※藤にょアシで吸血鬼パラレル











『一緒に、来るか?』





――その日は昼に雨が降ったからか、じめじめと生ぬるい空気が夜の街に漂っていて、折角自由に動ける夜なのに最悪だと機嫌が悪かった。

そして兄貴の山蔵に吸血鬼の一族の跡取りとして早く伴侶を取れだのもう少し自覚を持てだのと耳にタコができる程説教を聞かされた後で。

それでもいつもみたいに適当に誰かの血ぃ吸って終わり、だと思っていた。


―――けれど。


「…うぇくっ…ふっ」


真夜中の人気も何も無い静かな公園のベンチ。

――座り込んで泣いているのは、女の子だった。

女子にしては短めの黒髪に年はたぶん小学校中学年くらいだろう。
…普段だったら、面倒はごめんだからと見ない振りをするはずなのに、何故か立ち去る事が出来ない。
何があったのか、悲しそうに切なそうに、胸のつかえを吐き出すようにボロボロ涙を流すこの子供が――。


綺麗だと、思った。


「おい」

「………え?」


気づいて無かったとばかりに目を見開くその子の頭に手を伸ばして落ち着けるように頭を撫でてやると、ちょっと安心したのかさっきまで止まらなかった嗚咽が引っ込んだ。


「…なんかあったのか?」


まるで顔見知りのような口調だが、実際物凄い年下だしこの性格だし、仕方ない。
でも気にしたふうも無いみたいに、その子は泣きすぎて掠れてしまった声で言葉を紡いだ。


「……お父さんと、お母さん、事故で、いなくなっちゃった。…妹も、遠い親戚のとこ、いっちゃって……

ひとりぼっちに、なっちゃった……っ」


ぽろぽろ ぽろぽろ。

まるで数珠のように次から次へと透明な雫が大きな目から零れ落ちる。

やっぱり、それはとても綺麗で――欲しいと思ってしまった。
…いや、別にそういう趣味な訳じゃない。
今まで吸血鬼ってやつの特性とやらで結構若い体のまま何十年も生きてはいるが同じ一族の中ではまだ若い方だし。だから別にロリコンとかそんなんじゃねぇと思う。…たぶん。

ちょっと逸れた思考を振り切るように小さく咳払いをした後、その子に向かい合うように地面に片膝をついた。そのまま手を伸ばして涙に濡れた頬に触れる。

「一緒に、来るか?俺と」

「………お兄ちゃんと?」

こくんと頷いてやればぴたりと涙が止まる。
いきなり見ず知らずの奴にこんなこと言われたって困るだろう。でも嫌がられても連れて行きたいって思うのは確かで。…けどそんな事しちまったら俺は本当の変態だ。……どうする?

「お兄ちゃんは、僕置いて、死んじゃったりしない…?」

「……!」

戸惑うと思ってた目は違う色を宿して俺を見つめていた。

――不安、小さな希望、そして縋るような何か。

思わず両手でその体を抱き寄せる。抵抗が無いのに安堵しながら、目を合わせて笑ってやった。

「死なねぇよ、これでも普通の人よりは長生きなんだ」

「…ほんと?お兄ちゃんといたら、僕もう独りぼっちじゃなくていいの?」

「ああ。…なあ、お前名前は?」

「あしたば、いく………お兄ちゃんは?」

「俺は―――――」









ーーーー……………







「…今思えばさ、麓介君って本当に犯罪スレスレだったよね…」

「ぶっ?!」

「だって、まだ小さい僕を嫁にするって連れて来た時は真剣でぶった斬ろうと思ったってこの前山蔵さんが言ってたし」

「…あいつな…っ」



あれから何年たったのか。



藤の屋敷の無駄に広い俺の部屋で茶菓子を用意しながら楽しそうに笑う、まだ17くらいのその女は俺の嫁で。

――あの日一緒に連れてきた女の子だ。

あの後小さな郁を連れてきて、とりあえずそばに置く為に年を待って嫁にすると言った時は山蔵に殺されるかと思ったが、郁の素直で意外と賢い性格が気に入られ、よくわからないが俺が郁にだけは甘いという事で今に至る。
因みに郁は中卒で、中学を卒業して一年たってから正式に俺と籍を入れた。


ついでに言えば、俺はあの日からあまり変わって無い。



「最初は麓介君が神様か何かだと思ってたよ僕。実際の年はどうであれ見た目はあの時10以上離れてたし」

「郁、お前な……。
…吸血鬼なんだから仕方ねぇだろ、ちょっとだけ見た目は変えられても寿命は違うんだし」

まあ、今は伴侶として血を分け与えた事で郁も人よりは寿命が長いけど。


「うん、初めて血吸われた時は痛かったなあ…」

「う」

眉をしかめれば郁は嘘だよ嘘とクスクス笑って俺の横に腰を下ろす。あの日から髪型も何も変わらないが、やっぱり女らしくなった……と、思う。


「でも、やっぱり僕、麓介君に見つけてもらって良かった。僕、昔から気が弱くてあの頃からパシられたりとかしてたし…」
「いや、そこは普通俺と結婚出来たしとかそういうのだろ」

「あ、うん」

…くそ。流石に十何年も一緒にいればこうして抱き寄せたって照れも何も無い。たまに恥ずかしがったりはするが、最近は俺ばっかなような…。………まさかこれがカカア天下ってやつか……?!

「麓介君、なんか失礼なこと考えて無いよね」
「いや別に」
「即答が怪しい……」

ああ、やっぱりなんか手強くなった。

「ただお前本当に恥ずかしがらなくなったってさ」

「……だって」

ふわりと、花が咲くみたいに郁が笑う。


あの時は綺麗に泣く姿に惹かれたけど、今はこっちの顔が一番好きだ。
愛しいとか好きだとか大好きだとか、そんな言葉じゃ足りない。
ずっとずっと、恋を解る年になるのを待ってたんだ。


「恥ずかしがってたら、伝わらない事もあるでしょ?」

「ああ」

ぎゅうっと首に両腕を回して引っ付いてきた最愛の嫁をきつくきつく抱き返して、俺も笑った。






《表せないことば》
(郁、血吸っていいか?)(…このムードでよく言えるよね麓介君)

end




*あとがき

百合様リクの藤にょアシで吸血鬼パロディの源氏計画でした!
兎鞠が大好きな系統のリク内容だったのでノリノリで書かせて頂きましたが……どうでしたでしょうか?
なんか藤が本当にろりこんですみませんでした…!
でも素晴らしいですよね年の差…っ

では、百合さまリクエストありがとうございました!



    兎鞠まな

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