大好きかよ。

そんなことを考えた直後、菅原にはちょっとキャバ嬢にいそう。とか失礼極まりないことを言われイラっとしたので顔のホクロを連打してやった。
そんなこというやつは悪性腫瘍にしてやるぞ!と言うと、そんな決め台詞聞いたことないとツッコまれる。

「あ、西谷と田中だ!やっぱあいつらもバレーか」

廊下の先に見えたのは、あの一年コンビ。
やはりどのクラスも出来る限りクラスにいる現役部員を出してくるものなので、彼らもチームの要となるべくバレーに出場するようだった。

菅原の声に反応したのか、坊主頭がぐりんっと首を回してこちらを見た。
かと思ったら、運動部特有の元気を持て余した挨拶。

「あ、スガさん!チーッス!」

「おう!」

菅原が返すのと同時に、坊主の隣のツンツン頭がこちらを振り返った。

「はよざいます!おお!やっぱミョウジさんもバレーですか?」

ツンツン頭こと西谷は、菅原の隣の私に目を移して言う。

「うん。むさ苦しいコートに一輪の華を添えてくれと菅原が土下座するもんだからさ、仕方なくね?」

私が言うと、菅原はすかさず反論。

「誰も言ってねーべそんなこと!」

そんな菅原のことなど知らんぷりで田中はうんうんと首を振る。

「スガさん、お気持ちめっちゃわかります」
「スガさんグッジョブっス!」

と、西谷も親指を立てて菅原に満面の笑み。

「ちょ、俺は!ただ!去年も活躍してたし身長あるんだからバレーやればって言っただけ!」

そう叫ぶように言った菅原の一言など気にもとめずに、

「ミョウジさんそーいや去年もバレーで出たって言ってましたよね。バレー経験あるんすか?」

西谷は私の隣に並んだ。

うん。久々に明るい中で隣に並ぶとなんていうか、西谷はまた小さくなっているように感じた。もちろん身長が。

「ないよー?でも幼馴染がバレー部で、一緒にパス練とかしてあげたことはたくさんあるかなー?」

「幼馴染いるんですか!」

「うん。ふたり!人見知りといけすかない、可愛さのかけらもない男ふたりだけど」

「へえ。幼馴染女の子かと思いました!」

「うん。私も潔子が幼馴染に欲しかったわ!」

「俺もっス!」

くだらない話。世間話。
なんてことない話をしながら、改めて思う。

西谷の真っ直ぐな瞳。
大きな瞳を糸のように細める全力の笑顔。
大袈裟なほどの笑い声。

わかりやすいほど裏表のない、打算のない人間だ。

「西谷と当たったら容赦なくウインクしたげる」

そんな人間を相手に私は女の武器で戦おうというのだから、ひどい話だ。

「うわ、容赦ねぇっ!!」


私達が話す後ろからついてくる形となった菅原と田中は、

「なんで田中はミョウジに話しかけねーの?」

「あ、あんな美女に話しかけらんねーっス!」

「ミョウジは見た目は美女だけど中身おっさんだから大丈夫だ」

とか会話が聞こえてきたのでとりあえず菅原のホクロを連打しておいた。




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