『ゆっちゃん、なくなよ』
『かおる…やだ、おれ、やだよ』
『おとなのくせにー……だいじょうぶだって、ゆっちゃん!おれとゆっちゃんのゆーじょーはえいえんだかんな!』
『うん…かおる、だいすき』











気が付けば不良。
気が付けば成績だけは一番。

そして、

気が付けば腐男子でした。









街は華やかなクリスマスムードなある冬の日。
親戚の集まりだかでホテルに泊まっていたが、俺はあまり面白くなかった。
親戚は不良不良五月蠅いし。
せっかく犬吾と松川のおかげで締め切り間に合ったのにこのせいでコミケ行けなかったし。まあ本は間に合ったからいいんだけどよ。

あんな大人共の戯れ言聞くくらいならBLサイト巡った方がマシだっつーの!
という訳で宴会抜け出してロビーのソファに座って携帯を弄る。
あ、因みにちゃんと年齢制限は守ってて、まだ15禁しか見てません。いやいやホントだよ?
……って、今日はお気に入りのサイト更新されてる…よっしゃあ!

ニヤニヤしそうになる頬を引き締めるのももうスキルの一つだ。
そんな時。


「……かおる?」

「あ?」

急に見知らぬ男に名前を呼ばれ振り返ると、そこには長身の茶髪の奴が、俺をガン見というか、…見下ろしていた。
美味しいことに、美形。
そしてどちらかといえば受けだな。うん。


「あ―…知り合い?」

「…幼なじみの、美済 柚葵(ミズミ ユズキ)」

ゆずき…って、はあ??!!

「―――ゆっちゃん!?」

「…!うん」

ふわりと笑うその笑顔に昔一緒に遊んだ従兄弟のお兄さんの面影が重なる。そうだ、この人は昔俺とよく遊んでくれた柚葵兄ちゃんもとい、ゆっちゃんだったんだ!
口下手で内気だけど、面倒見が良くて優しい兄ちゃんだったのを覚えている。
何年も前に、イタリアに留学してからめっきり会っていなかったから、正直よくわからなかった……。


「かおる、かおる」
「ん?」
「それ、好き、なのか?」
「………って、げぇぇぇっ!?」

ゆっちゃんが指を指しているのは俺の携帯、というか携帯に移る二次元やおい画像。勿論公式ものだ。いやいや、今はそれはいいとして!

「ゆ、ゆっちゃん、あのよ」

ああああああっ
俺のバッカヤロウ!!
つい気が緩んで家用の待ち受けのまんまで来ちまった……っ




やばい。絶対引かれ―――




「それ、おれ、原作やった」


「――――はい?」
ポカーンとまるで漫画みたいなリアクションになってしまうが仕方ない。それ程にゆっちゃんが穏やかな笑顔で告げた言葉は衝撃的だったんだ。


「ゆ、ゆっちゃん、わんもあぷりーず」

「その絵、おれ、原作やったやつ。売れ行き、良かったから、……春、漫画、連載やるよ」

え、うそうそやべぇ嬉しい………じゃねぇ!


「く、く、く」

「かおる?」

「黒百合 薔薇子さんですか!!??」


俺が崇拝する小説家――黒百合 薔薇子さん。
BLに止まらずNLの小説も数多く出版している大人気の天才若手小説家兼シナリオライターで、特にBL作品の支持が高く人気で、俺のこの待ち受けのイラストの漫画『M様と脇役平凡!〜すぺくたくる☆学園らいふ〜』は最近読み切りで雑誌に載ったにも関わらずもう熱狂的なファンがいる。因みに俺もその一人。まさか、まさか、ゆっちゃんがそうだったなんて…!!

「うん、…毒々しい、名前、インパクトある、から」
「あ、でも一応確認」
「かく、にん?」
「M様が主人公に言った初対面のセリフは!?」

「『俺を踏みつけるがいいそこの平凡』」


ドンピシャ!

「サインください…!嫁に来てください…っ!」
「…今度……家、来る?
前の、作品、ドラマCD出た、声優さんのサイン、あげる」
「ゆっちゃああああん!!!」

嬉しさのあまりにゆっちゃんに抱きつく俺。
周りが引いている。そりゃあ不良な見た目の俺がぼうっとしてゆっちゃんに抱きついてればビビるよな。うん。


――ゆっちゃんがBLいけたとか、作家だったとか色々あって驚いたけど、でも。



会えた嬉しさも勿論あって。





「あ、そういえば、ゆっちゃん何才だっけか?」
「25さい、あと、五年で……荒さん、なる」
「アラサーね、アラサー」

荒さんて誰だ。荒さんて。


「…かおる、また、遊んでくれる?俺、と、一緒に」

「おう!腐男子不良の神髄をみせてやるぜっ!」

友情のハグをする俺とゆっちゃん。


しかし、俺は、いずれ。




友情では無いハグとかほにゃららを、ゆっちゃんと交わす事になってしまうのだが、それはまた別の話である。





(薫に、やっと会えるように、なったから、俺ここにきたんだ)
end


美済 柚葵
みずみ ゆずき

25才にして小説家。
PNは黒百合 薔薇子
デビューしたのは20歳のころで、腐男子。
バリバリ年齢制限有りな作品も書く、顔は出さない性別不明の世界を飛び回る、若手の人気作家さん。

実は幼少期から薫一筋。
海外暮らしが長いので、日本語が常にしどろもどろ。
度々海外に行くので日本語に慣れることは無い。

天然ぽやぽや不思議一途。



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