――知らなくていいんだよ。君は、知らなくていいの。








「んで。どーすんのまっつんよ」
「ねー、どうしようね薫ちゃん」

へらへらと笑いながら学校を抜け出した後。しばらくその空気のまま路地裏を歩いていたが、ふと、日野瀬の目が剣呑そうに曇った。同時に足も止まる。

「―――で、犬吾の護衛は?」
ずんっと声のトーンが落ちる。ああ、日野瀬ってこの性格の使い分けが凄いな。

「翼先輩と桐生が影からやってくれてるー」

「早くケリつけろよ、俺は強姦に萌は感じ無いんだ」

「はいはい」

「―しかし、まさか松川の“本命”がそんなに価値あるとは思わなかったぜ。どんだけ恨みかってんのアンタ」

「ん―…中学時代の黒歴史?」

「何故疑問系」


―犬吾と恋人になれて、幸せを噛みしめる暇もなくやってきた問題は結構大変なものだった。

何処から漏れたのか俺に恨み持ってるアホな連中が犬吾を狙っているというベタな状況に加え、なんか厄介な奴が犬吾に手を出そうとしているという噂も流れてる…らしい。…いやあ、もう死んじゃいたい…というかみんな殺りたいね!うん。
護衛は翼兎先輩と、チームの子に犬吾に気づかせないように付いてもらっているけど、いつバレるかわからない。だから早くケリを付けられるように、犬吾を置いて日野瀬とこうして抜け出してんだけど――


「ああああ犬吾不足で俺しんじゃう!」
「ベタ発言来たコレっ!!」

だってね!さっきまでのシリアス雰囲気と俺のヘラヘライメージをぶち壊すけど、俺と犬吾一線越えたんだよ!?
普通もうちょっと何かあるんじゃないの?
幸野先生とか後付けキャラなんかいらんっての!

「松川最近俺に似てきたよな」
「え、腐って無いよ。あと何で筒抜けてんの」
「いや…なんか萌えに対する何かがさ。あとこれは腐男子が持つ腐男子の為のスキルで名付けて「もう喋んなくていいよ日野瀬」

しみじみじゃなくニヤニヤしてる日野瀬をバッサリ切り捨てて、伸ばしっぱなしの前髪をゴムでまとめる。
ほら、これから殴り合いが始まる訳だし、邪魔でしょ?

「そういえば日野瀬さ―、最近なんか雰囲気違くない?」
「………ノンケって、脆いものですよね!」
「意味わかんなーい」

「まさか本当にリバになるとか思わなかった」とか「ゆっちゃんは神様」だとかなんとか言ってる日野瀬が訳わかんなくて首を傾げる。そして、ふと後ろを振り返るとぞろぞろと見知らぬヤンキーみたいなのがこっちを睨んでた。あ―、群れとかホント嫌いだわ俺。


…いつの間にか囲まれてたなんて言わない。
おびき寄せるのに、わざわざ来てあげたんだから。

「さて、行きますか」

じり、と足を踏み出して、嗤う。






犬吾、イチャラブの為に俺、頑張ります。










《続く》



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