きらきらプリズム | ナノ






 海常高校バスケ部。キセキの世代と呼ばれるオレの他にも粒ぞろいな新入生たちも入部した神奈川の強豪は今日も普段と変わらぬ厳しい練習を終え、へたへたの部員たちは一部を除いて皆一様に帰宅の支度をする。その中ユニフォームのままきょろきょろと何かを探している様子の小堀先輩に気が付いて、そちら視線を向ける。何を探してんだろう。同じく彼に気が付いたらしい笠松先輩が、背中に手を置いて声をかけた。



「おい小堀、何探してんだよ」

「あぁ、ちょっと今日は待ってるヤツがいてな。これから自主練してくって言っとかないと」

「女の子がいたのか!?」

「森山……」



 いつの間に近付いて来ていたのか、謎の気迫を纏ってずい、と身を乗り出す森山先輩に笠松先輩が呆れたような顔をする。それにはは、と曖昧に笑った小堀先輩がくるりとこちらを向いた。ん?と首を傾げると、名前を呼ばれたのでそちらへ向かう。



「オレの幼なじみがさ、同い年のレギュラーでモデルだぞって言ったら見にくるっつってて。良かったら仲良くしてやってくれな」



 笑いながら背中をぽん、と叩いた小堀先輩に反して、オレは心中穏やかではなかった。靄付いた不透明な気持ちが、心を覆う。純粋に自分を応援してくれる声は、本当に嬉しい。しかし中には少なからず、モデルという商品価値にしか興味のない人間もいるから。これから来るのもきっとモデルという肩書きに目が眩んだ人物だろうと、薄暗い先入観を抱いた。
 曖昧に笑うオレに、小堀先輩が首を傾げる。ああ、どうにかごまかさなくちゃ。オレがどう思おうと、小堀先輩の幼なじみには変わりないのだから。どうやって誤魔化すか思案していると、突然それは現れた。



「っしょ!やった出れた!」

「……ん?」

「あっ!」



 黄色い声を割って、体育館に飛び出してきた小さな体。真っ直ぐにこちらに駆けてきたそれは、小堀先輩の背中へ飛びついた。



「浩ちゃん!」

「おっと!……あー、やっぱりあの中に埋まってたか」

「窒息しそうになったよ!……へへ、お疲れさま浩ちゃん!練習ちょっとしか見えなかったけど、でもかっこよかったよ!」



 小堀先輩におんぶし直して貰いながら労いの言葉をかける平均身長よりもいくらか小柄な女の子に、オレは目を丸くした。笠松先輩たち三年生は彼女を知っているらしく、森山先輩なんかは「なんだ実晴ちゃんか」とやや残念そうにしている。展開に付いていけず困惑しているこちらに気がついたらしい先輩はよいしょ、と女の子を支え直しながら苦笑いして、肩に手を置く彼女に視線を向けた。



「ほら実晴、これがオレが言ってた黄瀬だよ。挨拶できるか?」

「うん!」



 女の子がこちらを向いた。子供のような真ん丸い目がこちらを映す。ただそれだけなのに、どうしてかうろたえてしまったのは何故だろう。



「えーっとこんばんは、海常一年の鈴木実晴です!浩ちゃんとは物心ついた頃からずっと幼なじみで……んで、彼女二年目です!」

「……へ?」



 に、と笑ってピースサインをした彼女の言葉に驚いて、目を丸くして小堀先輩に視線を向ける。先輩は照れくさそうに頬を染めながら、実はな、と笑っている。彼女!?と声を上げた早川先輩を笠松先輩がど突いているが、それどころじゃない。
 彼女が他の男に会いたいって言ってるのに、あっさり受け入れちゃうの?信じられないものを見る目で小堀先輩を見ると、小堀先輩におんぶされている彼女さんがうん、と一つ頷いた。



「やっぱり、浩ちゃんが一番かっこいいね!」



 落ちないように肩をぎゅっと握っていた鈴木さんが、小堀先輩の首に抱きついた。予想外の台詞に硬直していると、森山先輩がにやにやしながらオレの肩に手を置く。ふられたな、黄瀬。
 別に自惚れていた訳じゃない(嘘、ちょっとだけ自惚れてたかもしれない)。ただここまであっさりと言ってのけたのは、中学時代の桃色の女の子くらいで。ついさっきまでの先入観が急に恥ずかしくなって俯いてしまったオレの肩を、未だにやにやした森山先輩が慰めるようにもう一度ぽん、と叩いた。



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20130330
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