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あー!潔子最高かよ!




「ナマエ!こんなところでどうしたの?」

その声は、涼やかに私の胸を打った。

「き、よこ……?」

階段の上から降りてきた潔子は、私を見てそれから隣の西谷に気づいたようで。小さく驚いてから私達の顔を交互に見た。

「西谷も……。もしかして2人、一緒にいたの?」

「ん?うん。まあいろいろあってね!」

西谷とこうしているのもたくさんの偶然の結果だ。本来なら潔子と過ごすはずが忙しくメイドをすることになってかと思ったら遊びに来た西谷を巻き込む形でメイド服を脱ぐこととなった。
西谷もまあ不服ではないにしろ、よく貴重な文化祭に私と過ごす選択をしたと思う。

潔子を誘う勇気がなかったにせよ、他に友達とかいるだろうに。

「そうなの……2人って、意外と仲良いよね」

そう言って潔子は目線を逸らすので、私は無性に不安になる。

「違うよ!潔子!」

「え?な、何が?」

戸惑う潔子に歩み寄り、私は両手を大袈裟に広げてからその胸に飛び込んだ。

「潔子に会いに行ったら、男の子に呼び出されていないって聞いて!心配で探してたの!」

潔子のクラスのTシャツはシンプルながらなかなか素敵なデザインで、潔子のまたいつもとは違う魅力を引き出しているようだった。

あー、潔子ちょういい匂い!最高かよ!

「心配……?」

「うん!告白だった?変なやつじゃなかった?ちゃんと断ったよね?!」

「ふふ、ナマエってば何言ってるの?呼び出されたのは委員会の話だよ」

「「え?!」」

潔子の一言に、私と西谷は同時に声を上げる。

「うん。委員会の集まる時間が変更になるから同じ学年の子に伝えてって、頼まれてただけなんだけど」

「まじすか?!いや、俺たちてっきり!」

と、西谷が驚嘆して、

「よ、よかったー!」

私は泣きそうなくらい安心する。

はあ、よかった。
私の潔子に悪い虫がつかなくて!

「西谷はナマエの付き添い?」

「は、はい!潔子さんが俺に話しかけてくれるなんて!感激っス!」

潔子からの問いを噛みしめるように瞳を閉じる西谷に、潔子は何も返さなかった。
所謂無視というやつだろう。

「……ナマエ、いい加減暑いから離れて」

「ええー?!潔子つれないよー!でもそこもいい!」

先程抱きついた時には呆れた顔で抱きしめ返してくれた筈なのだが、おそらく冷静になったのかひっぺがされてしまう。

「あ、西谷」

私を引き離して潔子は、一度は無視した西谷に目を向ける。

「は、はい!」

「ナマエに付いててくれてありがとう」

「え?潔子?」

潔子は私に背を向けて、西谷に向かって一歩近づいて小さく微笑んだのが、背中越しにも私にもわかった。

「西谷が付いててくれなかったら、多分、ナマエこんなに元気じゃなかったと思う」

そう言ったが潔子どんな表情をしていたのか、私は直接見ていない。

ただ、彼女が微笑む時の雰囲気をなんとなく感じただけだ。

けれど、

「潔子さん……」

それを受けた西谷が狼狽して表情を硬くしたことが少し意外だった。

その瞬間、なんだか2人は私がいることなんか忘れて互いの顔を見合っているので、おもしろくなくて潔子の背中にもう一度抱きついてみた。

「潔子ぉ!なんで西谷にばっか構うのー?」

抱きつくと、腕の中で潔子はビクリと震えた。
背中から抱きつかれて驚いたのだろう。もー、可愛いなあ。

「ちょ、ナマエ、重いよ」

迷惑そうに眉をひそめて首だけでこちらを見た潔子が、少し照れるように頬を赤く染める。

至近距離でその整った顔を見ていると、ドキドキしてしまうのは何も男の子だけではない。

私も案の定悩殺されたひとりだ。

だから、暫く悶絶していた私は

「ごめん西谷。ナマエ、やっぱり今日は返してね」

潔子がそう言って西谷を追い払ったことにすぐには反応出来なくて。

「……っあ、はい!お二人とも残りも楽しんでください!」

少し悲しそうに去っていくその小さな背中を、引き止めることさえできなかった。




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