碧空と向日葵 | ナノ






「なしてお前がかなちゃんとおんねん!今日は俺が誘お思っとったんじゃ、はよそこどきいや!」

「はっ、何言うとんの、私なんか一昨日から今日はかなえと出掛けようって決めとったんや!そっちこそはよかなえから離れよし!」



 私を間に挟んでぎゃいぎゃいと言い争う年上の二人に、私は苦笑いしながら溜め息を吐いた。この二人が不仲なのは、何となく分かっていた。青ちゃんは志摩さんを申と呼ぶし、志摩さんは青ちゃんのことを蛇女と呼ぶ。けれど幼なじみだから、ということも竜士くんから聞いていたので、あくまで口だけだと予想していたのだが。



(これは結構、根が深いなあ)



 困り顔を浮かべながら視線をさまよわせていると、ふと、ちょいちょいと私を呼ぶ姿が目に入った。縁側の奥で横になっているあの子は確か……廉造くん?
 ちら、と二人を窺うが、こちらにまで気が回っていないらしい。言い争う二人はそのままに、間から抜け出て呼ばれるがまま彼の方へ向かうと、廉造くんはにへら、と緩く困った顔をした。



「おはよう、廉造くん」

「おはようさんどす。……堪忍なあ、かなえさん、アレ、いつものことやから」



 廉造くんの指すアレ、とは間違いなく志摩さんと青ちゃんのことだろう。きっ、ときつい表情で青ちゃんに食いかかる志摩さんと、それに負けじときつい目つきで睨みつける青ちゃん。
 そんな二人に呆れたような疲れたような表情をする廉造くんは、今まで何度も巻き込まれているのだろう。その様子が容易に想像できて、思わず苦笑いが浮かんだ。きっと彼は、私に自分を少し重ねてしまったのだろう。ありがとう、と零したら、首を傾げられてしまったけれど。

 放っておいたら、その内落ち着きますえ。

 今まで何度もこの光景を見てきた廉造くんが言うのだから、きっとそうなのだろう。大人しく言われるがまま頷いて、縁側で靴を脱いで上がり、日陰になっている畳の上でふう、と一息吐いた。
 太陽が直接当たらないからか、室内は居心地がいい。姿勢を崩してぼんやりと外を眺めると、二人の言い争いは鎮火するどころかむしろよりヒートアップしているようだ。今すぐに殴りかかりそうな剣幕に、見ているこちらがハラハラしてしまう。すぐ隣で横になって何冊か重ねてある雑誌の内の一つを読んでいる廉造くんが苦笑しながら、手元にあった小さな椀に入っている個包装されたお煎餅を一つくれた。



「そないにハラハラしはると、かなえさんが疲れてまいますよ」

「ありがとう。……うん、それはそうなんだけど……」

「なんや、やるんか蛇女ァ!」

「やらいでか!」



 食べやすいようにお煎餅を割りながらそんなことを廉造くんと話していると、突然がっと青ちゃんの胸ぐらを掴んだ金造さんに、ギリギリと金造さんの足を踏みつけた青ちゃんが視界に入ってきた。え、ちょっと、や、やりすぎ……!さっと血の気が引く。しかしこれすら通常運転なのか、廉造くんはあーあーと呆れた声をあげるだけだ。そうこうする内にも、言い争いは更に白熱していく。このままだと、本当に殴り合いになってしまう。そう思ってしまうほどに二人の表情は鬼気迫っていて、私は「ちょ、かなえさん!?」と名前を呼ぶ廉造くんの声を背に慌てて部屋を出て靴を履いて、二人の間に飛び込んだ。



「「むぐっ!?」」

「お、終わりです……!」



 半分に割ったお煎餅を二人の開いていた口に突っ込むと、二人は突然の乱入者にピタッと動きを止める。それに満足して、私はふ、と笑みを漏らして、まるで子供に言い聞かせるように口にしていた。



「せっかくいい天気ですし、怪我なんかしたらもったいないですよ。青ちゃんも、そんな顔しないで、ね?」



 口に突っ込まれたお煎餅をバリバリと食べていた志摩さんとくわえたまま硬直していた青ちゃんは私をまじまじと見ていたが、ややしてお互い目を見合わせて、仕方ないなあと言いたげな顔で頷いてくれた。不満はありありと顔に浮かんでいるが、とにかく今は喧嘩が止まっただけで万々歳だ。ほっと息を吐いてから、ちょっと待っててくださいね、と二人に断って廉造くんの元へ小走りで向かう(志摩さんが「廉造おったんか」なんて言ったのが聞こえた)。



「廉造くん、お煎餅ありがとう。おかげで助かりました」

「えっ、あ、ああはいそれはええんですけど……かなえさん勇者やねぇ……」

「ん?」

「(無意識……。)あー、こっちの話ですわ。ほな、いってらっしゃい」



 曖昧に笑った廉造くんがひらひらと手を振ってくれたので、言葉の意味を聞き返すタイミングを逃したまま彼に手を振り返しながら炎天下待っていてくれている二人が再び喧嘩を始めてしまう前に戻る。私を間に挟んだまま睨み合う二人に戸惑いながら、あとで廉造くんにアイスでも買ってきてあげようかなあとぼんやり考えるのだった。



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20130711
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