雑多短編 | ナノ

(宮地と年下彼女)




 やだやだ、と柔らかい髪をばさばさと激しく揺らしながら首を左右に振る彼女の手首を、平均よりも大きな手で無理やり壁に押し付けた。涙と冷や汗と他汚いものでぐしゃぐしゃになっている彼女の顔はお世辞にもかわいらしいとは言い難いが、どうしてだかこんなにも愛らしい。
 涙を目に溜めた雪奈はじっとこちらを睨むように見上げながら、唇を噛んでいる。あーあー、そんなにしたら傷付くぞ、ただでさえお前冬は唇が荒れるだの切れて痛いだのと騒ぐんだから。そんなことを脳の端っこで考えたが、口にすることはない。オレの声帯は震えず、ただ静かに呼吸を繰り返すだけだ。
 そんなオレに痺れを切らした雪奈は、頬を涙で濡らしながら吠えるように口を開く。



「……宮地先輩の、ばか!私のことなんにも分かってない!わ、私だって寂しいし、怖いし、何でとか思うし!……こ、こんなでも怒るし、泣くし、めんどくさい、し、」

「おう」

「こ、こんなとこ、み、宮地せんぱいには見られたくなかったのに、嫌われたく、ない、からあ……!」



 だんだんと尻すぼみになる声に相槌をうっていくと、威嚇するように持ち上がっていた眉尻が、八の字になるように下がる。なに、お前そんなにオレに嫌われたくなかったの。ついには俯いてしまった雪奈に問いかけると、こくんと小さく頷いた。
 雪奈とは反対に、ゆるゆるとつり上がる口角。我ながら歪んだ性格をしているなとは思う。はぁ、と肺に溜まったどろどろの気持ちを吐き出すように息を吐き、彼女の手首から手を離してついには子供のように泣きじゃくりはじめてしまった雪奈の背中へ腕を回して引き寄せた。頭一つ分以上小さな雪奈が、すっぽりと収まる。泣くな泣くな、と自分が泣かせたくせに理不尽なことを言いながら震える背を撫でる。



「あのさ、お前がオレのこと好きで知られたくないように、オレはお前を知りたいんだよ」

「な、にそれぇ……!」

「嫌いになんかなんねーよ。つーかなれねぇし、そんなんじゃ。だからさぁ、……もうちょいさらけ出してみません?」



 いつも、何か言いたげな雪奈に苛立っていた。宮地先輩好きです、とへにゃりと笑いながらばかみたいに言うくせに、我がままも負の感情もこちらには一切見せない雪奈が嫌だった。その一線が、うざったくて仕方なかったのだ。
 ぽんぽんと頭を撫でながら言い聞かせるように言うと、雪奈は顔をまたぐしゃぐしゃにしてえんえんと泣きながら、それでもこくこくと頷いた。雪奈の涙やらなんやらが、じわりじわりと染み込んでくる。他のやつだったら汚ねぇ、と殴ってやるところだが、今はその分だけオレたちを隔てていた壁が溶けていくような気がして、むしろ満足感すら感じながら受け入れる。ぎゅう、と服を握ってくる小さな手が、愛おしくて仕方なかった。



依存症




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久しぶりにタイトル先行で書き始めたものの、着地点を見失った気がします。何故。

20130224

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