あなたたちは知らない


翼兎と羽積/翼兎幼少期/裏話?










あれは、いつだったろう。
確か翼兎がまだ9才のころだった気がするな。


一人親の家庭でよくあるあの質問をぶつけられたんだっけ。



「……はづみー」

「翼兎、おかえりー…って、どうした?!」


表口、つまり喫茶店の入り口から入って来た翼兎は今までで二番目くらいに涙目だった。あんまり泣かない翼兎が珍しくて、思わず目を見開いて駆け寄る。お客さんが丁度いなくて助かった…!!

「…う"ー……!」

いや、涙堪えてる代わりに鼻水出てるから。
どうせなら涙にしてよ…!

「おれ、お荷物なんだって、言われたあ…っ
おれ、はづみの幸せ取りたくねぇよぉ…」

どうせ活深の人間だろう、……たまにいるんだよな。翼兎に悪知恵やら何やら吹き込んで来るアホが。

「翼兎、ほら」

ふわり、とちょっと重くなった翼兎の身体を抱きしめて、笑った。

「は、はづみ…っ?!」

「俺は翼兎を荷物だなんて思って無い。寧ろ今じゃ翼兎がいないと寂しいよ」

「…ほんとか?」

「うん、俺はな翼兎のお母さんしか人が好きじゃなかったから」

「?」

首を傾げる翼兎に苦笑しながら頭を撫でる。


本当の事だ。

俺は人を好きになることが無かった。興味を持つのさえ面倒だった。

人付き合いだって、人生に必要だからやってるだけで実際は特別な存在なんて姉さん以外いなかった。
姉さんは三人しか大切にしないと言ったが、俺は姉さんしかいらないと思ってたから。離れても、大切なのはずっと姉さんだけ。



――けれど、姉さんがいなくなって翼兎と暮らしてからその考えは捨ててしまった。
気が付けばくだらないと思っていた自分に気付いたから。


今も、未来も、きっとこの子が俺の支えだ。


「翼兎、だいすきだよ。
だから、変に気にしなくたっていいんだ。何があったって俺が翼兎が好きってことに何の変わりも無いんだからね」

「うぅ…」



また潤みだした翼兎に笑いかけながら、俺はふと空を見上げる。視界の端に映った自分の銀髪に、ふと考えがよぎった。
そういえば、姉さんは昔不思議な事を言ってた――


(いつか…羽積に、あげる)




「羽に、翼…」
「?」
「いや、似た名前だからついね」


……真実はわからない。

もしかしたら、わざと似たような名前にしたのかもしれないし単なる勘ぐりかもしれない。



――だけど、姉さん、これだけ言うよ。



………翼兎を産んでくれて、ありがとう。







ーーーーーー



「翼兎?……いい名前だね」


「でしょう?
ふふふ、この子はねぇプレゼントなのよ」

「プレゼント?」

「物とは思っていないけど、なんとなく解ったの。この子はまだ産まれてないけれどきっと羽積の大切になるって」

「だから、翼って文字をいれたんだ。…四季ちゃんやサラサちゃんが聞いたらまたエスパーって言われるね」

「ふふっ………まあ、いつか羽積は気づくかもしれないけどね。………ね、翼兎」












『いつか羽積に、翼をあげる。あなたが私以外に大切に想える、大切な翼を』









end

















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