オルカ・オルカ | ナノ






「そういや渚、これどうしたんだ?」

 水泳部を新規設立するにあたっての屋上会議。早速話が進み、部長がマコちゃん、副部長がハルちゃんに決まった。ちなみに僕は会計。ハルちゃんは部長っていう柄ではないし、やっぱり部長は最高学年がいいと思うから、ちょうど良いんじゃないかな。マコちゃんは世話焼きさんだし、部長、ってのも良く似合う。
 それから顧問の先生を探さなくっちゃいけないんだけど、もう見当はつけてある。ハルちゃんとマコちゃんの担任の天方先生――天ちゃんだ。クラスの子からとある噂を聞いてから、顧問は天ちゃんしかいないな、と決めていた。まだ許可は取ってないんだけど、きっとどうにかなるだろう。
 さて、それでこれからその天ちゃんを説得……しに行かなきゃいけないんだけど、腹が減ってはなんとやら。という事で、今は戦の前の腹ごしらえ中。購買で買ったパンを食べながら、これからどうするかを(九割九分マコちゃんと)話し合っていると、ふいにマコちゃんから冒頭の質問が投げかけられたのである。
 マコちゃんが差すこれ、とは僕の手元にある部活動申請書だ。

「流石マコちゃん、お目が高い。実はこれ、つーちゃん先輩にもらってきたんだ」
「つー先輩?」
「マコちゃんもよく知ってるでしょ。安土先輩!」

 僕から出た名前に、ええっ!? と大げさな反応をして飛び上がるマコちゃんに思わずくすくすと笑った。あまりに予想通りの反応だったんだもん。

「それからね、これもくれたんだよ」

 ポケットに入れておいたメモをマコちゃんに手渡す。部活動申請をする上で必要な事柄が箇条書きで分かりやすく纏められているそれは、きっとマコちゃんの良く知っている筆跡だ。
 マコちゃんがメモを読んでいる横で、ハルちゃんは我関せずと言った風にひたすらお弁当の白米を食べている。これは僕の予想だけど、きっとハルちゃんは誰からこの申請書を手に入れたかとか全部分かってたんだろうなあ、なんて。確証はないけど、自信はある。なんてったってハルちゃんだもん。同意を求めるようにハルちゃんを見たら、ふい、とそらされてしまったけれど。
 素直じゃないハルちゃんにへらっと微笑んでからマコちゃんに視線を戻すと、ふと、手元のメモに視線を落としていたマコちゃんの目元がふにゃりと緩んだ。普段から優しげな垂れ気味の目元が、更に溶ける。その光景はなんだか、ついさっきのつーちゃん先輩を彷彿とさせた。

 職員室で助け舟を出してくれた時、すぐに部活動を作りたいっていうのが嘘だって分かった。明確な理由はないけど、なんとなく、雰囲気で。強いて言えば、どこか上の空な気がしたのだ。だからこの先輩から申請書をもらおう、とその時から思っていた。いらないものはもらってしまおう精神だ。それに間を空けずに二回も呼び出しを食らってしまった手前、職員室にはほんのちょっぴり行きにくい。
 それで今日、運良く購買の前で見つけたつーちゃん先輩に声をかけて、早速お願いをした。そこで、そう、部活動にマコちゃんと、それからハルちゃんがいるか尋ねられたのだ。
 だから僕は、ハルちゃんたちとまた水泳が出来る喜びのまま素直に頷いたのだけど。

 ――そっか。

 たった一言だった。たった一言ぽつりと零れた言葉が、慈しみを飽和させていた。細められた瞳が、あまりにも優しかった。困ったように垂れた眉毛が、印象的だった。
 ああ、この人はマコちゃんが大好きなんだなあ。
 気付いてしまった事実は、胸の真ん中にすとんと落ちてきた。職員室で嘘だと気付いた理由だって、そこでようやく分かったんだ。僕は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。だって、大好きなマコちゃんをこんなに大好きでいてくれる人がいるんだもん。それってすごい事だと思わない?
 だからあんまりにも嬉しくって、つーちゃん先輩なんて呼んじゃったりしたんだよね。

「(しかし、ついにマコちゃんにも春が来ましたかあ)」

 そう思うと、ついついにやけてしまう。小学生の頃からずーっとハルちゃんに付きっきりだったあのマコちゃんにと思うと、なんとも感無量だ。マコちゃんが幸せになってくれたら嬉しいなぁ、なんて思いながら、僕はよし、と気合いを入れて立ち上がる。
 お弁当も食べ終わったし、何はともあれまずは水泳部を設立しなくっちゃ! 周囲に溢れるたくさんの嬉しさに頬を緩めながら、逸る気持ちのまま未だお弁当をつつくのんびりやの先輩たち二人を急かした。


所詮世界はイチゴ味


 水泳部が出来たら、つーちゃん先輩にも教えてあげなくっちゃ!


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20130801
201906 加筆


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