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 扉が完全に閉まった途端、どっと押し寄せてくる疲労感。あの人との空間はどうしてこんなに精神力を消費するのだろうか。
 溜め息をつきながら、露店へと向かった。リンゴの詰まった箱が並んだ店を見つけて近寄ると、店主は顔を上げてわたしを認識すると、罰が悪そうに顔をしかめる。



「あぁ、あんたか。さっきは悪かったな。あいつ、あんたのツレなんだろ?」

「知ってらしたんですか?」

「一瞬だけど、一緒に歩いてんのを見たからな。あいつの髪もだが、あんたの髪もなかなか目立つ」



 なるほどと頷く。確かにティアのような茶色よりは、目につく色ではあるだろう。個人的には、彼女の優しい色合いはむしろ羨ましいのだけれども。



「先ほどの件はこちらにも十分に否がありますから、お気になさらないでください。それより、リンゴを一つ、いただきたいんですが」



 どこぞの大佐のせいで、喉はからからだった。
 店主はにぃと笑って、差し出したお代と交換にわたしに大きめのリンゴを差し出す。艶やかな赤い果実はにたまらず即座にかぶりつくと、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がって喉を潤してくれる。
 いいリンゴですねと言うと、店主は自慢のリンゴだからなとからからと笑い、紙袋を寄越した。中には、美しいリンゴが五つ。



「さっきの詫びだ。ツレの奴らとでも食っとくれよ」

「あら、本当にいいんですか?」

「あぁ、とびっきりの奴入れといたからな。よく味わって食べてくれよ?」

「ええ、美味しくいただきますね」



 にこやかな店主に頭を下げてから、宿屋へと向かう。そういえば二人きりで先に帰らせてしまったが、喧嘩などしていないだろうか。……してるだろうなぁ、絶対。
 容易に想像できてしまった光景に苦笑しながら、宿を目指す。

 そんな考え事をしていたから、気付くのが一拍遅れてしまったのだ。


 体に何かがぶつかる感覚。
 小さな体が曲がり角から突っ込んできたのがと理解したわたしは、咄嗟にその体を庇うように自らの方へ引き寄せて尻餅をつく。リンゴが入った紙袋が地面へ落ちて、ころころと赤い実が散乱する。



「はわわわ、す、すみませんっ!!」



 小さな体の正体は、ツインテールにした黒髪とくりくりした大きな団栗眼が特徴的な少女だった。ピンク色の見慣れない隊服に身を包んだ彼女は、慌ててまたがっていたわたしの体から降りる。特にけがもないようだ。
 よかったと安心して自分も立ち上がり、背中についた砂をはたいて落とす。



「大丈夫。あなたもどこか捻ったりしていない?」

「はい、大丈夫ですー!って、はわわ、リンゴがぁ!」



 さっとしゃがみこんでリンゴを拾う少女にならって、自分も足元に転がるそれらを拾う。うん、どうやら多少傷がついただけで済んだようだ。紙袋も拾い上げて彼女が拾ってくれた分も合わせて入れる。
 五つちゃんと入っているのを確認しながら、その中から二つ程傷の少ないものを選ぶ。それを、彼女の小さな手のひらに握らせた。



「ほえ?」

「拾ってくれたお礼よ。小さな導師守護役さん」

「うえっ!?どーしてそれを!」



 慌てる彼女に小さく笑いながら、先ほどローズさん宅を出る時の導師さまの言葉を思いだす。
 二つ結びにした黒髪に、ピンクの服。まさしく、導師さまが言っていた導師守護役の子に違いないだろう。



「導師さまにお願いされてたのよ。見つけたら、ローズさんのお宅にいるって伝えてくれってね。その様子だと、もうあの人の居場所は知っていたみたいだけど」

「も〜イオン様ったらぁ!あっ、じゃあ、イオン様ちゃんとローズさんの家にいるんですね!?」

「ええ。さあほら、あの性格悪い大佐殿に嫌みを言われる前に戻った方がいいわ」



 ね、と笑いかけると、彼女は確かにと頷いてツインテールを揺らしながら走っていく。と思ったら、五歩ほどするとくるりとこちらを振り向いて、リンゴを抱えていない空いた方の手を振った。



「わたし、アニス・タトリンです!またどっかで会ったら声かけてくださぁい!」



 カーティス大佐の嫌みがそれ程嫌なのか、こちらの名前も聞かずに駆けていく彼女にいつかの面影が重なって、笑いがこぼれた。



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導師守護役との出会い。

20130205 加筆
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